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戦に暗殺はつきものだ。
今回のターゲットは、悪政を牛耳るこの国の宰相、グレイ・ノーマン。
年は30前半といったところか、金髪のまだ若い小綺麗な男だ。富も権力も持ち合わせて尚、どうして道を踏み外したのだろう。
まぁ、俺にはどうでもいい話だけど。
目の前で驚いたように口をパクパクさせているターゲットと思われる人物と出くわす。運がいい。
奴隷売買に横領、口封じの殺し、娯楽の誘拐、あんたは恨まれて当然の行いをした。まぁ、俺が相手でよかったな。せめて安らかに殺してやるよ。
「く、くるなっ」
怯えた表情の男の前に素早く移動して、剣を向けたその時だった。
「やめろ‥これは王命である」
部屋の奥のベッドルームだろうか。
静かに低い男の声が聞こえて、ゆっくりとそちらに視線をやる。
最初から気配はしていた。長い銀の髪と青い瞳の神々しい男。
この国の王族の象徴だ。
宰相の功績を祝うパーティをわざわざ開き、その上会場にも出向かず、半裸の姿で宰相と二人きりでベッドルームか‥そういえば宰相の服もどこか乱れている。宰相の悪事に何も口を出さない王様。なんだかこの国の裏事情が読めてきた気がするよ。
王命には逆らえないな。なんて、
暗殺者には王命などなんの意味もなさない。だって死人に口無しだから。欲しいものは金と平凡な暮らしだけだ。
この暗殺が終わればたんまりと報酬が入る。今までの貯金も合わせると、数十年働かなくてものんびりと暮らせるだろう。
どこか国はずれの村にでも訪れて、そこで農民として暮らすのもいい。これが終われば、俺は平和でいられる。これが終われば‥
「やっと、見つけたぞ‥」
宰相の首元に狙いを定めようとした時だった。デジャブ。同じ黒いフードの男がガツガツと開いた扉から入ってくる。その腕の中にはぐったりと力のない銀髪の子供の姿があった。
あれは確か同期の‥名前は何だったか‥。話しかけてもいつも愛想無く、ひとりで淡々と任務をこなすようなそんな奴だった。それよりも、子どもはターゲット名簿に書いていないはずだが‥気絶させて保護でもしたのだろうか?
俺は力を抜いて、なんだかどうでもよくなった。別に誰が殺しても報酬は変わらないし。なら、この男、いや正確には少年に任せればいい。
「そっち終わったの‥?ちょうどいいや、面倒だからお前が殺して。俺はボスに知らせを‥」
「っない、と‥」
え?っと反応をする間に俺と宰相の横を通りすぎる同期。
俺はポカンと口を開けたまま一瞬固まった。こいつ、まさか名簿リストを見ていないのか‥?馬鹿な奴だな。ボスは間違えには厳しいのに。誤って殺すとその分後始末の仕事が増える。そのせいでボスの手を煩わせて、仕置きで大変な目に合った奴を何人も見た。腕の一つや二つは確実に無くなるだろう。同期のよしみだ。可哀想だから、教えてやるか。
「?おい?そっちじゃない、宰相は金髪の方だ。おい!その銀髪はターゲットじゃねえって」
「さ、ない、と‥
ッ殺さっないとっ!?母さんの仇だっ!!このクソッタレ王めえええ!?うおおおおっ!?」
「ッは?まてーー!?」
手を翳した時にはもう遅くて、
「ぐ、が‥」
「っひいい!?王様っ、王様がぁっ!?」
荒い息で狂気的に笑う黒フードと、口から血を流す王の姿。宰相は腰を抜かせてガクガクと地面で震えている。
やっちまった。最悪だ。急な展開すぎて頭が追いつかない。私的な理由で王族殺しかよ。ボスに殺されるぞお前。いや、それに止められなかった俺も‥まずいなこれは‥。
‥刺された場所は右胸か。まだ助かるだろか?
「あ″はは‥やっと、やっとだ!このチャンスをどれだけ待ったことかッ、この変態野郎がッ俺の母さんを攫って、手篭めにしたくせにッそれなのにっ、母さんが病気になったら次は母さんと俺を捨てやがってッ!?いい気味だな!?はは、急所は外したよ‥ただ、ゆっくりと死ねるように猛毒を塗っているから安心して苦しめよ」
ふわりと奴のフードが外れて、その髪色が顕になる。俺は目を丸くした。イカれ同期の容姿はこの国で2人しかいないはずの、銀の髪色と青の目をしていたからだ。
そう、この国ナリア王国の唯一の国王、目の前で虫の息のレゴール3世と、その息子であるロイルと同じ王族の血筋であることの象徴。
「まじかよ‥」
俺は、予期せぬ展開に頭を抱えたくなる。他人の復讐劇に運悪く巻き込まれた。それも王族ときた。
偽装でも数年組織にいた暗殺者が猛毒というぐらいだ。このキツい匂いはナラクの花の猛毒か。解毒剤は無い代物だ。
苦しみもがく体力も無くなったのか、レゴール3世はぐったりとその体を動かさなくなった。間違いなくここで死ぬだろう。そしたら、その後は?この目の前の復讐者が国を継ぐのか?
宰相を殺したとてこの任務は明らかな失敗。なんせ一国の王を殺したのだから。国が変わるだろう。民への支持も必要になってくる。失敗した俺は、目撃者である俺は、いったいボスから、いやこの国から逃げ切れるのか?笑える。同期だぞ、いつも隠している顔は組織では丸裸だ。手配書を作られてどこまでも追われるだろう。道はひとつ。亡命してまた地獄の底のような場所でこき使われて過ごすしかない。
あぁ、ついていない。どうしてこう運の悪いことが‥これで最後だったはずなのに。俺ののんびりライフの夢もここで終わりなのか?
「ほら、見ろ‥起きろッお前の親父はなぁ、見目の良い若い人間が大好きなんだよ‥そいつらを自分のコレクションのように扱って、いらなくなったら無惨に壊して捨てる。最低野郎なんだよおっ!?」
「ゔっ、」
王の頭を踏んづけて、気絶した子どもの前髪を掴んでは大きく揺らす同期。
「はぁ‥頭が痛い。おい、お前もういいだろ‥やめろ‥」
俺は何度か制止の声をかけるが、まるで耳に入っちゃいない。
あの容姿と話を聞くに、王族同士の争いだ。きっとあの子どもは見せしめに殺されるだろう。だけど、そこまで痛めつけなくてもいいじゃないか。
どうしても子どもを起こしたいのか、ガキの背中を殴ったり、頬を強い力で叩いている。苦しそうに歪められた表情が昔の自分と重なって、眉を顰めた。
「てめえ!?くそがっ!?良い加減に起きろッ!?、え?ぐっ、が」
「俺、やめろって何度も言ったよな」
はい、手刀
「な、に」
しつこいんだよ。あとうるさい。
「安心しろ気絶するツボを殴って‥いや、押しただけだから。っ、と‥あぶね‥」
同期が倒れた拍子に、
俺はぐったりとする子どもを受け止めてそのまま抱き上げる。銀髪‥間違いない。この子どもはレゴリー3世の唯一の息子、王太子ロイルだろう。所々に傷はあるが、息は安定している。俺はほっと胸を撫で下ろした。
正直、イライラしていたし同期を殴ったことで少し頭も気持ちもスッキリした。そうだよ、この出来事をボスに報告すれば俺だけでも助からないだろうか?組織内で匿ってくれるだけでいい。仕事だって今日を終えれば辞めるつもりだったけど‥生きるためなら仕方ない。頼まれればやる。転々と拠点を変えるんだ、いつか安全な場所が見つかるまで、安心できる住処があれば怯えずに生きていけるから。
今後のことを色々と考えながら、ひいと大きな叫び声をあげ続けている宰相の前に再び戻ると、その首を容赦なく切り落とす。
とにかく、
お仕事完了っと‥。
「んん‥」
ふいに肩口で身動きする気配があって、俺は嫌な予感がして深いため息をついた。
「っ、父、上‥?そん、な‥父上ええええッ!?!?」
静かになった途端にこだまする子どもの叫び声。
頭が痛い。喚くな。次から次へとなんなんだ。
「っ!?ひ、血?お前、が、?お前が父上を殺したのかっ!?やだ!離せッ!触るなぁああ」
「はぁ‥るせえな‥」
傍に抱えたガキが喚き散らす。
そうだった。こいつどうしよう。
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