【完結】聖女の矜持~騎士が愛していたのは、私じゃないはずでした~

弥生紗和

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聖女の矜持編

聖女の矜持・2

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 ブラッドに剣を向けられたセリーナは、怒りの表情を浮かべた。

「私に剣を向けるの……? ブラッド。あなたは私の護衛騎士でしょう?」
「もう俺は、あなたの護衛騎士ではありません」
 剣を向けたまま、ブラッドはセリーナに声を張り上げた。

「早く一緒に帰りましょう、ブラッド。あなたは永遠に私と一緒にいるのよ。私を守ると誓ったでしょう? 忘れてしまったの?」
「あなたと一緒には行けない。セリーナ様、あなたは魔女だ。カレンに毒薬を送りましたね?」
 ブラッドの剣を持つ手に力が入る。

「私の贈り物は受け取ってくれたようね? もうカレンはあれを飲んだのかしら」
「残念ながらあなたの思い通りにはなりませんでしたよ」
「あら……そうなの。まあいいわ、ここでカレンを殺すから」

 ブラッドは事も無げに言うセリーナに眉を吊り上げた。
「殺すだなんて、あなたはそんな恐ろしい言葉を口にする方じゃなかったでしょう?」

 セリーナはじっとブラッドを見ているが、その真っ黒な瞳は虚ろだ。

「あなたに私の何が分かるの? あなたは私の何を知っているというの?」

 セリーナの髪の毛が意思を持ったように動き出し、セリーナは地上に降りた。ブラッド達は一斉に盾を構え、セリーナと向き合う形になった。

「私と一緒に来ないと言うなら、あなたもここで死ねばいいわ」

 セリーナの髪がブラッドに襲い掛かった。真っ黒な髪がロープのようにブラッドの体に巻き付き、彼の体を締め上げる。

「ぐ……!!」

 セリーナの闇の力がブラッドの体を蝕む。ブラッドの首の辺りが黒ずんでいき、徐々に黒いものが顔まで上がっていく。

 サイラスが慌てて髪の毛をブラッドから引きはがそうとするが、触れた手袋から煙が上がり、驚いて手を引いた。
「……これは瘴気の塊のようなものだ!」

 セリーナの髪は闇の力そのものだ。そのままでは触れることができず、かといって剣で斬ろうとすればブラッドごと斬ってしまう。なんとか髪の毛だけを斬ろうと仲間達が剣でセリーナの髪の毛を斬り落とすが、セリーナの髪はまるで生き物のようにどんどん生えてきて、更にブラッドを締め上げる。

「きりがないぞ」

(こうなれば、セリーナ様を斬るしか……)
 セリーナを睨むサイラスの元へ、カレンとエリックが走って来た。



「セリーナ様!」

 カレンがセリーナに呼びかけた。セリーナはカレンの姿を見ると、ブラッドに巻きつけていた髪の毛を緩めた。ブラッドはその場にどさりと倒れこむ。

「ブラッド! 大丈夫か!」
 エリックがブラッドに駆け寄る。ブラッドの意識はなく、顔の辺りまで黒ずんでいた。カレンはブラッドの姿を見て息が止まりそうになった。

「ブラッド様」
 カレンは急いでブラッドのそばに跪き、頭を持ち上げて抱きかかえた。

(絶対に助けるから、心配しないで)

カレンの身体が青白く光り出し、その光はブラッドの全身を包み込む。

「おお……!」
 騎士達から歓声が起こる。元通りの顔色を取り戻したブラッドはパッと目を開けると、目の前にあるカレンを見てホッと笑みを浮かべた。

「後は任せて」

 ブラッドはカレンの言葉を聞き、一瞬意味が分からないといった顔をした。カレンはブラッドに微笑み、立ち上がるとセリーナに向かって歩き出した。

「カレン、待て!」
 ブラッドは慌てて叫ぶ。

 うねうねと動く髪の毛の中に、セリーナはいた。真っ黒な瞳をカレンに向け、その表情は醜く歪んでいる。

「邪魔しないで、カレン」

 セリーナの髪が動き出し、カレンの体に襲い掛かった。髪の毛はカレンをすっぽり覆い隠し、まるで繭のようにカレンとセリーナの体を包んだ。

 カレンとセリーナは周囲を髪の毛で覆われる中、至近距離で向かい合った。カレンはセリーナに近寄っていく。


「ごめんなさい、セリーナ様」


 カレンは一言だけ言って、セリーナを抱きしめた。

 セリーナの黒い瞳が驚きで大きく見開いた。セリーナを抱きしめたカレンの体から、一気に青い炎が燃え上がる。

「いやああああ!!」

 セリーナの絶叫が辺りに響いた。カレンの聖なる炎は、セリーナの髪の毛に燃え移り、セリーナの体を包み込んだ。

 身をよじって逃れようとするセリーナを、カレンは絶対に逃がすまいと更に強く抱きしめる。

──私に、私だけにできること。こういうことですよね? 聖女エリザベータ様──

 セリーナの真っ黒な髪の毛が燃え尽き、その下から彼女のプラチナブロンドの髪の毛が現れた。セリーナの漆黒の瞳が、次第に本来の青い瞳に戻っていく。

 カレンがゆっくり体を離すと、セリーナは意識を失った状態でその場に倒れた。
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