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噂の令嬢
はじまり
しおりを挟むはじまりは、いつからでしょうかーー
それは光り輝く世界に隠れた闇を見た時から‥いえ、
自分が闇だと、知ってしまった日からでしょうーーー
「あれが、噂の」
「あぁ、間違いない。あの透きとおった髪色と瞳の色は、クローリー家の‥」
一歩前へ進むたびに、
ひとり、また1人と、私を好奇な目で見つめる。
ドキドキと早まる心臓を、頼りない手で私はギュッと押さえつけた。
ーーここ、アクア大陸を統べるクラウン王国では、
現在
第1王子アルベルト・クラウンの
7度目の誕生日パーティーが開催されているーーー
光り輝くシャンデリアに、
美味しそうな食べ物や、ドレスで色ずく会場。
貴族でありながら、
このようなパーティーに来たのは初めてで、
私はそのキラキラした全てに心を奪われる。
「ついにあの舞が観られるのか」
「あの子は、力を強く受け継いでいるらしいぞ。長男には期待はずれだったが、今回は‥」
「ああ、治癒の舞は、傷や病、魔族に精神を侵された者をも救うと聞いたが、」
「きっと王族クラウン家は、
本日の主役、アルベルト王子の病を治す為にクローリーを呼んだのであろう。」
「確か‥口が聴けないとか‥」
「シッ!!あまり大きな声で話すな!!
‥まあ
全ては、クローリー家の長女、
ラピス・クローリー次第だろう。」
ぼーっと、あたりを見回していた私は、
ふと耳に入ってきた貴族達の会話に、ゴクリと唾を飲み込みました。
だめ、しっかりしなくては‥
そう、まさに‥わたくし次第なのですから‥
私、ラピス・クローリーは、今
クローリー家家宝の特殊回復魔法である、
【治癒の舞】を披露する為に、
この場にいるのです。
回復魔法、【治癒の舞】
水 緑 風属性の3属性と、自らの舞と歌声で魔法陣を展開させ組み合わせた、
特殊上級回復魔法。
その能力は、どの回復魔法よりも優れており、
精神までもを回復させると言い伝えられていますーー
私が生まれ育った一族、クローリー家は、
元旅役者の家系でありながら、治癒の舞で王族に貢献し、貴族まで上り詰めました。
謂わば、庶民出のはみ出し者。
クローリー家長女に産まれた私、ラピス・クローリーは、
歴代からの才を強く受け継ぎ生まれました。
まあ‥そのせいもあって、この様な場に赴く事になってしまったのですが‥
「やはり、他の子どもとはどこか違うなーー」
誰かがポツリと呟いて、私はふっと息を吐きます。
当たり前ですわ‥他の令息や令嬢と同じ扱いをされては困ります。なんせ私は素晴らしい令嬢なのですからッ!!
そう‥
天才ともてはやされ、子どもらしい扱いは皆無に等しく、
両親からは期待の眼差しと、過酷な訓練を。
兄様からは‥いえ、もうやめましょう。集中しなければーー
ふと暗くなった感情を抑え込み、
私は目的へと近づいていく。
一歩‥一歩‥
「ああ!なんと素晴らしいっ!エスコート致します!ラピス嬢!!」
「ひゅげあッ」
予想外ーー
突然現れた、おじ様に混乱する。
し、心臓に悪いですわ‥
この方は一体‥いえ、きっとお兄様がよく仰っておられる、欲望狸オヤジ‥という生物でしょう‥。深く考えず、まずは落ち着いて対策を‥
い
、言うのです、ただの世間話でも、なんでもッ
口が動かない。
体が震えて、冷や汗が頬を伝う。
「ひゅ‥?」
首を傾げて不思議そうに私を見るおじ様。
落ち着きなさいーー
私は完璧なのですからーー
「ふぅ‥、いえ‥お心遣いありがとうございます。ですが、私は大丈夫ですので、失礼ーー」
「え、ああ!ラピス嬢!!お待ちをッ」
制止の声を無視して、早足でまた歩き出す。
ガタガタとまだ震えている手。
お、恐ろしいですわ‥人間‥あ、あんなに近くにッ、しかも急に現れるなんてっ
実は、幼い頃から厳しい教育の中で、厳しい講師の方々に囲まれて育ってきたわたくしにとって、
人間とは鬼、又はドラゴンに等しい恐ろしい存在‥。毎日叱られ、怒鳴られ‥そんな恐ろしいものとコミニケーションなど、とれるわけがありませんッ
くっ、そのせいで‥
人とお話しすると、緊張して緊張して‥
出てくる言葉は可笑しくて、会話は噛み合わず‥
用意された言葉でなければ、まともに話す事ができないなんて‥こんな事が知られてはクローリー家の恥だとまたッ
だからこのパーティーだって‥本当は兄様が‥ッ、
ふと、思い出す。切ない目をした兄様の姿ーー
‥、どうして、私なのでしょうーーー
逃げ出したくなる心を必死でしまい込む。
カツリと鳴り響くヒールの音だけに集中した。
「よくぞ、よくぞ‥」
低くて威厳のある声が私を止める。
ああ、そうこうしているうちに王様の前に‥来てしまったのですね‥
ラピス「お初にお目にかかります、私、クローリー家長女ラピス・クローリーでございます。本日は、このような場にお招き頂き、誠にありがとうございます。」
用意された言葉を並べる。
ざわりと辺りが静まり返る会場。
嫌な汗が、頬を滑った。
王「頭を上げなさい。こちらこそ来てくれて感謝するぞラピス。噂通り美しい。将来がたのしみだ!」
ラピス「もったいなきお言葉でございますわ、王様。っ、」
じっとこちらを見つめる視線に気づく。
黄金の瞳に金の髪、幼いながらに
美しさを醸し出している。
ああ、この方のせいで、
この方のせいでわたくしは、このような場に‥
アル「‥。」
去年、御母様を亡くされて以来、
口が聴けなくなってしまった
第一王子、アルベルト様ーーー
このままでは、後継者問題になりかねないので、
私達、クローリー家に、アルベルト様の治療のお話がきたのです。
王「それはそうと、早く治癒の舞を‥」
ラピス「はい、それではすぐに‥」
王様とアルベルト様に一礼し、
目指すは、アルベルト王子の目の前、
そして会場のど真ん中。
人の目、目、目
ああ、ああ、ああ、
本当に嫌になりますわ。
今日はなんて残酷な1日なのでしょう。
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