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聖女の目覚め編
ノクティアの奇跡
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エマの後を追ったブラッドとエリックは、井戸に着くとその光景に言葉を失った。
井戸のふちに体を預けるように寄りかかり、ピクリとも動かないカレンがいた。服は血で染まり、彼女の顔は目が開いたまま、その唇はまるで何かを言おうとしているかのように、ほんの少し開いていた。彼女の姿はまるで時が止まっているようだった。
「カレン!!」
ブラッドはカレンに駆け寄る。エリックも真っ青な顔で「カレン! どうしてこんなことに!?」と叫んだ。
「わ……私がここに来た時はもうカレンは動いてなくて……カレンの姿を見かけないから、おかしいと思って……」
エマはずっと泣いていた。ブラッド達を追って来た従騎士アルドとローランも、カレンの姿を見て言葉を失っている。
エリックは「犯人が近くにいるかもしれない」と言い残してどこかへ駆け出していった。
「早く、早く誰かセリーナ様を呼んできてくれ!」
ブラッドはカレンの顔を覗き込みながら周囲に怒鳴る。
「ブラッド様、セリーナ様はしばらく動けません……」
アルドが困惑したように首を振る。
「なら、誰でもいいから動ける聖女を今すぐ連れて来い!」
ブラッドの激しい怒りに、アルドは血相を変えて飛んで行った。
エマは泣きながら首を振る。
「……ブラッド様。カレンが刺されてから、時間が経ってしまったようです……多分、カレンは、もう……」
ブラッドは信じられない、と言いたげに首を振る。
エリックはすぐに戻って来た。その手には剣が握られている。
「この剣はノクティア騎士団のものだね。すぐそこに落ちていたよ」
その剣は血で汚れていたが、鍔の部分にノクティア騎士団の紋章があった。ブラッドは剣を見てぐっと拳を握り、自分の腿を叩いた。
エマは涙を拭きながら、震える声で言った。
「多分……犯人は騎士ラグナルか、騎士ソーンのどちらかです……さっきカレンが『ラグナルとソーンを見かけた』と言っていました……」
「何だと? エマ、なぜそれを俺に言わなかったんだ!」
ブラッドがエマに怒鳴る。
「も……申し訳ありません。ラグナルとソーンの話を聞いたのは、騎士団が討伐に出発した後でしたし……まさかこんなことになるなんて……」
エマは再び泣き出した。エリックはエマを慰めるように、彼女の背中を撫でた。
エリックはため息をつき、天を仰ぐ。
「あの二人はノクティア騎士団所属だ。ここへ来ていてもおかしくはないね」
「……ラグナルとソーンは、国境警備の為にノクティアに送ったはずだった。さすがにノクティアに行った後のことは、俺にも口を出せない」
ブラッドは悔しそうに呟き、再びカレンの顔を覗き込む。
「すまない、カレン……。お前を守れなかった」
ブラッドの頬に涙が一筋流れる。ブラッドはカレンの頬に手を当て、そっと撫でた。そしてブラッドの指が、カレンの今にも喋り出しそうな少し開いた唇に触れる。
その時、ブラッドは突然自分の横顔をカレンの口元に近づけた。
「どうした? ブラッド」
エリックが尋ねると、ブラッドは慌てて振り返った。
「……まだ息がある!」
ブラッドの言葉に全員が驚く。カレンは未だ少しも動かない。その顔は何かを喋りそうな表情のまま止まっている。とても生きているとは思えない姿だ。
「カレン、カレン! 聞こえるか!? 戻ってこい!」
ブラッドが必死にカレンに呼びかける。エリックもエマも、カレンの名を何度も呼んだ。聖女を呼びに行った従騎士アルドとローランは、フラフラのセリーナを両脇から支えながら戻って来た。騒ぎに気づいた騎士らも続々と集まってきている。
「カレン! お願いだ、戻ってきてくれ……」
祈るようにカレンに話しかけるブラッド。彼女の肩を掴み、全く動かないカレンの顔にブラッドは何度も声をかけていた。
返事のないカレンの肩を掴み、うなだれるように俯いたブラッドは、その時カレンの傷の辺りが光り出したことに気づき、目を見開いた。
カレンが剣で刺された場所の辺りから、青白い光が現れた。ブラッドは驚き、彼女から離れる。
その青白い光は一層強くなり、次に傷の辺りから一気に青い炎が吹き出した。カレンの全身を青い炎が包む。
「カレン……!?」
ブラッドが呆然と彼女を見ながら呟く。その場にいた全員がカレンを包む青い炎に息を飲む。
カレンの瞳がゆっくりと閉じ、そして再び開いた。青い炎に包まれながら、カレンはゆっくりと立ち上がった。
「……聖女様だ」
どこからともなくそんな声がした。
ブラッドはさっとその場に跪く。
「聖女様」
ブラッドに続き、その場にいた者達が次々とカレンに跪き「聖女様」と口にした。カレンは青い炎に包まれたまま、彼らの中心にただ一人立っていた。
セリーナはへたり込み、カレンの後ろ姿を見ていた。その大きな瞳でカレンに起きた奇跡を見つめ、桜色の唇にはほんの少し、笑みが浮かんでいた。
カレンを包む青い炎がやがて消えていく。そしてその炎が完全に消えた時、カレンはふっと意識を失い、その場に倒れた。
井戸のふちに体を預けるように寄りかかり、ピクリとも動かないカレンがいた。服は血で染まり、彼女の顔は目が開いたまま、その唇はまるで何かを言おうとしているかのように、ほんの少し開いていた。彼女の姿はまるで時が止まっているようだった。
「カレン!!」
ブラッドはカレンに駆け寄る。エリックも真っ青な顔で「カレン! どうしてこんなことに!?」と叫んだ。
「わ……私がここに来た時はもうカレンは動いてなくて……カレンの姿を見かけないから、おかしいと思って……」
エマはずっと泣いていた。ブラッド達を追って来た従騎士アルドとローランも、カレンの姿を見て言葉を失っている。
エリックは「犯人が近くにいるかもしれない」と言い残してどこかへ駆け出していった。
「早く、早く誰かセリーナ様を呼んできてくれ!」
ブラッドはカレンの顔を覗き込みながら周囲に怒鳴る。
「ブラッド様、セリーナ様はしばらく動けません……」
アルドが困惑したように首を振る。
「なら、誰でもいいから動ける聖女を今すぐ連れて来い!」
ブラッドの激しい怒りに、アルドは血相を変えて飛んで行った。
エマは泣きながら首を振る。
「……ブラッド様。カレンが刺されてから、時間が経ってしまったようです……多分、カレンは、もう……」
ブラッドは信じられない、と言いたげに首を振る。
エリックはすぐに戻って来た。その手には剣が握られている。
「この剣はノクティア騎士団のものだね。すぐそこに落ちていたよ」
その剣は血で汚れていたが、鍔の部分にノクティア騎士団の紋章があった。ブラッドは剣を見てぐっと拳を握り、自分の腿を叩いた。
エマは涙を拭きながら、震える声で言った。
「多分……犯人は騎士ラグナルか、騎士ソーンのどちらかです……さっきカレンが『ラグナルとソーンを見かけた』と言っていました……」
「何だと? エマ、なぜそれを俺に言わなかったんだ!」
ブラッドがエマに怒鳴る。
「も……申し訳ありません。ラグナルとソーンの話を聞いたのは、騎士団が討伐に出発した後でしたし……まさかこんなことになるなんて……」
エマは再び泣き出した。エリックはエマを慰めるように、彼女の背中を撫でた。
エリックはため息をつき、天を仰ぐ。
「あの二人はノクティア騎士団所属だ。ここへ来ていてもおかしくはないね」
「……ラグナルとソーンは、国境警備の為にノクティアに送ったはずだった。さすがにノクティアに行った後のことは、俺にも口を出せない」
ブラッドは悔しそうに呟き、再びカレンの顔を覗き込む。
「すまない、カレン……。お前を守れなかった」
ブラッドの頬に涙が一筋流れる。ブラッドはカレンの頬に手を当て、そっと撫でた。そしてブラッドの指が、カレンの今にも喋り出しそうな少し開いた唇に触れる。
その時、ブラッドは突然自分の横顔をカレンの口元に近づけた。
「どうした? ブラッド」
エリックが尋ねると、ブラッドは慌てて振り返った。
「……まだ息がある!」
ブラッドの言葉に全員が驚く。カレンは未だ少しも動かない。その顔は何かを喋りそうな表情のまま止まっている。とても生きているとは思えない姿だ。
「カレン、カレン! 聞こえるか!? 戻ってこい!」
ブラッドが必死にカレンに呼びかける。エリックもエマも、カレンの名を何度も呼んだ。聖女を呼びに行った従騎士アルドとローランは、フラフラのセリーナを両脇から支えながら戻って来た。騒ぎに気づいた騎士らも続々と集まってきている。
「カレン! お願いだ、戻ってきてくれ……」
祈るようにカレンに話しかけるブラッド。彼女の肩を掴み、全く動かないカレンの顔にブラッドは何度も声をかけていた。
返事のないカレンの肩を掴み、うなだれるように俯いたブラッドは、その時カレンの傷の辺りが光り出したことに気づき、目を見開いた。
カレンが剣で刺された場所の辺りから、青白い光が現れた。ブラッドは驚き、彼女から離れる。
その青白い光は一層強くなり、次に傷の辺りから一気に青い炎が吹き出した。カレンの全身を青い炎が包む。
「カレン……!?」
ブラッドが呆然と彼女を見ながら呟く。その場にいた全員がカレンを包む青い炎に息を飲む。
カレンの瞳がゆっくりと閉じ、そして再び開いた。青い炎に包まれながら、カレンはゆっくりと立ち上がった。
「……聖女様だ」
どこからともなくそんな声がした。
ブラッドはさっとその場に跪く。
「聖女様」
ブラッドに続き、その場にいた者達が次々とカレンに跪き「聖女様」と口にした。カレンは青い炎に包まれたまま、彼らの中心にただ一人立っていた。
セリーナはへたり込み、カレンの後ろ姿を見ていた。その大きな瞳でカレンに起きた奇跡を見つめ、桜色の唇にはほんの少し、笑みが浮かんでいた。
カレンを包む青い炎がやがて消えていく。そしてその炎が完全に消えた時、カレンはふっと意識を失い、その場に倒れた。
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