4 / 7
2 廃墟の城が社員寮で通勤経路で職場な件
しおりを挟む
地下室の出入り口は、縦が2m、横1m長方形の厚さ20cmの石で蓋されている。
そこに向かうには、寝室を出て、全然幅が均等でもなく、平行も取られていないガタガタな石の階段を昇るしかない。
使用人アリッサを後ろに控えさせ、暗闇の中を進んでいく。
アリッサを連れているのは、私ではこの分厚すぎて大きすぎる石の板を動かせないからだ。
そう、私は肉体派魔族ではない。
アリッサは、まぁ、鍵、みたいなものかな。
「ルリアール様、行ってらっしゃいませ」
石の板を片手で軽々持ち上げたまま、深々と頭を下げて見送るアリッサ。
石の板をくぐり抜け、私一人だけで夕暮れの廃墟へと上がる。
顔色の悪い少女に無表情で見送られる・・・これは、ルリアールには日常ではあるけれど。
優奈にとっては、新鮮で嬉しい見送りだった。
一人で出掛け、一人で帰りつく。
十年以上、その単調な繰り返しだったから。
思わず振り返り、笑顔で手を振り返してしまった。
「行ってきます」
頭をあげたアリッサと目が合い、無言の無表情でガタガタ震えられてしまった。
手にしていた石の板から、パラバラ破片や上面に乗っていた小石やよくわからないものまで落ちている。
そ、そこまで、動揺させる気はなかったのに。
優奈モードは、ルリアールにしたらかなりヤバイ領域?
気紛れじゃ通じないの?
うん、いや、でも。
今更無かったことには出来ないし、これも気紛れと言うことにしてもらおう。
なんの弁明もせずに歩き出す。
昨日までは得られなかった、ほわほわ温かい気持ちを胸に私は足取り軽く職場へ向かう。
今なら、忘年会で無理矢理踊らされたアイドルのダンスだって、足がもたつき苦笑いで誤魔化さず、完コピで踊れそう!
なんといっても、このルリアールの身体は魔族年齢16歳。
地下室が住居のせいか、父方の血のなせる業か、透けるように白い肌も、母譲りの黒髪もなんの手入れもしていないのに艶々。
身体を洗っていないのに、不潔な匂いもフケもかゆみもないとか。
気分的に今は洗いたくて仕方ないんだけれど、便利だわ。
優奈にも欲しかった機能。
シャワー浴びてる時間分、寝れるしっ、寝れるしっっ、寝れるしっっっ
人間年齢と単純比較していいかは、まぁ、悩むところだけれど。
比較するなら、年齢は優奈の約半分なのに、胸は倍以上あり、手足なんて比べ物にならないくらいすらっとしている。
優奈にこの容姿があれば、芸能界・・・いや、労働契約が所属事務所格差もあるしパス。
入社する前に見抜けない落とし穴にまたはまり、過労死エンドになりそう。
私には、事前に職場環境を見抜く目はない。
定時もなさそうだし、収入安定してなさそうだし。
容姿が面接に効果があるなら、公務員関係に是非捩じ込んで貰うのに使いたいかな。
今向かっている私の職場は、先代魔王様の寝室だ。
王座の間の奥にある小部屋。
今は、現魔王様の引きこも・・・は、不敬罪か。
大切にされている私室になっている。
私が使っている地下室からそこまでは・・・優奈の足でも、何もなければ10分くらいの距離にある。
魔王の幹部と呼ばれているメンバーでは、一番近い通勤距離だ。
でも、デコボコの床に、穴だらけの壁、たまに床材が吹き飛ばされていたり、なにかの骨やなにかの残りが散らばっているから足場はかなり悪い。
たまに、悪臭で鼻がもげそうになる。
しかも、風化や魔族同士の小競り合い、じゃれ合い、おいかけっこでより酷くなることはあっても良くはならない。
流石に壁が倒壊して道を塞いだときには、アリッサや他の魔族に撤去を依頼した。
ずっとあれこれが放置されたままの廃墟の城。
いつ、どこが崩れて誰が死んでもおかしくない危険な通勤経路であり、社員寮。
労働環境も大切だけど、職場に着くまでに命を実際落とした魔族だっている。
勝手に寝泊まりしている部屋で、床が抜けて負傷なんて日常茶飯事だ。
中には、周囲の森で寝泊まりしている魔族もいるにはいるけれど・・・運悪く迷い込んだ人間に殺されたり、追いかけ回されたり、リスクがゼロではない。
でも、この廃墟と森以外、他に住む場所がない。
そう思ってしまった魔族しかここにはいない。
私だって、経路が無いからこの転んでもおかしくないガタガタな廊下の成れの果てを進むしかない。
だからこその、この木靴。
革靴より、まっすぐ歩けるのだ。
まぁ、通勤手段として、徒歩以外の選択肢はあるにはあるんだけれど・・・まぁ、今は徒歩で。
8割破壊された城には、戦闘の爪跡が至るところに残っている。
魔族対人間、この二つの種族の長きに渡る戦いに、中立の立場にいた天族と龍族が参戦。
どちらも急に人間側についたため、均衡は呆気なく崩れ、大敗を期するまではあっという間だった。
私はまだ魔族年齢六歳くらい。
殆ど、というか、ほぼ覚えていない。
幹部だった母親が最後の戦に出向くとき、あの地下室に私を隠して行ったのだ。
床材の一部に溶け込む外観と強固な魔法により、全てが終わっても誰にも気付いて貰えなかったというオチまでついている。
後から助けに来る筈だった誰かが亡くなってしまったのか、その誰かには助けに来る気が初めからなかったのか。
まぁ、多分後者じゃないかなと穿った見方をしてしまうわね。
その誰かが、予想通りならば。
私は何も知らずに、母が残した食糧を少しずつ減らしながら母の迎えをひたすら待って。
そして。
いつか王子様が、ではなく、今の魔王様に助け出された。
今の魔王様。
つまりは、この落ちぶれまくった魔王軍残党のトップ。
私の上司、社長様。
そこに向かうには、寝室を出て、全然幅が均等でもなく、平行も取られていないガタガタな石の階段を昇るしかない。
使用人アリッサを後ろに控えさせ、暗闇の中を進んでいく。
アリッサを連れているのは、私ではこの分厚すぎて大きすぎる石の板を動かせないからだ。
そう、私は肉体派魔族ではない。
アリッサは、まぁ、鍵、みたいなものかな。
「ルリアール様、行ってらっしゃいませ」
石の板を片手で軽々持ち上げたまま、深々と頭を下げて見送るアリッサ。
石の板をくぐり抜け、私一人だけで夕暮れの廃墟へと上がる。
顔色の悪い少女に無表情で見送られる・・・これは、ルリアールには日常ではあるけれど。
優奈にとっては、新鮮で嬉しい見送りだった。
一人で出掛け、一人で帰りつく。
十年以上、その単調な繰り返しだったから。
思わず振り返り、笑顔で手を振り返してしまった。
「行ってきます」
頭をあげたアリッサと目が合い、無言の無表情でガタガタ震えられてしまった。
手にしていた石の板から、パラバラ破片や上面に乗っていた小石やよくわからないものまで落ちている。
そ、そこまで、動揺させる気はなかったのに。
優奈モードは、ルリアールにしたらかなりヤバイ領域?
気紛れじゃ通じないの?
うん、いや、でも。
今更無かったことには出来ないし、これも気紛れと言うことにしてもらおう。
なんの弁明もせずに歩き出す。
昨日までは得られなかった、ほわほわ温かい気持ちを胸に私は足取り軽く職場へ向かう。
今なら、忘年会で無理矢理踊らされたアイドルのダンスだって、足がもたつき苦笑いで誤魔化さず、完コピで踊れそう!
なんといっても、このルリアールの身体は魔族年齢16歳。
地下室が住居のせいか、父方の血のなせる業か、透けるように白い肌も、母譲りの黒髪もなんの手入れもしていないのに艶々。
身体を洗っていないのに、不潔な匂いもフケもかゆみもないとか。
気分的に今は洗いたくて仕方ないんだけれど、便利だわ。
優奈にも欲しかった機能。
シャワー浴びてる時間分、寝れるしっ、寝れるしっっ、寝れるしっっっ
人間年齢と単純比較していいかは、まぁ、悩むところだけれど。
比較するなら、年齢は優奈の約半分なのに、胸は倍以上あり、手足なんて比べ物にならないくらいすらっとしている。
優奈にこの容姿があれば、芸能界・・・いや、労働契約が所属事務所格差もあるしパス。
入社する前に見抜けない落とし穴にまたはまり、過労死エンドになりそう。
私には、事前に職場環境を見抜く目はない。
定時もなさそうだし、収入安定してなさそうだし。
容姿が面接に効果があるなら、公務員関係に是非捩じ込んで貰うのに使いたいかな。
今向かっている私の職場は、先代魔王様の寝室だ。
王座の間の奥にある小部屋。
今は、現魔王様の引きこも・・・は、不敬罪か。
大切にされている私室になっている。
私が使っている地下室からそこまでは・・・優奈の足でも、何もなければ10分くらいの距離にある。
魔王の幹部と呼ばれているメンバーでは、一番近い通勤距離だ。
でも、デコボコの床に、穴だらけの壁、たまに床材が吹き飛ばされていたり、なにかの骨やなにかの残りが散らばっているから足場はかなり悪い。
たまに、悪臭で鼻がもげそうになる。
しかも、風化や魔族同士の小競り合い、じゃれ合い、おいかけっこでより酷くなることはあっても良くはならない。
流石に壁が倒壊して道を塞いだときには、アリッサや他の魔族に撤去を依頼した。
ずっとあれこれが放置されたままの廃墟の城。
いつ、どこが崩れて誰が死んでもおかしくない危険な通勤経路であり、社員寮。
労働環境も大切だけど、職場に着くまでに命を実際落とした魔族だっている。
勝手に寝泊まりしている部屋で、床が抜けて負傷なんて日常茶飯事だ。
中には、周囲の森で寝泊まりしている魔族もいるにはいるけれど・・・運悪く迷い込んだ人間に殺されたり、追いかけ回されたり、リスクがゼロではない。
でも、この廃墟と森以外、他に住む場所がない。
そう思ってしまった魔族しかここにはいない。
私だって、経路が無いからこの転んでもおかしくないガタガタな廊下の成れの果てを進むしかない。
だからこその、この木靴。
革靴より、まっすぐ歩けるのだ。
まぁ、通勤手段として、徒歩以外の選択肢はあるにはあるんだけれど・・・まぁ、今は徒歩で。
8割破壊された城には、戦闘の爪跡が至るところに残っている。
魔族対人間、この二つの種族の長きに渡る戦いに、中立の立場にいた天族と龍族が参戦。
どちらも急に人間側についたため、均衡は呆気なく崩れ、大敗を期するまではあっという間だった。
私はまだ魔族年齢六歳くらい。
殆ど、というか、ほぼ覚えていない。
幹部だった母親が最後の戦に出向くとき、あの地下室に私を隠して行ったのだ。
床材の一部に溶け込む外観と強固な魔法により、全てが終わっても誰にも気付いて貰えなかったというオチまでついている。
後から助けに来る筈だった誰かが亡くなってしまったのか、その誰かには助けに来る気が初めからなかったのか。
まぁ、多分後者じゃないかなと穿った見方をしてしまうわね。
その誰かが、予想通りならば。
私は何も知らずに、母が残した食糧を少しずつ減らしながら母の迎えをひたすら待って。
そして。
いつか王子様が、ではなく、今の魔王様に助け出された。
今の魔王様。
つまりは、この落ちぶれまくった魔王軍残党のトップ。
私の上司、社長様。
0
あなたにおすすめの小説
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる