転生者、月と魔法とプロポーズ

Rio

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第一章 魔法士学校編

第十八話 三段組手

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 あれからグラウンドを百周するのに半日以上かかった。作戦が失敗に終わったのだから当然のことだが、ミラ先生は一周たりともまけてはくれなかった。

 寝ていたベガはアトリアと他のメニューをこなし、授業を終えていつの間にか居なくなっていた。

 アトリアは自分のメニューが終わると、俺が走っている間ずっとサポートをしてくれていた。いつも助けてもらってばかりで申し訳ない想いと、自分の不甲斐無さを痛感して自暴自棄になりそうだ。

 しかし、この授業が毎日続くと思うと心配になってくる。二ヶ月とは言え、身体が耐えられる気がしない。まぁ考えても仕方がないことは分かっている、ミラ先生が許してくれるはずがないからな。

 いつものように、アトリアとご飯を食べ、風呂に入り自分の部屋で寝る。

 身体の疲労からか寝ることが一番の楽しみになりつつある。これでベガのいびきさえなければ最高なのだが……

 そして学校での生活で一つ疑問がある。この世界で夜になっているところを見たことが無い。寝る時は部屋の窓はカーテンで光を完全にシャットアウトしていたから気が付かなかったが、これがこの世界では普通なのだろうか? 困るわけではないが今度誰かに聞いてみるか。






 今日も地獄の一日が始まる。教室の席に着くなり、先に待っていたミラ先生が開口一番、

「まずは貴様らグラウンドで百周走ってこい。その後、組手を行う。分かったらさっさと行け」

 相変わらず強い口調で鬼教官の様なミラ先生。怖すぎて反抗したくはないが言っておかなければならないことがある。

「先生、よろしいでしょうか」

「何だ言ってみろ」

「あのー、グラウンドを百周というのはちょっと……もう少し減らして頂けると助かるのですが」

「貴様は百周もろくに走れないのか? 本来なら千周を走らせてやりたいところを、貴様の貧弱さに免じて減らしてやっているのだぞ」

 俺の提案に説教で返してくるだけでなく、確りと人の事を貶してくるあたりも相変わらずでなによりです。

 さあここからは言い訳タイムだ。俺が走りたくないと思われない様にミラ先生をどうにかして説得しなければならない。

「違うんです。俺は走りたいのですが、俺が走っても昨日みたいに時間がかかってしまいます。そうなると組手をする時間が無くなってしまいます」

「貴様、そんなに組手がしたいのか?」

「はい! 先生としたいです」

 別に組手がしたいというわけではないが、グラウンドを百周するよりははるかにマシなはずだ。

「そうか、そんなに私としたいのか。ならば今日は特別に組手をしてやろう」

「ありがとうございます!」

 勝った。ミラ先生が話のわかる人で良かった。いつもこれくらい優しかったらいいのに。

 ところがミラ先生が顎に手をあて、何やら難しそうな顔をしている。

「しかし困ったな、私はもちろんベガやアトリアと組手をさせるとなると手加減しても彼方が死んでしまう。どうしたものか」

 ちょっと待て、とんでもない事を言い出したぞ。確かに俺が貧弱もやし男だというのは自分でもよく分かっているが、ベガはともかく華奢なアトリアの手加減ですら死んでしまうレベルなのか?

「なー先生、それなら俺とアトリアの組手を彼方に見てもらってさ、とりあえず今日は魔法の使い方でも教えたらいいんじゃないですか」

 口を開けばいらん事しか言わないベガが珍しく良い事を言っている気がしたのでここは便乗しておこう。

「俺もそうしたいです先生」

「では今日はベガの言ったとおりにしてみよう。そうと決まれば貴様ら全員グラウンドへ行け」






 グラウンドに着くなり早速ベガとアトリアの組手が始まろうとしていた。

「ベガとアトリアはお互いの正面に立て。彼方は私の横にいろ。これから三段組手というものを始めるが、彼方は二人の組手をよく見ておけ」

「あの……三段組手って何をするんですか?」

「見ていれば分かる、それでは構え」

 ミラ先生の構えの掛け声と共に、それまでリラックスしていた二人が一瞬にして真剣な表情になり、こちらにも緊張感が伝わってくる。

「先攻はアトリア、では始めぇぇーー!!」

「はぁぁぁーーー」

 開始の合図と同時にアトリアは集中力を高めるかの如く唸り出したかと思えば、その瞬間重鈍な音が三回、周囲に鳴り響いた。

「彼方よ、今のアトリアの動きを見て何を思う」

「…………え?」

 先生は何を言っているんだ? 今の動きもなにも全く見えなかったのだが、もしかしてアトリアは何かしたのか? 俺には唸りながら立っているアトリアしか見えなかったぞ。

「よく見ておけと言っただろ。今のはアトリアが一手目で右の拳をベガの腹に、二手目は左の拳を胸に、三手目は直前に魔法で右足に魔力を込め顔に蹴りを入れている」

 嘘だよな? 今の一瞬でそんなことが起きてたのか? 音は確かに三回聞こえたが打撃音だったということか?

 先生は見えていたらしいが、俺には全く見えなかった。もしかして視力が悪くなっているのだろうか。いやそもそも目が悪いから見えないとかの問題ではない気がするのだが……

「いってーな、アトリアお前最初から本気出してんじゃねーよ! 死ぬところだっただろ」

 よく見るとベガの服はボロボロになっており、顔は少しだけ黒く焦げ、煙が出ていた。

 今の三連撃でこんな姿になったのか。いつも服や身体がボロボロになって帰って来ていたが、毎日こんな事をしていたのかよ。

「三手目に魔力まで乗せやがって。お前あれだろ、彼方が見てるからって良いところ見せようと思ったんだろ」

「ーーち、ちがうよ!! そんなんじゃないよ! 今日はあれだよ、たまたまだよ、そうたまたま!」

「嘘つけ、お前明らかに彼方を意識してただろ。いつもならお前の攻撃なんて止められねーんだよ。それなのに今日は一手目と二手目は反応できた。三手目は威力が高すぎて無理だったが、お前が浮ついている証拠だろ」

 なんか二人が言い合いをしているな。遠くてよく聞こえないが反省でもしているのだろうか。

 すると、二人の会話を遮る様にミラ先生が口を開いた。

「アトリア、残念だが貴様の渾身のアピールを彼方は全く見えなかったみたいだぞ。あーはっはっはっ」

 俺に何か見せてくれようとしていたのか。ごめんなアトリア……

「よし次はベガの番だが、すまんが彼方にも見えるように三割くらいの力でなるべく遅くやってやれ」

 すごく気を遣われている……そして何故だかアトリアが肩を落とし、がっかりしているみたいだ。

「次は俺の番だな、よーしいくぜー」

 ベガは右の拳を左の手のひらに二、三発打ちつけながら開始の合図を待っている。相当気合いが入っているに違いない。というよりさっきの仕返しがしたいだけじゃないのかコイツ。

「後攻はベガ、始めぇぇーー!!」

 その瞬間、ベガの右の拳が紅く炎の様に燃え上がり、その拳を容赦なくアトリアの顔面めがけて突き出した。が、アトリアは自身の右足を振り上げ弾き返した。

 すかさずベガはその場で回りながら回し蹴りをアトリアの顎に向けて放つ。この二手目もアトリアは後ろにずれて紙一重で回避した。

 三手目をどう繋げるのかを期待して見ていると、なんとアトリアが左足を振り上げてそのままベガの脇腹に直撃させた。打撃を受けたベガはそのままうずくまった。

「そこまでーー」

「いってぇぇぇー、お前なあ、なんで攻撃してんだよ! 俺の番だったろうが」

 先生の終了の合図と同時に、ベガが怒りを露わにしている。

「ごめんごめん、あまりにも攻撃が遅すぎてつい蹴りを入れちゃった」

 ベガの怒りをアトリアはまぁまぁみたいな感じであしらっている。蹴りを入れちゃったとか怖すぎるよアトリアさん……

「彼方よ、今回ははっきりと見えただろう。何か感じたことはあるか?」

「先生、この二人と同じことを出来る気がしません」

「あっはっはっ、まぁそうだな。だがアトリアを見てみろ、あいつは手足が細く華奢な身体をしているが、ベガの攻撃を一度も当たることなく防いでいるだろう? 彼方も華奢だからな、努力次第でなんとかなるさ」

 努力次第と言われても卒業まで二ヶ月しかないのに無理だろ……

「それでは二人は続けて組手をしておけ。彼方は私と一緒に魔法の訓練だ」

「はい」

 悩んでいてもしょうがない、先生の言う事を信じよう。









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