友人が自分はヒロインだと言うので、身の程を分からせる事にした

睫毛

文字の大きさ
11 / 18

上手くいかない

しおりを挟む
 いよいよお茶会訓練の日だ。

 意気揚々とマルカは会場である庭にビクトリアを伴って向かっていた。


(今日はイベントがある日!さて、誰があたしを助けてくれるかしら)


 わくわくしながら会場に着くと、他の女子生徒や先生達もちらほらと集まって来る。
 今日はお茶会と言う事で、全員が制服ではなくドレス姿だった。

 勿論ふさわしいドレス選びから採点される。
 高価かどうかは関係なく、見た目の印象が大事だと教師は事前に伝えていた。

 だからこそ、この場に派手な装いをする者は減点される。
 そこまでは生徒達に告げてはいないが、が採点に含まれるとは聞いているのだ。
 それなのにここで華美に装ったり、逆に質素すぎるのも良くない。
 勿論お茶のマナーが一番の採点ポイントだが、髪型、ドレス、靴、手袋やアクセサリーに至るまで、全て採点される事になっていた。


「マルカ…貴女一体どこの夜会にでも行くつもりよ」

「は?ビクトリアちゃんったら何言ってるのよ。お茶会訓練に行くに決まってるでしょ!」

「だったら着替えてきなさい!何よそのバカみたいな恰好は!減点されるわよ!?」

「そんな訳ないでしょーっ、意地悪言わないでっ!見てよ、こんなに可愛いのに!」


 確かに似合ってはいるが、そういう事ではないと言っているのだ。

 過剰に装飾されたそのドレスは激しく周囲から浮いている。
 どこの子供かと聞きたいくらいにリボンが付いているのだ。

 そしてピンク色。真っピンク。ドピンク。


(どこでそんなドレス作ったのよ…!悪目立ちするじゃないの!)


 頭痛がして頭を押さえるが、当の本人はどこ吹く風。
 機嫌がよさそうに鼻歌まで歌っている始末だ。


「…何がそんなに楽しいのよ?貴女この前のマナーのテスト、散々だったじゃない」

「んもう、今は点数何てどうでもいいの!言ったでしょう?今日はイベントの日なの!イ・ベ・ン・ト!」

「お茶会訓練でしょ」

「だーかーら!今日は一番好感度の高い人が、お茶会訓練で助けてくれるんだってば!」


 腰に手を当ててプンスカと怒るマルカは可愛らしい。
 が、何だか幼女を見ているようだ。

 このわざとらしくあざとい仕草もマルカはとてつもなく似合っているが、実は素だからとんでもない。
 だからこそ、昔から放っておけなくて一緒にいるのだが。


「あ、フロレンツィア様よ!」

「アデライド様もいらっしゃるわ!」

「お二人共相変わらず素敵…!」

「さすが王子殿下の婚約者ね!洗練されてるわぁ…!」


 令嬢達が一斉に騒ぎ出すその先に、フロレンツィアとアデライドの姿があった。
 二人はマルカとはまさに対極を行く装いだ。

 華美な装飾はなくシンプルなドレスで、洗練された美しさがある。
 そしてさりげなくお互いの婚約者の色を纏っていて、見ていて微笑ましい。


「何よもう、あんな地味なドレス」

「ちょっとマルカ、そういう事言わないの」

「だってみんなあの二人の身分が高いからチヤホヤするんでしょ?こういう時自分が子爵家だって事が悔やまれるわ」

「…いやもう、その自信満々の意見がどこから出るのか知りたいわ。どこからどう見てもあのお二人は完璧じゃない」

「違うってば、ビクトリアちゃん。完璧すぎる女って言うのはね、男の人からしたらしんどい相手なのよ?」


 言ってる事は当たらずとも遠からずだ。
 だがそこは同じレベルに達する相手であれば、並び立つのに全く問題はない。

 まあ何にしろこのおバカ娘に何を言ってもどうしようもないのだ。
 ビクトリアは説教を程々にし、マルカと同じテーブルについた。
 とりあえずイベントなんて起こさせないで、穏便に済ませようと思っていたビクトリアだったが、予想外の事が起こった。

 何となくいろんな意味で視線を集めるマルカだったが、何故かフロレンツィアとアデライドがビクトリアとマルカのテーブルにやって来た事で、余計に周囲の視線を集める事になったのだ。


「こちらよろしいかしら?」

「アデライド様!あっ、はい、構いませんが…」


 アデライドに問われてビクトリアが慌てて返事をする。が、チラリとマルカを見ると、こちらも臨戦態勢が整ったかのように目を輝かせて鼻息を荒くしたマルカが、「もちろんです!」と元気に返事をした。

 あの顔、どうやらイベントを起こす気満々のようだ。

 だがそこはさすがは公爵令嬢と侯爵令嬢。


「あのぉ、フロレンツィア様もアデライド様も…やっぱりあたしの事怒ってますよね?」


 と、突然とんでもない質問をするマルカを笑顔で華麗にスルー。


「まあ、フロレンツィア様。こちらのクッキーとても美味しいですわよ」

「あら本当ですわ。後でどちらから手配されたのか聞いてみますね」

「え、ちょっと」


 それはダメだ、マルカ。
 「ちょっと」とか言っちゃダメでしょう。

 現に周囲のご令嬢達からの視線が痛い。
 ついでに採点している先生の視線も痛い。


「あの!無視しないでくださいよっ!」

「え?あら、ホークス子爵令嬢、何か仰いまして?」

「なっ、わざとらしいですね!やっぱり怒ってるんじゃないですか!」

「怒る?誰が誰に?」

「そんなの!お二人があたしにですよ!」

「何故?」


 アデライドが頬に手を当てて首を傾げる。
 そのしぐさも洗練されていて美しく感じるのはなぜだろう。

 するとマルカが声を荒げる。


「とぼけるんですか!?」

「とぼけてなんていませんよ。それよりもそんな大きな声を出すのははしたないですわ」

「またそうやって虐めようとする!あたしがアルフォンス様やベルトランド様と仲がいいからって、嫉妬してるのは分かってるんです!」


 ざわっ、と。
 マルカの声が思っていた以上に周囲に響き渡り、一瞬ざわめきが起こる。
 だがすぐにフロレンツィアとアデライドの様子が気になった令嬢達は言葉を止め、あたりはシンと静まった。
 なのにそれに気付かないマルカが話を続ける。


「あたしが最近ベルトランド様達と仲がいいからって、周りの人を使って嫌がらせしてるのも知ってるんですよ!そういうのってよくないと思います!」

「まあ…嫌がらせされてらっしゃるの?」

「しらじらしいですね。どうせアデライド様が指示してるんでしょ?」

「何の為に?」

「だから!あたしがアルフォンス様と…!」


 パチン!と、その瞬間音を立ててアデライドが扇子を閉じた。
 それにはマルカも思わずたじろぐ。
 そしてアデライドはマルカに視線だけ送り、口元に笑みを浮かべた。


「申し訳ないけれど、貴女を羨ましいと思った事も憎らしいと思った事も一度もありませんわ」

「うそよ!」

「本当ですわ。ねぇ、フロレンツィア様?」

「そうですわね…、特に何も思わないですわ」

「そ、そうやって強がったってダメなんだから!あたしが…!」


 これ以上はマズい。
 そう思ったビクトリアは、手に持っていたティーカップの中身をマルカに向かってぶちまけた。

 パシャン!

 と音を立てて紅茶がマルカのドレスにかかる。


「きゃあっ!え、ビクトリアちゃん!?何を…」

「あ、ごめんマルカ!手が滑って…!」

「ちょっと!あたしのドレスが…!」

「弁償するわ!さあ、着替えましょう!先生、ホークスさんの着替えをさせるので、少し席を外します」

「分かりました」

「ちょっとビクトリアちゃんっ!」


 まだ文句を言うマルカを引きずるように別室へと連れて行く。
 そしてビクトリアの召使が持ってきたタオルと着替えを受け取ると、マルカに着替えるよう言づけてドレスは召使に預けた。


「ごめんね、綺麗にできるかしら」

「お任せください。お茶がかかってからそう時間が経っておりませんので大丈夫ですよ」

「ありがとう。よろしくお願いするわ」

「はい」


 汚れたドレスを洗うよう指示し、ビクトリアは部屋の扉に向かって声をかける。


「マルカ、もう着替えた?」

「…うん」


 心なしか元気がない返事だったが、着替え終わったと言うので部屋の中に入った。
 そこには怒っているのか落ち込んでいるのかわかりずらい顔をしたマルカが立っていた。


「あら」


 ビクトリアが何となく選んだドレスだったが、マルカにとても似合っていた。
 ブルーのドレスはマルカの金髪と青い目にピッタリで、さっきの子供のようなドレスとはうって変わって大人っぽくも見える。


「素敵じゃない、マルカ。さっきのドレスも可愛かったけど、こういうのも似合ってるわよ」

「…それは、あたしも思ったけど」


 どうやら怒ってはいるが、ドレスが気に入ったようで怒るに怒れないようだ。
 そんなマルカの葛藤に気付いたビクトリアは、苦笑しながらマルカに近付いた。


「ごめんね、お茶かけちゃって。でもああしないと貴女あの場で酷い減点されるから」

「減点なんてどうでもいいっ!ビクトリアちゃんに言ったでしょ!?イベントがあるって!」

「聞いたけど…」

「それなのにビクトリアちゃんってばいっつも邪魔ばかりして!本当にあたしのなの!?」

「…っ」


 グサリと、何かに胸を刺されたような痛みが走る。
 マルカにとって自分はお助けキャラだと以前に聞いてはいたけれど、それでもこんな風に言われるとは思わなかった。


「…マルカにとって、私はそんな程度の存在なのね」


 ポツリと、ビクトリアがマルカから視線を外して呟く。
 両手をぎゅっと握りしめ、怒りを抑えながら。

 けれどマルカがそんなビクトリアに気付く事なく罵る。


「そんな程度って何よ!?お助けキャラは重要なのよ!?ビクトリアちゃんがちゃんとしてくれないと、あたしが幸せになれないじゃないっ!!」


 その瞬間、ビクトリアの中で何かがキレた。


「マルカなんて知らないわっ!もう助けないし、友達だとも思わないから!!」

「えっ、急に何よ…!ビクトリアちゃんが悪いのに何でそっちが怒るのよ!」

「何を言っても分からないんでしょう?」

「え、何…」

「ならもういいわ。これからは一人で頑張って」

「え、ちょっとビクトリアちゃん!?」


 まだマルカが何かを叫んでいたが、ビクトリアは逃げるように部屋から飛び出した。

 悔しくて悲しくて、涙が出そうだったから。



 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

何も言わずメイドとして働いてこい!とポイされたら、成り上がり令嬢になりました

さち姫
恋愛
シャーリー・サヴォワは伯爵家の双子の妹として産まれた 。実の父と双子の姉、継母に毎日いじめられ、辛い日々を送っていた。特に綺麗で要領のいい双子の姉のいつも比べられ、卑屈になる日々だった。 そんな事ある日、父が、 何も言わず、メイドして働いてこい、 と会ったこともないのにウインザー子爵家に、ポイされる。 そこで、やっと人として愛される事を知る。 ウインザー子爵家で、父のお酒のおつまみとして作っていた料理が素朴ながらも大人気となり、前向きな自分を取り戻していく。 そこで知り合った、ふたりの男性に戸惑いながらも、楽しい三角関係が出来上がっていく。 やっと人間らしく過ごし始めたのに、邪魔をする家族。 その中で、ウインザー子爵の本当の姿を知る。 前に書いていたいた小説に加筆を加えました。ほぼ同じですのでご了承ください。 また、料理については個人的に普段作っているのをある程度載せていますので、深く突っ込むのはやめてくださいm(*_ _)m 毎日朝6時更新です(*^^*)あとは、 気分でアップします

処理中です...