鬼ごっこ~あのこがほしい~

三日月

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暁の宮、宵の宮 3

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京一郎と雅が出て行った扉。
黒曜は、雅が戻ってくるのを待つために。
そこから視線は外さず、食卓の椅子に腰をかけようとして動きを止めた。

リビングのソファーの上に、姿を現す侵入者からの嘲笑。

「執着も、度が過ぎるとひかれんで」

渋々振り向き、黒曜は目を細めた。

「何用だ」

リアンが毎朝送り込んでいた元一角は、この場にはいない。
雅が嫁となることを引き受けた日から、黒曜が完全に閉め出していた。
自分や雅の心に壁を作り、赤い瞳からも隔離。
瑠璃丸のように、力を抑えることはせず。
はじまりの鬼として、すでに人間に認知されていたことを利用している。

「飢えも無くなり、強気やな?」

二体が、互いに冷めた瞳で睨みあったのは一瞬。
黒曜は視線を逸らし。
自らその前に歩み寄り、両膝を折った。

「王と事を構える気は無い。
俺が望むのは、嫁の平穏、子を成すことだ」
「お前の嫁、な。
アレが京ちゃんにいろいろ言い過ぎて、こっちは構えられてどうもやりにくい。
鬼がつるむとロクな結果は生まんな」

瑠璃丸は、黒曜の言葉に目を細め。
無造作に、目の前の何も無い空間に腕を伸ばした。
宙をかく一瞬で、その手に王冠が掴まれていた。

鈍く光る金色の王冠は、歴史を感じさせる風化色。
細かな彫刻の施されたその隙間には、所々に赤色の石がはめ込まれてた。
瑠璃丸はソファーに深く腰を下ろしたまま。
それを頭上に戴き、跪く黒曜を見下ろす。

「大王の最期も聴かずに、オレが王であることを認めるのだな」

低く囁く声には、憐憫さえ含まれている。
長い時間、人間の手により拘束されていた同胞。
再会したときに感じた、苛立ちも。
別れの前の、内側から這い出る猛り狂った怒りも。
今はまるで無くなっている。

「認めよう」

穏やかに語るその言葉に、偽りは無い。
黒曜はその手に、常葉色の装飾が施された剣鞘に納まった黒剣を出し。
両指で剣鞘を支えると、自分の頭上より高く掲げ。
俯いたまま、瑠璃丸に向かって剣を捧げた。
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