【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

海月 ぴけ

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この手を掴んで 完

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「ぐっ、はや、かわ‥」


意識の底に沈んでいた俺を引き戻すように、大好きな人の声が耳に届いた。

一瞬、ここは天国か?なんて思ってしまう。だけど目を開けた瞬間、眩しい光と冷たい風が肌を打ち、それが現実なのだと叩きつけられた。


「‥え」

見上げると、俺の手を掴むスナがいて、俺は目を見開く。
顰めた顔は苦しそうで、腕は震え今にもちぎれてしまいそうだ。


「絶対に、離すなよ‥」


額から滴った汗が俺の頬に落ちた瞬間、心臓が大きく跳ねる。これは天国なんかじゃない。本当に、スナが俺を引き止めてくれているんだ。

「スナ!?なん、で‥」

「ぐっ、くそ‥」

歯を食いしばりながら俺を引き上げようとするスナ。
けれど強風が何度も吹き荒れ、足場の土がぱらぱらと崩れていく。だめだ、このままじゃ、スナまでっ


「っ、もういいから!スナ離して!」

焦りで喉が張り裂けそうになる。今すぐこの手を振り払わなければっ、スナまで巻き込んでしまうッ
俺はすぐさま腕を離そうと力をこめる。だけもその前にスナがさらに強く俺の手を握った。

「いや、だ‥」

「スナッ、このままじゃふたりとも死ぬぞッ!?いいから離せ!?」

「、離すぐれえならッ、俺も一緒に飛び込んで死ぬ!!」

「っな‥」

胸の奥がまたぐらりと揺れる。
何言ってんだよお前はっ。
スナは、俺なんかよりずっと大事な人と一緒に生きていけるはずなのに。
俺のせいで、
‥俺なんかのために、命を懸けるなよっ。

「せっかく八谷(はちや)と結ばれたんだろ!それなのに俺が邪魔してどうするんだよ!惨めなんだよもう‥。お前は優しすぎるんだ‥だから、頼むから、俺を見捨ててくれよ!」

俺は叫んでいた。必死で自分を見捨ててくれと。そうスナに懇願する。

喉が焼けるように熱くなって、震えが唇まで伝う。これでいいんだ。これで、やっとーー。

俺はゆっくりとまた目を瞑る。


だけど、


返ってきたのは俺が想像もしなかった言葉だった。

「早川がいねえなら、こんな人生どうだっていいッ」


時間が一瞬止まったように感じて、俺はすぐに目と口を開く。


「なっ、は?!馬鹿じゃねえの!?」

「馬鹿じゃねえ!俺は早川が好きだからーー!」

「‥


へ‥」

信じられなくて、声が震えた。今のはなんだ?俺の気のせいか?
こんな状態で幻聴でも聞いて現実逃避してるってか。

そんな言葉、ずっと欲しかった言葉をさ、なんで今言うかなぁ‥聞いた瞬間、胸が締め付けられて、泣きそうで、それも全部嘘だと頭が警告音を出している。分かってる‥俺を助けるための嘘だって分かってるけど、どうしようもなく、嬉しいんだよ‥

矛盾した感情に身体が引き裂かれそうだ。嬉しさが先に来て、次に恐怖が顔を出す。掴む手に力が入って、スナの指の体温が、いつもより熱く感じられた。

「あ‥れ、俺‥今、‥っ、あぁ、くそっ!?なんでこんなに、恋愛ってのはっ、うまくいかねえんだ、よ!?くそがぁっ」

「スナ‥もう、やめろ、って‥ッ、手から血が、でてるっ、スナ!!もういいから!お願い‥離して!?」

滴る赤が俺とスナの手を結ぶ。
必死で叫ぶ俺に、ふと、スナは息を切らしながら笑った。

「は、‥離す‥?‥なら、一緒に死ぬか?」

「スナ‥?」

俺はスナから目が逸らせなくなる。強情で、不器用で、でも俺のことを真っ直ぐに見てくるその目が、本気だとそう言っているように思えた。

「なぁ、早川‥はぁ、お前、ここ来た時に、俺に、言ってくれたよな‥は、」

「な、に」

呼吸が速くなる。記憶の端が鮮やかに蘇り、なんでもない場所が特別になる瞬間を俺は思い出していた。

「絶対に‥俺を助けるって‥」

「っ、」

それはきっと初めて勇気を出した日の話。
初めて、スナの手を握ったあの日のこと。

覚えてて、くれたのか?

「はは、‥たぶんさ、‥あの日から俺、早川のこと、


好きだったんだーー。」


その告白は唐突だった。

俺は何度も瞬きして、それが現実かどうか確かめようとする。

笑いながらこぼすスナの言葉。恥ずかしそうに少し困ったように笑うから、俺はどうしようもない気持ちになって、胸が急激に熱くなっていくのを感じた。

言葉が空気に溶け、灰色に染まった世界が鮮やかになっていく。


「俺の手を掴めーー早川っ!!」

怒鳴るようなスナの声に、身体が反応して手に力が戻る。とっさの動きで、足を踏ん張る感覚が戻って、心臓が早鐘のように脈打った。

「っ、スナ!」

叫びながら、俺はその手を握り返す。痛みも恐怖もあったけれど、それ以上に確かな答えが今ここにあって。その温度を離すまいと、俺は必死で両の手をスナに預ける。



「、っ!早川ーー。あと少しっ!」

「っ、うん!」


登れる。そう思った時だった。
また、ぶわりと強い風が吹いて、次は2人同時に投げ出される。

俺はそんな絶望的な中でスナが俺を見て笑ったのが分かった。

ぎゅっと抱きしめられて、俺はその温もりを抱きしめ返す。

スナ‥俺は、あの時よりもずっと前からスナのことーー。



「あっっ、ぶな‥」

「ギリギリ‥セーフやね‥」

「何してんの2人とも!?死にたいの?!馬鹿なの?!」


どさりと音がして、身体が地面に打ち付けられた感覚がした。俺は恐る恐る目を開ける。
そこには尻餅をついて、焦っているような表情をした夏樹と鈴鹿の姿があって、俺は目を丸くした。

あれ?助かった、のか‥?
瞬時に腕の中のスナの存在を確かめる。俺を力強く抱きしめながら、荒い呼吸をするスナが確かにいた。

引き上げられた?2人に?
俺たち、生きてる‥?

俺はがくりと力が抜けていくのを感じた。
途端に目頭が熱くなる。

「お前ら‥ナイスタイミングだ‥はぁ、もう少しで心中するとこだったわ。」

「なに、いってんだよぉ‥ふ、グスッ‥おまっ、お前っ死ぬところだったんだぞぉ‥ふえ」

「泣くなよ‥なぁ、早川、


俺お前のことが好きだわ。」

何ともないようにそう言うスナに俺の涙腺は崩壊した。

「っ、それ、今言うことじゃ‥ねえ、だろ‥ぅゔ‥うそ、‥つきぃ」

「嘘じゃねえ‥この世界の何よりも好きだ。

愛してるーー。」

「ッ、ふ、う‥スナなんか‥だいきらいだ‥」

俺は、抑えが効かなくなって、目の前のスナの唇に自らのそれを口付ける。

「んっ、‥くそ‥馬鹿‥お前、言ってることとやってることが真逆だっての‥、なぁ、それだけか?もうしねえのか?」

「馬鹿だぁ‥」

「しばくぞ‥」



「はぁ‥何でこのふたりは崖っぷちで死にそうになりながらキスしてんの‥」

「知らないよ‥死がふたりを分かつ時まで、一緒にいろってことじゃない?」

「夏樹、えらいロマンチックやね‥」

「うるさいよ鈴鹿。でもまぁ‥死んでも一緒にいたいなんて、案外ふたりとも運命的にお似合いなんじゃない?」

「ヤンデレとメンヘラってか‥確かに‥こりゃ、最初から俺らなんか論外やったってことやな。後であそこに隠れてる八谷を慰めに行こな。」

「やだよ。俺は新しい運命の人を探すからパス。」

「なんやそれ‥まぁ、俺も前に進めっちゅうことやな。言うても、羨ましいもんやな、なんかあの2人。幸せそうやーー。」




「お前と死ぬまで一緒にいる。」

「っ、」

目の前で夢みたいにスナの真剣な顔が俺を見つめていて、俺はもう観念してその体に抱きついた。

「だから、逃げたら死ぬまで追いかけてやる」

「こえぇよお!!」

ふいに耳元で呟かれるそんな言葉に俺は叫ぶ。
だけど、とてつもなく心は満たされていて。

「もう一度言うからさっさと返事しろ。
好きだ、早川

世界で一番、愛してるーー。」

目の前で微笑むスナに俺はめいいっぱいの笑顔を送った。

あぁ、俺今日‥世界で一番幸せかもしれない。もう夢でも何でもいい。夢ならどうか醒めないで。

「っ、ぐすっ、俺も好き。スナが大好き。ずっと、一緒にいないと、俺が殺すからっ」

「ぷっ、はは、お前の方が怖えって!あぁ、まかせろ!」

「うん‥!」


俺達はどちらからでもなく、待ち望んでいたかのようにゆっくりと唇を合わせた。

奇跡みたいな人。宝物みたいな人。
好きな人の1番になりたかった。
側にいたくて、でもそれは叶わないって思い込んで。

たくさん悩んで、たくさん泣いて

それでも自分の想いよりも何よりも、いつもただ君の幸せが続くことを願った。

諦めようと何度もしたのに、
傷だらけの心で離れては、また磁石みたいにひっつく。

自分の気持ちを大切にして。自分の想いを信じて。勇気を出したら、
そこにあるものを掴もう。

そして、俺達は恋をするーー。




君の隣にいよう。ーー

お前の側にいよう。ーー



死がふたりを別つまでーー。




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「恋した君は別の誰かが好きだから」~完~
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