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第6章 選択編
繋がる心
しおりを挟む心臓が、止まりそうだ。
あの時、ちゃんと聞こえていたのか、
ラシルが肩口から頭を上げる。
赤い目が俺を射抜いて、俺の言葉を待っている。なんて言えばいい。
最後の言葉のつもりだった。
最後の言葉で、別れの言葉で、俺の気持ちーー
言えば楽になる。
心が救われるかもしれない。
ラシルも俺を側に置く口実として、もしかしたら受け入れてくれたりなんかして‥そんな、この世界で望んでいた未来が見つかるかもしれない‥。
だけど、それを言ってしまったら、光はどうなる?
喜一は?裏切るのか?
ーー許さないッそんなの‥絶対ダメだッ
ふと意識が遠退く。
あぁ、この身体はもう‥
「ッゔ‥はぁ、くそ、。‥あぁ、そうだな。あの時、確かにそう言ったよ。お前の事が‥好きだ。今でもその気持ちは変わらない‥」
先ほどとは違う意識がハッキリとする。
やっと戻ったか。
「っサルッ」
先程まで熱かった胸が急激に冷めて、俺は冷たい口調で言い放った。
「家族としてーーお前を愛してる」
「ッーー」
勘違いさせてはいけない。突き放さないと誰も前に進めない。
もっとも‥進みたくないのは俺なのかもしれないけれど‥。
「分かったなら、帰れ。ここはお前が来ていい場所じゃない。」
「‥」
「約束を破った事は悪かった。でももう俺達は大人なんだよラシル。いつまでもお前の側には居られないし、お互い自由に生きなきゃ損じゃねえか。な?分かってくれるだろ?何年も一緒にいたんだ。お前の事は忘れないし、たまに会いに行く。これからは良い友人として付き合っていけばい‥ぐぁッーーー!?」
な、に
「うる、せぇ‥黙れ‥」
首を絞めるラシルの指先が、喉の骨を押さえつけて息が出来ない。
おいおいまたか‥この狂犬め‥。
半端ない力で首を絞められてまじでやばい。ついに、俺っち‥殺されるのかしら‥なんて。無抵抗なわけにはいかない。
人を傷つけてばっかで最低な奴だから、こんな終わり方‥仕方ないんだろうけど
それでも生きたいから‥ごめんな、
抵抗させてもらうよ。
「なん、の、つも、り、だ‥っ、ゔ」
「コロス‥コロシテヤル」
「はな、せッ!」
俺はラシルの鳩尾に向かって、蹴りを放とうと構える。
刹那、俯いていたラシルがガバッと顔を上げて
「コロシテヤルッ!!!」
「ッ、」
俺は唖然とした。
ボロボロと零れ落ちる滴。
苦しみに飲まれたその表情は、痛々しくて見ていられない。
今首を絞められ殺されかけている俺よりも、こいつの方が先に死んでしまいそうだ。
あのラシルが泣いている。
あの鬼畜な男が、だ。
頭の中でボコボコと水が湧き出すような感覚がする。
ふと、
どうしてこの男はそこまで自分に執着するのか疑問に思った。
ずっとガキのわがままだと思っていた。
俺はただの高校生で
ちょっと野球ができて、
みんなに迷惑かけて、
最後は病気で死んで
何も無いのに。空っぽなのに。
空っぽ‥
あぁ
そっか
空っぽの心を‥こいつが
ラシルがーー
満たしてくれたんだったーーー
ざわついていた心が、静かに穏やかに形を取り戻していく。
もしかして、お前もなのか‥?
潤んだ赤が、光を失ったその瞳が、死の直前に見た鏡の中の俺と重なる。
お前もあの日‥初めて会ったあの日。俺みたいに空っぽで
だから俺、ほっとけなくて
お前を守って
こいつを幸せにしてやりたいって
あれ、俺‥
「あ‥ご、めん‥ごめんッ、ラシ、ルッ、‥なか、ない、で‥」
俺は震える手を必死で伸ばして、
彼の頬の涙を拭う。
心の中で分離していたものが、ガチャリと引っ付く音がした。
なんだよ、馬鹿だな俺。
ちゃんと、繋がってた。
そうだよ。俺は一つ。
野球少年な地球の光で
この鬼畜な悪党の下っ端
サルファーだーーー。
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