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第2章

【23】妖精王リュオンの場合 その2!

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 ――翌日の朝。

 妖精王リュオン様はヒロさんとの通り、ラフーワ魔法学院の生徒に変身して登校してくださったわ。

 リュオン様の周囲がざわついています。
「……素敵!」
「お美しい方だわ……!」
「あんな方この学院にいらっしゃったかしら……?」

 リュオン様はうざったそうな表情カオをして、指をパチンと鳴らしましたわ。
 すると、
「――ああ、なんだ3年生のリュオン様でしたわ」
「いつもお見かけするのに私たちは何を驚いていたのでしょうね?」
「仕方ないかもしれませんわね。いつ見てもお美しい方ですもの――」
 リュオン様の周囲の方々が解散していきます。
 もしや記憶操作の魔法でもお使いになったのかしら――?

「おはようございます、リュオン様!」
 周囲の人が散った後、ヒロさんと私はリュオン様に近づいたわ。
「ああ、おはようヒロ、カレン――約束通り、今日は生徒として学院に登場したぞ」
 ヒロさんが言いました。
「私たちと同じクラスでは無いんですか?」
「――うむ。そなたたちと同じ年齢というのは私の気持ち的に落ち着かぬ――」
 どうやら、妖精王様の何か不思議なプライドのようでしたわ。
 言われればお見かけも18歳から19歳程度ですし。私たちより上の学年の方が適切でしょう。

 そんな話をしている私たちに、ニーハイムス様ことニース先生が近付いてまいりました。
「カレン、ヒロ、おはよう。……? そちらの生徒はどなたかな?」
「ニース先生! おはようございます! こちらは、ジャーン! 妖精王リュオン様です!」
 ヒロさんは包み隠さず紹介してしまったわ!
「ちょっと、ヒロさん――!」
 私は慌ててヒロさんを制止しようとしましたが、
「あははは、よい、よい」
 リュオン様は笑っておいでですわ。
「――? 『妖精王リュオン様』? 林の泉にいらっしゃるという伝説の? ヒロは面白いことを言うなぁ」
 幸か不幸か、ニース先生はヒロの話を信じていない様子でしたわ。

 リュオン様はニース先生を一瞥すると、悪戯っ子のような笑顔を浮かべて、
「ああ……が例のカレンの『指輪の相手』か――」
 私を引き寄せてニース先生にこう言ったのですわ。
「私はこのカレン・アキレギアとはとある『秘密』を分け合う仲じゃ。決してそなたには侵入させぬよ――」

「なっ――――カレン! それは本当ですか!?」
 ニース先生はあからさまに動揺しておいでですわ!
「……ほ、本当と言えば本当ですわ……」
 ヒロさんも『秘密』を共有していますけれど!
「――……何ということだ……カレンが俺の知らないうちに……」
 ……ニース先生ことニーハイムス様は何か重大な誤解をしているようですわ。

「ニース先生、カレンちゃんのことになると人が変わってません?」
 ヒロさんが純粋ピュアな目で私たちを見ているわ……。

 リュオン様は不敵に笑った後、
「それではヒロ、カレン、そしてついでにそこの者。昼休みと放課後、落ち合おうではないか」
 そう言って、校舎の中に消えていったのですわ――――

「カレン! 今の彼とはどういった――」
 ニース先生が私の肩を掴んで訊いて来ますわ。しかしこの学院前では目立ってしまいます! 私は素知らぬフリをして――
「さ、さあ? そんなことよりも授業が始まってしまいますわ。ヒロさん、行きましょう……!」
 私は逃げるようにニース先生の元を離れ、教室へ向かったのですわ――――


  ※


 お昼休み。
 リュオン様は私たちの教室まで出向いてくださったわ。
 丁度、キース、エルゼン、オルキスも揃っていたのでご紹介出来ますわね。

「リュオン様! こっちに居るのがキースとエルゼンとオルキスです!」
 ヒロさんがリュオン様を教室の私たちの席まで連れてきたわ。

「おお、存じておるぞ。魔法剣士候補のキースとその若さで子爵家当主のエルゼンと子猫の一件のオルキスだな」
「なっ! 何で子猫のことを――!!」
オルキスが焦っているわ。ヒロさんが説明する。
「オルキス、あの子猫ちゃんたちを引き取って育てていてくれるのがこの妖精王リュオン様なのよ!」
「……子猫のやつらをひきとってくれた? 妖精王?」
 オルキスは混乱しているようだわ。
 キースは、調子に乗って。
「へーっ、アンタ初めて見るカオなのに俺のこと知ってるんだな! もしかして俺って有名人?」
 エルゼンは、至って冷静に。
「『妖精王』とは。冗談にしてはつまらんな。ヒロ」

 そこに、教室へ急ぎ足で入ってきた人物が居ましたわ。
「―――カレンっ!……と、ヒロとそこのキミ!」
 ニーハイムス様ことニース先生でしたわ……。

「私の名前は『キミ』ではない。リュオンだ」
 リュオン様は改めて自己紹介(?)なさいましたわ。
「そ、そうだったリュオン……。朝はカレンをあんなふうにして、一体どういうつもりなんだい!?」

「『あんなふう』!?」
 キース、エルゼン、オルキスが一斉に私とリュオン様とニース先生に注目しましたわ。
「ちょ、ちょっとニース先生! リュオン様が私に少し近寄っただけでは有りませんか……!」
 ニース先生は私のことになると少し冷静さを欠くようですわ。まあ、そんなところはも愛しくて嬉しいのですけれど……!

「カレンは俺の――むぐっ」
 私は焦って急いだあまり、ニース先生のみぞおちに拳を繰り出していましたわ…………。
――可愛い生徒ですものね?」
 笑顔でニッコリと。ニース先生に圧をお伝えしましたわ。伝われ、この想い――!
「…………そ、そうですね、カレンは私の可愛い生徒です。その生徒と不純な行為をしているのなら私は見逃せません……」
「不純という程では有りません!」
 私はニース先生に強く主張しましたわ。

「そうだね、普通のスキンシップだったよね」
 ヒロさんも朝の私とリュオン様のやりとりを思い出しながら仰ったわ。
「『カレンがスキンシップ!?』」
 またキース、エルゼン、オルキスが声を揃えました。
 私、普段どんなふうにみられているのかしら……。

「ははは、面白い。笑わせてくれるではないか皆」
 リュオン様は笑っているわ。

 そこでお昼休みは時間切れ。

「――はぁ。それでは、放課後。いつもの休憩所で会おうではないか」

 そう言い残してリュオン様は教室から立ち去ったのですわ。

「ニース先生も、次の授業に向かって下さいませ」
 唖然とするニース先生を小突いて、我に返らせましたの。

「放課後が楽しみね! カレンちゃん!」
 ヒロさんはのん気に楽しそうにしていますわ。

 何かすっかり、リュオン様のペースになっている気がします――――
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