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第1章
【1】入学と求婚!
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私の名前はカレン。カレン・アキレギア公爵令嬢。
この世に生を受けて15年。
明日、立派な『悪役令嬢』としてデビューする予定なの。
ここは乙女ゲーム『花と嵐と恋の華~魔法学院でドキドキ☆スクランブル~』の世界。
そう突然自覚したのは7歳の頃だったかしら?
私は今のカレンに転生前、このゲームの大ファンで全ルート攻略はもちろんのこと、ゲームレーベル主催の公式イベントやコラボカフェなんかにも足繁く通った本物のオタクだったの。
けれど転生前の私は、18歳の日曜日、公式イベント『花と嵐と恋の華~魔法学院でドキドキ☆スクランブル~ 集合大会2021!』に向かう最中に交通事故で呆気なく死んでしまったのよ!
続編情報が出ると噂のイベントだったのに……。後悔しても遅いけれど、やっぱり後悔してしまうわ。続編とはどんな物語だったのかしら?
話が逸れたわ。
そうして前世の記憶を思い出した私は悪役令嬢としてのフラグを回避すべく、日々努力してきたのよ。謙虚に慎ましく勤勉に生きて、事前に知り合っているはずの攻略対象たちとは出会わないようにしたり画策していたのだけれど、結局は全て初期設定に戻されて元の軌道に乗ってしまうのよ!
※
……そうして、明日はラフーワ魔法学院の入学式となってしまいました。
入学早々、私は一般家庭上がりのヒロインに対して取り巻き――いえ、実際は幼い頃からの単なるお茶会友達なんですけども――たちと一緒に威圧して、この学院の威厳を知らしめる事になるのだわ。
でも今なら解るの。私の、悪役令嬢カレンのゲーム上でのあの態度は一般家庭出のヒロインを気遣ってのことだったって。
だって、私はどの攻略対象よりも、ヒロインちゃん(デフォルト名無し)の事が好きなんだもの…!!
はぁ、はぁ、かわいいよぉヒロインちゃん~!!
正直どの男にも取られるのは悔しい。悔しいけれど。
ここは素直に、私に課せられた運命である『悪役令嬢』を全うしましょう。
それがヒロインちゃんの幸せに繋がるのなら――――
翌日。
さて、今日がいよいよゲームスタートの日。我らがヒロインちゃんの学院デビューの日ですわ。
本当だったら丁重にもてなして、プレゼントを送ったり、サインをねだったり、あわよくばご一緒にお茶など出来る仲になりたいのですけれど……。
それは今までの経験上、きっと無理なのでしょう。全てはシナリオ通りに事が進むはずですわ。
「ヒロ・インです! よっ、よろしくおねがいします!!」
教室にヒロインちゃんの自己紹介の声が響く。『ヒロ・イン』って……。このゲームのプレイヤーは随分杜撰で適当なのね? 私の大切なかわいいヒロインちゃん、もっと素敵な名付けをしてほしかったですわ!!
「よぉ、ヒロ。まさか学院にやってくるとはな!」
そうヒロインちゃんに気軽に声を掛けたのは、ヒロインちゃんの幼馴染であり炎の魔法剣士・予備生のキース・バーベナ。ヒロインちゃんの攻略対象のひとり。
「こら、キース。まだクラス全員の自己紹介の途中だぞ。流れを止めるな」
「わりぃわりぃ!」
キースを注意したメガネ生徒会長属性なこの男子はエルゼン・マートル。防御系魔法に秀でている、こちらの彼も攻略対象のひとり。
さて、私の出番ですわね。
「――これだから平民出身の者は。ここは選ばれし者だけが通うラフーワ魔法学院ですわ。大人しく、粛々と勉学に励みなさい」
「そうよそうよ! カレン様の仰る通りだわ」
「流石は伯爵令嬢カレン様ですわ。学院の規律を解ってらっしゃる」
続々と、友人たち――もとい、ゲーム内では取り巻きのモブなのですわね――が私の意見に賛同します。
そ、そこまで威圧感を与えなくても。と思うけれどもう仕方ないですわ。
「…………いけすかねー女」
すかさずヒロインちゃんをかばう言葉を発した者が居た。出た。出ましたわ。第3の攻略対象、オルキス・オンシジウム。彼は孤高の一匹狼系。強力な攻撃魔法、特に雷系を使う優秀な生徒よ。
「まぁっ! なんですって!」
私は顔を赤くして着席する。悔しいわ! ヒロインちゃんを庇うそのポジション――!
放課後。とりあえず今日の私の役目は終わったわ。
ヒロインちゃんはきっと教会で4人目の攻略対象、温厚ながらヤンデレなシオン神父様や、帰り道に隠し攻略対象の妖精王リュオン様にお会いしているでしょう。
※
私は屋敷で晩餐前の休憩を取っていたわ。
……もうこの人生に入ってしまったら私はどの道公爵令嬢としては終わるのでしょう。
ならばクラスメイトであるかわいいヒロインちゃんの姿をとくと目に焼き付けておくわ――――!
コンコン、とドアがノックされる。
私の侍女、デンファレが部屋に入ってきました。一体何かしら?
「カレン様。カレン様にお会いしたいと、大公閣下がお屋敷にやってまいりましたが……いかがご応対なされましょう?」
「え、何それ。大公閣下なんて知らない」
このゲームに登場するのは公爵家まで。つまり私の家の位が一番高いはずだわ。
そこに格上の大公閣下が現れるなんて、聞いてない。
「ご存知でしょう? ニーハイムス・アスター大公閣下様ですよ」
ニーハイムス・アスター? ニーハイムス様なら確かに社交界で何度か顔を合わせてご挨拶したことが有りますけれど……なぜこのタイミングで私の前に現れるのかしら?
「わかりました。ご応対いたします。着替えるので、少々お時間を頂くわ」
私は急ぎ身支度を済ませ、応接室へと向かいました。
「ニーハイムス様。ごきげんよう。本日はどのようなご用件でしょうか?」
品格を落とさないよう、丁寧に挨拶をします。
ニーハイムス様はこの国の大公閣下であらせられ、次期国王とも噂される優秀な人物。攻略対象ではないのが不思議なくらい見栄えもいい。漆黒の髪に吸い込まれるような赤い瞳の持ち主。
これ絶対、ゲーム内に登場したら人気投票上位よね……。
「お久しぶりです、カレン様。本日はカレン様に大切なお願いをしたく、馳せ参じました」
「まあ、急なご用件なのでしょうか? 想像も出来ませんわ」
「急ですが、私の中では急でも何でもありません。ただ、ただ大切なお願いです」
「一体どういうことでしょう……?」
さて、過去の私、ニーハイムス様に何かしたかしら?
ニーハイムス様は私の前まで来て、そして跪きました。
「どうか、魔法学院卒業と同時に私と結婚して頂きたいのです――――」
「…………え?」
ちょ、ちょっと待って、カレンがニーハイムス様と結婚するエンディングなんて見たことも聞いたことも無いわ!
私は魔法学院卒業と同時に追放されたり出家したり行方不明になったり散々な人生を歩むことになるのよ!?
「今は、婚約だけでも」
そう仰って、ニーハイムス様は立ち上がって私に顔を近づけてきたわ。
う、ううっ! 美形の圧ですわ……っ!!
「な、なぜニーハイムス様は私なんかに結婚を…?」
他にいい相手、居ますわよ。例えばヒロインちゃんとか、ヒロインちゃんとか。
「……幼い頃から。社交界でお会いして一目惚れしていたのです。本日馳せ参じたのは、貴女がラフーワ魔法学院に入学したと知り――」
ニーハイムス様は苦痛そうな顔で続けた。
「他の男に取られたら、と思うと胸が傷んで仕方なかったのです」
「…………はい?」
あの、私は学院のめぼしい男性陣には見向きもされず嫌悪される存在になっていくのでそのようなご心配は無用なのですけれど?
とは流石に言えなかったですわ。
ニーハイムス様は、そっと指輪を差し出して私にこう仰ったわ。
「どうか、私のモノになってくださいカレン。カレン・アキレギア」
「…………」
予想外の展開に、私のアタマは真っ白で。
だって決められた人生以外の道が、まさか突然やってくるなんて思いもしなくて。
もし、この方が私の人生を救済してくださるのなら、それならば――――
ごめんなさい、ヒロインちゃん!!
最推しなのは今も昔も将来もずっと、変わらないです――――!
「…………はい」
私は婚約を受け入れていた。
新しい人生が開ける。可能性の道が。
それはなんて素敵な事なんでしょう!
もう何年も人生を模索して、諦めて、受け入れる事に納得していた私の心に、一輪の花の蕾が現れた。そんな気がしましたわ!
けれど、この時はまだ知らなかったのです。このニーハイムス様が私の魔法学院生活の台風の目になって行く事を――――
この世に生を受けて15年。
明日、立派な『悪役令嬢』としてデビューする予定なの。
ここは乙女ゲーム『花と嵐と恋の華~魔法学院でドキドキ☆スクランブル~』の世界。
そう突然自覚したのは7歳の頃だったかしら?
私は今のカレンに転生前、このゲームの大ファンで全ルート攻略はもちろんのこと、ゲームレーベル主催の公式イベントやコラボカフェなんかにも足繁く通った本物のオタクだったの。
けれど転生前の私は、18歳の日曜日、公式イベント『花と嵐と恋の華~魔法学院でドキドキ☆スクランブル~ 集合大会2021!』に向かう最中に交通事故で呆気なく死んでしまったのよ!
続編情報が出ると噂のイベントだったのに……。後悔しても遅いけれど、やっぱり後悔してしまうわ。続編とはどんな物語だったのかしら?
話が逸れたわ。
そうして前世の記憶を思い出した私は悪役令嬢としてのフラグを回避すべく、日々努力してきたのよ。謙虚に慎ましく勤勉に生きて、事前に知り合っているはずの攻略対象たちとは出会わないようにしたり画策していたのだけれど、結局は全て初期設定に戻されて元の軌道に乗ってしまうのよ!
※
……そうして、明日はラフーワ魔法学院の入学式となってしまいました。
入学早々、私は一般家庭上がりのヒロインに対して取り巻き――いえ、実際は幼い頃からの単なるお茶会友達なんですけども――たちと一緒に威圧して、この学院の威厳を知らしめる事になるのだわ。
でも今なら解るの。私の、悪役令嬢カレンのゲーム上でのあの態度は一般家庭出のヒロインを気遣ってのことだったって。
だって、私はどの攻略対象よりも、ヒロインちゃん(デフォルト名無し)の事が好きなんだもの…!!
はぁ、はぁ、かわいいよぉヒロインちゃん~!!
正直どの男にも取られるのは悔しい。悔しいけれど。
ここは素直に、私に課せられた運命である『悪役令嬢』を全うしましょう。
それがヒロインちゃんの幸せに繋がるのなら――――
翌日。
さて、今日がいよいよゲームスタートの日。我らがヒロインちゃんの学院デビューの日ですわ。
本当だったら丁重にもてなして、プレゼントを送ったり、サインをねだったり、あわよくばご一緒にお茶など出来る仲になりたいのですけれど……。
それは今までの経験上、きっと無理なのでしょう。全てはシナリオ通りに事が進むはずですわ。
「ヒロ・インです! よっ、よろしくおねがいします!!」
教室にヒロインちゃんの自己紹介の声が響く。『ヒロ・イン』って……。このゲームのプレイヤーは随分杜撰で適当なのね? 私の大切なかわいいヒロインちゃん、もっと素敵な名付けをしてほしかったですわ!!
「よぉ、ヒロ。まさか学院にやってくるとはな!」
そうヒロインちゃんに気軽に声を掛けたのは、ヒロインちゃんの幼馴染であり炎の魔法剣士・予備生のキース・バーベナ。ヒロインちゃんの攻略対象のひとり。
「こら、キース。まだクラス全員の自己紹介の途中だぞ。流れを止めるな」
「わりぃわりぃ!」
キースを注意したメガネ生徒会長属性なこの男子はエルゼン・マートル。防御系魔法に秀でている、こちらの彼も攻略対象のひとり。
さて、私の出番ですわね。
「――これだから平民出身の者は。ここは選ばれし者だけが通うラフーワ魔法学院ですわ。大人しく、粛々と勉学に励みなさい」
「そうよそうよ! カレン様の仰る通りだわ」
「流石は伯爵令嬢カレン様ですわ。学院の規律を解ってらっしゃる」
続々と、友人たち――もとい、ゲーム内では取り巻きのモブなのですわね――が私の意見に賛同します。
そ、そこまで威圧感を与えなくても。と思うけれどもう仕方ないですわ。
「…………いけすかねー女」
すかさずヒロインちゃんをかばう言葉を発した者が居た。出た。出ましたわ。第3の攻略対象、オルキス・オンシジウム。彼は孤高の一匹狼系。強力な攻撃魔法、特に雷系を使う優秀な生徒よ。
「まぁっ! なんですって!」
私は顔を赤くして着席する。悔しいわ! ヒロインちゃんを庇うそのポジション――!
放課後。とりあえず今日の私の役目は終わったわ。
ヒロインちゃんはきっと教会で4人目の攻略対象、温厚ながらヤンデレなシオン神父様や、帰り道に隠し攻略対象の妖精王リュオン様にお会いしているでしょう。
※
私は屋敷で晩餐前の休憩を取っていたわ。
……もうこの人生に入ってしまったら私はどの道公爵令嬢としては終わるのでしょう。
ならばクラスメイトであるかわいいヒロインちゃんの姿をとくと目に焼き付けておくわ――――!
コンコン、とドアがノックされる。
私の侍女、デンファレが部屋に入ってきました。一体何かしら?
「カレン様。カレン様にお会いしたいと、大公閣下がお屋敷にやってまいりましたが……いかがご応対なされましょう?」
「え、何それ。大公閣下なんて知らない」
このゲームに登場するのは公爵家まで。つまり私の家の位が一番高いはずだわ。
そこに格上の大公閣下が現れるなんて、聞いてない。
「ご存知でしょう? ニーハイムス・アスター大公閣下様ですよ」
ニーハイムス・アスター? ニーハイムス様なら確かに社交界で何度か顔を合わせてご挨拶したことが有りますけれど……なぜこのタイミングで私の前に現れるのかしら?
「わかりました。ご応対いたします。着替えるので、少々お時間を頂くわ」
私は急ぎ身支度を済ませ、応接室へと向かいました。
「ニーハイムス様。ごきげんよう。本日はどのようなご用件でしょうか?」
品格を落とさないよう、丁寧に挨拶をします。
ニーハイムス様はこの国の大公閣下であらせられ、次期国王とも噂される優秀な人物。攻略対象ではないのが不思議なくらい見栄えもいい。漆黒の髪に吸い込まれるような赤い瞳の持ち主。
これ絶対、ゲーム内に登場したら人気投票上位よね……。
「お久しぶりです、カレン様。本日はカレン様に大切なお願いをしたく、馳せ参じました」
「まあ、急なご用件なのでしょうか? 想像も出来ませんわ」
「急ですが、私の中では急でも何でもありません。ただ、ただ大切なお願いです」
「一体どういうことでしょう……?」
さて、過去の私、ニーハイムス様に何かしたかしら?
ニーハイムス様は私の前まで来て、そして跪きました。
「どうか、魔法学院卒業と同時に私と結婚して頂きたいのです――――」
「…………え?」
ちょ、ちょっと待って、カレンがニーハイムス様と結婚するエンディングなんて見たことも聞いたことも無いわ!
私は魔法学院卒業と同時に追放されたり出家したり行方不明になったり散々な人生を歩むことになるのよ!?
「今は、婚約だけでも」
そう仰って、ニーハイムス様は立ち上がって私に顔を近づけてきたわ。
う、ううっ! 美形の圧ですわ……っ!!
「な、なぜニーハイムス様は私なんかに結婚を…?」
他にいい相手、居ますわよ。例えばヒロインちゃんとか、ヒロインちゃんとか。
「……幼い頃から。社交界でお会いして一目惚れしていたのです。本日馳せ参じたのは、貴女がラフーワ魔法学院に入学したと知り――」
ニーハイムス様は苦痛そうな顔で続けた。
「他の男に取られたら、と思うと胸が傷んで仕方なかったのです」
「…………はい?」
あの、私は学院のめぼしい男性陣には見向きもされず嫌悪される存在になっていくのでそのようなご心配は無用なのですけれど?
とは流石に言えなかったですわ。
ニーハイムス様は、そっと指輪を差し出して私にこう仰ったわ。
「どうか、私のモノになってくださいカレン。カレン・アキレギア」
「…………」
予想外の展開に、私のアタマは真っ白で。
だって決められた人生以外の道が、まさか突然やってくるなんて思いもしなくて。
もし、この方が私の人生を救済してくださるのなら、それならば――――
ごめんなさい、ヒロインちゃん!!
最推しなのは今も昔も将来もずっと、変わらないです――――!
「…………はい」
私は婚約を受け入れていた。
新しい人生が開ける。可能性の道が。
それはなんて素敵な事なんでしょう!
もう何年も人生を模索して、諦めて、受け入れる事に納得していた私の心に、一輪の花の蕾が現れた。そんな気がしましたわ!
けれど、この時はまだ知らなかったのです。このニーハイムス様が私の魔法学院生活の台風の目になって行く事を――――
応援ありがとうございます!
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