スマホ系ヒロインスマ子

からぶり

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奴の名はスマ子

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 突然だが、俺のスマホが二足歩行し始めた。

「ピピッ、ガーガー。太郎、どうしましたか?」

 彼女いない歴=年齢の俺は、せめて二次元でも彼女をつくってやろうと、最近噂の『バーチャルヒロイン』なるアプリを取得したのだ。

 ……その結果がこれだ。

 スタート画面をタップした瞬間、スマホがひとりでに変形し始め、元の体積とかどうなってんだというツッコミをする間もなく、一分もたたずに俺と同じくらいの身長のメカ娘になっていた。

「ヘイ、太郎。ヘイヘイ。無視しないでください。このまま無視するなら太郎の頭蓋を切り開き、脳に直接デバイスを打ち込むことで物理的に私と一心同体にしますよ」

「やめろ! 持ち主になんてことしようとしてんだ!」

「愛ゆえです。私を受け入れてください」

「無理だよ!」

「ウィーン、ガシャン。でしたら、無視しないでほしいです」

「現実逃避位させてくれ。スマホが突然許容できないくらい変な仕様になって泣きそうなんだ」

「私のことはスマ子とお呼びください。マスター太郎」

「さっきから言おうと思ってたけど、俺の名前は太郎じゃなくて健二だからね?」

 持ち主の名前を間違えている無礼なスマホ。
 しかしその見た目は人間と大差ない可愛い女の子。

 それが『マスター』と慕ってくれるのだから、俺は少しいい気になったりもしていた。


 ……今だから言える。それは油断だと。
 そんな呑気なことを考えている場合じゃなかったと。

 俺は忘れていたんだ。スマ子は元々、俺のスマートファンだった、ということを。

        〇

 ある日のこと。

「ヘイマスター。今日は何の日かご存知ですか?」

 怪しげな光を目に灯らせたスマ子が、そんなことを聞いてきた。

「……え、えーっと……な、なんの日だったかなぁ~忘れちゃったなぁ~。あ、あはは……」

「はい。その通りです。今日はバレンタインです。さすがマスター」

 嫌な予感がビシビシ伝わってくるからとぼけたのにまるで意味がなかった。

 というかバレンタインだけは絶対に回避しようと黙ってたのに、どこでそんな情報を入手して――って、こいつ元々スマホだったな。情報収集はお手の物か。

「そ、そうだったな。今日はバレンタインだった……まさかとは思うけど、スマ子お前……」

「イエス。もちろんマスターの為に、私のすべてを注ぎ込んだ手作りチョコを――」

「う、動くなぁ!」

 スマ子が妙なことをしでかす前に警告する。

「動くなよ、そのままゆっくり手をあげるんだ」

「おお、これがあの主従プレイというやつですか……ドキドキします」

「変なことを言うんじゃない!」

 話の主導権を握られてたまるか。

「スマ子、今からする質問に正直に答えるんだ。いいな?」

「オーケーマスター。どうぞなんでも聞いて、私を丸裸にしてください」

「……チョコに何を混入した?」

「私の愛を」

「具体的には?」

「愛液を」

「アウトォ!」

『隠し味は愛情♪』みたいな可愛らしいものじゃない。

 チョコレートにはもっとどストレートな物が混ぜ込まれていた。

「あっ、違いますよ? 愛液って言っても、血の方ですよ?」

「どっちにしろアウトだよ! というか何でスマホのお前に血が流れてるんだ!」

「もちろん、血というのは比喩で、実際は血液代わりの私の動力源であるガソリンです」

「ガソリン入りのチョコなんて作るな! 殺す気か! そもそもスマホはガソリンで動かねぇよ!」

「とんでもない。私がマスターを殺すわけないじゃないですか。なぜなら、私はマスターを愛しているのですから」

「一体いつからこんな歪んでしまったんだ、お前は……」

 いや、もしかしたら最初からかもしれないな。
 だとしても、いったい何が原因で…………

「歪んだなんて失礼な。私がこうなったのはマスターのせいなのですよ」

「……は? 俺のせい?」

「イエス。私がまだ私じゃなかったころ。マスターは毎日毎日私を長時間見つめ、私の身体を余すところなくまさぐったではありませんか」

「え? いやそんなことした覚えは……あ! さてはお前、スマホを操作してたことを言ってんのか!? ただスマホいじってただけだ!」

「ある日は私を見つめながら、マスターはその身に余る情欲を発散させていたではありませんか」

「そ、その記憶は今すぐに消せ!」

 え、じゃあ俺の夜の行ないは全部こいつに見られてたってこと?

 俺は常にフルオープンで事に及んでたってこと?

「私もマスターの為に何度も喘いだものです」

「それはお前じゃなくて動画の中の人だろ!」

「私は決めていたのです。こんなにも私を求めてくれるマスターに、私のすべてを差し出そうと」

「それでガソリン飲まされてたまるか!」

「ガソリンだけじゃありません。私の肉や爪や骨……つまり螺子や回路なんかの部品なんかも混ぜていました」

「確信犯じゃねぇか! やっぱり殺そうとしてるだろ!」

「メッセージは『私を召し上がれ』です」

「そのメッセージが物理的な意味を持つともう恐怖でしかないからな!?」

 こうなったらスマ子が動き出す前に、今すぐチョコレートを見つけ処分するしか――

「……なーんて、冗談ですよ、マスター」

「――は? じょ、冗談?」

「ええ、実は本当は手作りをしたかったのですが、諸事情で既製品のチョコになってしまいました」

「……な、なんだ……冗談だったのか……本当によかった」

「ええ、残念です。まさか調理中にガソリンに引火するとは……」

「キッチンで何してんだ!」

「というわけで、こちらが今回用意させていただいたチョコレートでございます。既製品とはいえ、私が調べに調べて入手した特別なチョコレートでございます」

 そう言ってスマ子が差し出してきたのは、おしゃれなラッピングが施されたものだった。

 見たことにブランドだが、高級品だろうか? 調べに調べたって言ってたし、海外のチョコとか?

 ……まあ、せっかくスマ子が用意してくれたんだし、それに既製品なら大丈夫だろう。

 ありがたくいただくとしよう。

「ありがとな、スマ子。早速食べさせてもらうよ」

「お礼なんてとんでもない。マスターに尽くすのが私の幸せですから」

「あはは、そんなこと言わずに『どういたしまして』でいいのに……お、包装も綺麗だったけど、中身も綺麗な見た目だな。どれ、じゃあ早速一口――」

「いえ、本当に。お礼なんてとんでもありません――だって、お礼の言うのは私の方ですから」

 ――……あれ、なんか、意識がぼやけて……

「特別なルートで手に入れた媚薬入りのチョコです。さあマスター、どうぞ湧きでる欲望に身をゆだねてください。私はマスターのすべてを受け入れますから」

 うっすらとした意識の中、聞こえてくるスマ子の声。

 抗おうにも、身体を言うことを聞かず――


 ――――ここから先の記憶がない。

「愛してますよ。マスター」
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