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4.アダマンタイト鉱石
しおりを挟むザナルメディ迷宮は広大で大陸全土に広がっていると言われている。その広さゆえ、未踏の道も多く地図も日々更新され、広がり続けている。
その理由の一つは、迷宮で貴重な鉱石が採掘できることにある。一攫千金を夢見た冒険者が採掘している。
掘り続けることにより、迷宮は広がり、落盤により、道は変わる。たまに他のダンジョンと繋がることもあり、その影響で生態系もつねに変化している。
ザナルメディ迷宮、その全貌を把握しているものはいないと言われている。
バルボアは酒場のテーブルに地図を広げ考え込んでいる。
ザナルメディ迷宮で、貴重なアダマンタイト鉱石が発掘されたとの情報を入手したのである。酒場もその話題で活気に満ちている。
問題はそのルートだ。迷宮への入口は何百とある。なるべく近くのルートから侵入したいところだが、アダマンタイトが発見された位置は、隣国の領土の地下なのだ。
隣国はバルボアにとって未踏の土地である。
それに危険なルートを避けながら、目的地に向かいたいところだが。どうしても危険な溶岩地帯を通ることになる。
悩んでいると、
「もしかして、もしかしてアダマンタイトの採掘にいこうとしてるのか?」声をかけてきたのは、酒場でいつも飲んだくれてるホビットのチッチだ。少年のような体躯をしているが、ホビットは見た目の若さとは裏腹に結構年をくっていることがある。
「そうだが…」返事をすると。
「俺ならいいルートを知っている。教えてやろうか?」
チッチは酔っ払って大きな鼻を真っ赤に染めながら言う。
「酔っ払いの戯言はやめろ」とたしなめると、そんなことお構いなしに陽気に肩を組んでくる。
「秘密の抜け道があるんだよ」とチッチは耳打ちした。
「ここだよ、ここ」
案内されたのは林の中にある民家だった。
扉をあけると家の中にはホビットのばあさんが座っている。
「通行料2000ゴールドだよ」
お金を渡すとばあさんは怒った。
「1人2000ゴールド!」
チッチをみると「出せないなら案内はここまでだ」という態度だ。
仕方なく支払うとばあさんは、床板をはがす。
ぽっかり空いた穴から風が吹き込む。
中は迷宮に繋がっていた。
先頭は案内人であるチッチが歩いた。
道中オレンジをもぎ取っていると、
「シッ、静かにこの先にモンスターがいる」とチッチが警戒する。動きをとめ、静かにする。「もう大丈夫、先に進もう」
チッチは索敵能力に長けていた。相手が気づくよりも先に気づき、その対策をする。
道中、酒を飲んでいるにも関わらず、殆どモンスターに遭遇せずに先に進めている。昔、冒険者をしていたという噂はあながち間違いではなさそうだ。
分岐点につくたびにチッチは金をせがんだ。
「旦那様、ここから先は、追加料金になります」
分岐のたびに支払っていたが、お金に無頓着なバルボアの資金はすぐに底をついた。財布の中はカラである。
それを告げると疑わしい顔をしたが、代わりに荷物の一部を渡すと、すぐに「まーいいか、その代わり鉱石を見つけたら山分けだからな」とチッチは言った。
野営をする。
グツグツと煮えたぎる鍋を火から下ろすと、
ルーを溶かしながらかき混ぜる。
今夜はカレーだ。人参、玉ねぎ、ジャガイモを入れてある。
肉は鶏のモモ肉をタップリ入れた。
「辛い!」チッチはひと口食べるとそう叫ぶ。だが、パクパクとカレーを食べる。
「はっはっは!子供だな」とバルボアが笑うと「ばかにするなよ」と酒をあおる。
「酒はそれぐらいにしといたらどうだ?まだ、未成年だろ」
手が止まる。驚いた目でバルボアをみる。
図星のようだ。
「子供のわけないだろ!見た目で馬鹿にしやがって!」と怒るとチッチは食器を片付けふて寝した。
ふと目が覚めると隣で寝ていたはずのチッチがいない。
逃げ出したのかと思ったがそんなことはなかった。
「トイレ」と暗闇の中から現れると、残っていた酒を飲み、また満足そうにいびきをかいて寝てしまう。
案内を途中で放りだすようなことはなさそうだ。
バルボアは安心して眠りについた。
先に進むとだんだんと暑くなってくる。地図的には国境の間にそびえ立つ、ミネストロ山脈の下らへんだ。
ついに溶岩地帯に入った。
溶岩が流れている横を通り過ぎる。サウナにきたかのような暑さで、空気を吸うだけで喉が焼けそうだ。
チッチも暑さでバテてきている。
溶岩地帯を抜け出すとバルボアは保冷バッグをあける。
「ホレッ」とチッチにシャーベットを渡した。昨夜のうちにオレンジを搾り、砂糖を加え、氷魔石で冷やしておいたのだ。シャリシャリとシャーベット状になったオレンジは、口の中で冷たく溶ける。シャーベットは喉の渇きを潤してくれた。
「カンッ!カンッ!」通路の先から岩を叩く音が聞こえてくる。やっとついた。目的地では噂を聞きつけた冒険者達が既に集まっていた。ツルハシで岩を砕き、鉱石を掘り当てた冒険者達からは歓声があがっている。
坑内は広く、縄張り争いもまだおきていなかった。
皆、各々好きな場所を掘り進めている。
バルボアとチッチも、道具を取り出し、掘り始める。
岩は硬く、掘り進めるのは困難であった。
後続から新たな冒険者が続々と現れ、活気に満ち溢れる。
ガラガラッと大きく岩壁が崩れ落盤がおきる。近くの冒険者は巻き込まれる前に素早く避難した。壁にはポッカリ空洞が出来た。
その穴からは無数の紫色に光る目が現れた。
大百足の巣を引き当てたようだ。無数の大百足が穴からは這い出てくる。百足は鞭のようにしなると近くの冒険者の肩に噛みついた。血飛沫と共に肩口は紫に変色していく。
洞窟内は阿鼻叫喚に変わった。
肩口を噛まれた冒険者はそのまま持ち上げられ、天井に叩きつけられる。見上げるほど大きな百足。頭はオレンジ色で体は黒い甲殻で守られている。穴から続々と百足の群れがモゾモゾ這い出てくる。
バルボアが横をみるとチッチは既にいない。逃げ足の素早い奴だ。
大百足は常に高速で動き硬い甲殻は剣を弾き、その巨体で冒険者を踏み潰していく。
だがそんな光景をみても動じない冒険者達もいた。
アダマイト欲しさに歴戦の猛者達がここに集まっていた。
槍使いが甲殻の隙間に槍を刺す。
「雷光蒼鋭斬!」
槍の先端は稲妻を放つと百足の肉を内部から焼ききった。
稲妻の魔力を纏った槍を持った冒険者、それは、武器屋の親父セバスチャンだ。
稲妻で動きの鈍くなった百足にさらに、冒険者は飛びかかる。剣は百足の頭上に突き刺さる。
ズシンッとその巨体が地面に倒れる。頭蓋を貫かれても百足はまだ生きている。再び鎌首を持ち上げると
「キィシャャャャャァァ!!」と咆哮をあげる。
「背中の甲殻は硬い!腹部を狙え!」
「ウオラアアアアア!!!」
欲にまみれた冒険者達が続々と戦いに参戦した。
その中には聖教騎士団や西の魔導教団の姿もあった。
「ファイヤーボール!!」魔導教団の魔法で炎の硬球の魔法が一斉に撃ち込まれる。
バルボアもそれに巻き込まれないよう加わり、大きな斧を振った。
戦闘が終わり。怪我の手当てを始めた。
その中には酒場の顔なじみが結構いた。
そこで世間話をしていると、不思議なことに自分達と全く同じルートできていることがわかった。
「なるほど」
道中やたらとモンスターに出くわさず、安全だった理由を理解した。
チッチはバレないよう酒場の別パーティーの後をつけていたのだ。危険が排除され、安全が確保された後、その通路をさも自分が案内するかのように歩いていたのだ。
やたらと休憩するのも、他の冒険者一定の距離を取るためだ。
中々のずる賢さだなとバルボアは関心した。
チッチもいつの間にか戻ってきており、大野営を始める。
怪我人達の傷の手当てや、食事をその場の冒険者達で協力してみた。またモンスターが現れる可能性もあるので順番で見張りもしている。
その間にも採掘場には聖教騎士団の増援が続々と集まる。
不穏な空気を察したバルボアはチッチを叩き起こす。
「なんだよ…」と不機嫌そうに起きたチッチもことの異様さに気づく。
二人はそそくさと荷物をまとめると坑道を出る。
「今からこの採掘場は聖教騎士団が管理する!洞窟内にいるものは集まれ!」
通路にまで響き渡る。騎士団はアダマンタイトの没収を始めた。「アダマンタイトは我が国の資源である!無断で持ち出すものには厳しい処分があるものと思え!」
二人は見つからないよう急いでその場を後にした。
採掘場は隣国の統治下に納められた。
「これからだってのよー」チッチは不満をたれながら、小石を蹴る。
チッチは帰り道、バルボアからせしめた荷物を踏ん張りながら運ぶ。帰るまでの間に荷物の殆どはチッチのものになったのだ。ぶつくさ言いながら重い荷物を運ぶ。
「やっぱ、子供だな」バルボアは身軽になった体で軽快に歩く。
「ただいま!」クタクタになって帰ってきた二人を
「おかえり!」と酒場のみんなは迎えた!
ウエイターのモルダーは、二人の席に酒と料理を並べる。
「さて、今日はどんな冒険譚を聞かせてくれるのかな?」
その問にバルボアは懐からアダマンタイトを取り出した。
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