村人Aだけど文句ある?

花村 ネズリ

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第1章

怒り

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リ「ご、ごめんにゃ~!!どうしようグレグレ!!リズっち怒っちゃった!!」



怯えたようにグレンに抱きつく盗賊女


わざとらしい言葉と猫なで声に、
私は拳を握りしめる。





我慢よ‥我慢するのよリズ‥

目に映る砕けた心水晶。

痛いくらいの悲しみが、心臓を締め付けた。




『貴方は私の力を受け継いでいる‥その力はとても素晴らしいものよ。でもね、その反面、その力はとても恐ろしくて、人を傷つけてしまうの
ーーーリズ〝怒りを優しさで隠すの。そうすれば、きっとーーー』




私の手を握る母の手を、その言葉を思い出す。

そうだったわね、母さん。



深呼吸して呼吸を整える。
大丈夫、私はこれくらいなんともない







グレ「リズ‥?大丈夫?」




暴れる2人を止めようとしていたグレンが、
私の様子に気がついて駆け寄ってきてくれる。



私は家族のために‥
優しさをーー



「うん、平気よ。」



リ「なっ!?‥チッ、」



私はそんなグレンに笑ってみせると、
盗賊女が驚いたように目を見開く。


グレンはこれから旅に出るんだ
心配させてはだめ




「さ、虫はいなかったでしょ?はあ、こんなに店を滅茶苦茶にして‥営業妨害よお客さん‥」



私は心水晶の欠片を拾いながら、大きな声でわざとらしい溜息をつく。


「食事もこれじゃあ食べられないわね‥グレン、悪いけど、他で食べてきて」


さあ、もう充分でしょ?
早く出て行ってちょうだい。


リ「‥。」



グレ「あ、ああ‥分かった。片付け、店に案内したら、手伝う‥待ってて。本当に‥ごめんね‥。」


「うん。ありがと。でも、折角お客さんがいるんだから、ゆっくりしてきなさい。」


グレ「リズ‥でも」

「ほら、早く行って?」


グレ「‥分かった‥ほら皆んな、いくよ」




歩き出すグレン。
しぶしぶとその後をついていく一行に、
私は再度溜息をつく。




これで、やっと1人になれる。




私は、片付けを始めようと、破れた大皿に手を伸ばす。



その刹那、



白い蛇が
天井から丸太をつたって、
私の足元へと降りてきた。



私は手を止め、その白蛇に問いかける。




「シャーク?どうしたの?こんな時間に珍しいわね?」


このこの名はシャーク。
いつのまにかこの家に住み着いた蛇。
いつも森へ遊びに行っては、この家に帰ってくる。


寂しい時はいつも一緒にいてくれた可愛い家族。




だけど、いつも夕食前にくるこの子が、
こんな昼間にどうして‥


シャーーーー


私が拾おうとしていた大皿を、威嚇するようにシャークが鳴く。



「‥ッどうしたの?このお皿に‥なに、か‥?
‥?紫の‥花‥、これっーー」



破れた皿の裏に、よく見ると紫の花弁が、大量に貼り付けられていて、

その異様な光景に驚く。

この世界中、どこを探しても、この色をした花は一つだけだ。
猛毒を持つ毒花、殺花ーーー
 



少し触れただけで、全身をその毒で焼きただらせ、じわじわと命を奪う。


その苦しみは、
死にたくなるほどのもの




まさかッ




「これは、どういうことよ!?」


私は出て行こうとしていた一行の1人に向かって叫んだ。


盗賊女ーーあんた、私をーー



グレ「‥?リズ?」

リ「ッチ!いやああ!蛇!!!」



「ッ!!」


私に向かって飛んでくる短剣。
一瞬の事で動けなかった私は、
目の前に迫ってくる切っ先に目をギュッとつむる



グレ「ッリズ!!!」




私を呼ぶ声。


本当についてないわね私

ああ、でも最後に聞けたのが、
貴方の声で



よかった









シャーー!!







グサリと嫌な音がして、
目をそっと開ける






「っ、シャーク!?ーー」






口を大きく開けたシャークの口と首を裂くように突き刺さる短剣。



シャークは、身体をだらりと垂らし、
動かない。




シンと静まりかえる酒場内。




「シャーク!シャーク!!!
‥どう、して‥。
なに、よ、こ、れ‥どうしてよッ!!!!」


私の叫び声だけが響いた。




リ「ご、ごめんなさいにゃ‥大蛇に家族を食べられたからアタイ‥アタイッうわあああん!!」

グレ「そう、だったんだね‥。
リズごめん!リュカに悪気はなかったんだ!!シャークは、本当に残念だけど‥
許してやってくれないかな‥?」





目の前には、純粋無垢な顔で、
申し訳なさそうに私に謝る幼馴染の男ーーー


私とシャークに触れようとしていたその手を払う。


ああ、ついてないわね、私。
それに、シャーク‥あんたもよ‥
馬鹿、私なんかを庇って‥



大好きだよ‥私の家族‥


私はそっとシャークの目元に口づけし、
立ち上がる。





「こんな最低な人達を選ぶなんて‥
アンタもまだまだよグレン。」


グレ「え‥?リズ?」



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