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番外編
クリスマス・リベンジ(前編)
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今夜はクリスマスイブ。
人々が様々な思いで過ごす日。
藤ヶ谷は杉野と2人で、クリスマスイルミネーションを見に来ていた。
カップルや子連れ、学生などが公園に広がる光の海を楽しげに歩いていく。
昨年、優一朗と来るはずだったイベントだ。
今となっては懐かしい、と、ポスターを見かけた時に軽い気持ちで杉野に言ったのだが。
「『兄さんと行くはずだったイベント』じゃなくて、『俺と行ったイベント』に変えましょう」
と、謎の対抗心を燃やしてしまい来ることになった。
イルミネーションくらい普通に誘えよとわらいつつも、たまに出る子どもっぽさが可愛くて愛しい。
「綺麗だなー」
澄んだ空気の中で輝く人工の光を見ながら、藤ヶ谷は杉野の腕に自分の腕を絡めてピッタリとくっつく。
手袋にマフラーにコートに毛糸の帽子にと、完全防備をしてきたにも関わらず真冬の夜は寒い。
正直に寒い寒いと言っていたら、
「くっついたらあったかいですよ」
と杉野から言ってくれたので遠慮はしない。
少し歩きにくさも感じるが、年下相手に全力で甘えることにした。
杉野も、毛糸の帽子を被った藤ヶ谷の頭に頬を寄せてきている。
幸せオーラを振り撒き、通りすがる人が振り返るレベルのラブラブっぷりだった。
2人を見て、思わず距離を近づけるカップルもいたほどだ。
トンネルにサンタクロースにトナカイに雪の結晶、花畑。
全て色とりどりの光で出来ていて、幻想的な空間だった。
そして隣を見上げると、一点の隙もない美形の杉野がいる。
視線を送るたびに目が合って、微笑んでくれた。
(俺、ほんと愛されてるーっ好き好き好き)
「藤ヶ谷さん」
黒いダウンコートにわしゃわしゃと頬擦りしていると、声をかけられて顔を上げる。
すると、あっという間に顔が近づいてきて、そっと鼻先に口付けられた。
寒さで元々赤かった藤ヶ谷の顔がさらに朱に染まる。
「ひ、人に見られるって」
「見せてるんですよ。この人は俺のだって」
こんなことを言う男だったか。
根は優しいと思ってはいたが、いつも淡々としたクールな後輩だったはず。
それが番になってから別人のように甘くなった。
そしてそれが日が経つごとにどんどんエスカレートしていっている気がするのだ。
しかし、誰に言っても、
「そんなに変わってない」
と言われてしまう。解せない。
(怖いくらい幸せだからいいけどさぁ)
付き合い始める随分と前から、みんなは杉野の気持ちを知っていたらしいから仕方がない。
藤ヶ谷は美しいイルミネーションに集中することにした。
屋台でホットワインを買って温まったり軽食をたべたりしつつ、一通り見終わる。
イルミネーションマッピングは大人でも感動するような迫力だった。
楽しい思い出を胸に、寒いから帰ろうかと会場を後にする。
すると、藤ヶ谷はふと大通りから逸れたところにショッキングピンクのツリーを発見した。
「あれも見に行くか」
「……あれですか」
ぴくりと眉の動いた杉野の腕を引いて、そのツリーのところまで歩いていく。
「相変わらず派手だなー」
去年、優一朗と話した後に杉野と待ち合わせた場所だ。
赤、ピンク、金のハートが光る大きなクリスマスツリーは、記憶と全く変わらない。
毎年、同じものを飾っているのだろう。
会場内の幻想的な飾りとは雰囲気が異なるギラギラとしたツリーを、前回とは違い明るい気持ちで見上げていると。
「あ……」
白いものがちらちらと空から落ちて来た。
藤ヶ谷は手のひらを上にして、手袋の上に乗った雪に口元を緩める。
「ホワイトクリスマスだな!」
「本当ですね。寒いわけだ」
「雪降り坊主、作った甲斐があった」
「そんなの作ってたんですか」
機嫌の良い藤ヶ谷を、微笑ましげに杉野が笑う。
子どもっぽいと揶揄うこともなく、いつも通り優しい。
「じゃあ、こんなに寒いのは藤ヶ谷さんのせいですね」
「あはは、そうかもな」
「責任とってあっためてくれますか?」
言葉と共にふわりと胸に抱き寄せられて、藤ヶ谷は思わず周りを見渡した。
この辺りは子連れもおらず、カップルばかりなことに気がついて少し安心する。
子どもが好きそうな煌びやかなツリーなのに、去年もここには子連れは見当たらなかったと思い出す。
子どもが来るような場所ではないからだ。
「よしよし、仕方ないなぁ」
さっきまで温めて貰っていたのは藤ヶ谷の方だが、恩着せがましく背中に腕を回して頬に口付けた。唇に柔らかく冷たい感触がする。
「俺の家、来る?」
「うってつけの場所が目と鼻の先ですよ」
「え?あ……」
顔を上げると、カップルたちが吸い込まれていく道がある。
キラキラと派手なネオンが彩る建物が並ぶ、恋人たちの場所。
そう、ここはホテル街。
知っていたし覚えていたはずなのに、言われてようやく意識した。
藤ヶ谷は自分から、杉野をここに誘導してしまったのだと。
この後は家に帰って、杉野と触れ合うつもりではいた。
だが、これは想定外だ。
みるみる顔が熱くなってくる。
藤ヶ谷は見るからに狼狽えて杉野の腕の中で体を小さくする。
「お、俺そういうつもりじゃ……ないこともないけど、その」
「知ってますよ。でも、俺が家まで待てないので」
今日一番楽しげな表情の杉野に肩を抱かれた藤ヶ谷は、そのままネオンの光に飲み込まれていった。
人々が様々な思いで過ごす日。
藤ヶ谷は杉野と2人で、クリスマスイルミネーションを見に来ていた。
カップルや子連れ、学生などが公園に広がる光の海を楽しげに歩いていく。
昨年、優一朗と来るはずだったイベントだ。
今となっては懐かしい、と、ポスターを見かけた時に軽い気持ちで杉野に言ったのだが。
「『兄さんと行くはずだったイベント』じゃなくて、『俺と行ったイベント』に変えましょう」
と、謎の対抗心を燃やしてしまい来ることになった。
イルミネーションくらい普通に誘えよとわらいつつも、たまに出る子どもっぽさが可愛くて愛しい。
「綺麗だなー」
澄んだ空気の中で輝く人工の光を見ながら、藤ヶ谷は杉野の腕に自分の腕を絡めてピッタリとくっつく。
手袋にマフラーにコートに毛糸の帽子にと、完全防備をしてきたにも関わらず真冬の夜は寒い。
正直に寒い寒いと言っていたら、
「くっついたらあったかいですよ」
と杉野から言ってくれたので遠慮はしない。
少し歩きにくさも感じるが、年下相手に全力で甘えることにした。
杉野も、毛糸の帽子を被った藤ヶ谷の頭に頬を寄せてきている。
幸せオーラを振り撒き、通りすがる人が振り返るレベルのラブラブっぷりだった。
2人を見て、思わず距離を近づけるカップルもいたほどだ。
トンネルにサンタクロースにトナカイに雪の結晶、花畑。
全て色とりどりの光で出来ていて、幻想的な空間だった。
そして隣を見上げると、一点の隙もない美形の杉野がいる。
視線を送るたびに目が合って、微笑んでくれた。
(俺、ほんと愛されてるーっ好き好き好き)
「藤ヶ谷さん」
黒いダウンコートにわしゃわしゃと頬擦りしていると、声をかけられて顔を上げる。
すると、あっという間に顔が近づいてきて、そっと鼻先に口付けられた。
寒さで元々赤かった藤ヶ谷の顔がさらに朱に染まる。
「ひ、人に見られるって」
「見せてるんですよ。この人は俺のだって」
こんなことを言う男だったか。
根は優しいと思ってはいたが、いつも淡々としたクールな後輩だったはず。
それが番になってから別人のように甘くなった。
そしてそれが日が経つごとにどんどんエスカレートしていっている気がするのだ。
しかし、誰に言っても、
「そんなに変わってない」
と言われてしまう。解せない。
(怖いくらい幸せだからいいけどさぁ)
付き合い始める随分と前から、みんなは杉野の気持ちを知っていたらしいから仕方がない。
藤ヶ谷は美しいイルミネーションに集中することにした。
屋台でホットワインを買って温まったり軽食をたべたりしつつ、一通り見終わる。
イルミネーションマッピングは大人でも感動するような迫力だった。
楽しい思い出を胸に、寒いから帰ろうかと会場を後にする。
すると、藤ヶ谷はふと大通りから逸れたところにショッキングピンクのツリーを発見した。
「あれも見に行くか」
「……あれですか」
ぴくりと眉の動いた杉野の腕を引いて、そのツリーのところまで歩いていく。
「相変わらず派手だなー」
去年、優一朗と話した後に杉野と待ち合わせた場所だ。
赤、ピンク、金のハートが光る大きなクリスマスツリーは、記憶と全く変わらない。
毎年、同じものを飾っているのだろう。
会場内の幻想的な飾りとは雰囲気が異なるギラギラとしたツリーを、前回とは違い明るい気持ちで見上げていると。
「あ……」
白いものがちらちらと空から落ちて来た。
藤ヶ谷は手のひらを上にして、手袋の上に乗った雪に口元を緩める。
「ホワイトクリスマスだな!」
「本当ですね。寒いわけだ」
「雪降り坊主、作った甲斐があった」
「そんなの作ってたんですか」
機嫌の良い藤ヶ谷を、微笑ましげに杉野が笑う。
子どもっぽいと揶揄うこともなく、いつも通り優しい。
「じゃあ、こんなに寒いのは藤ヶ谷さんのせいですね」
「あはは、そうかもな」
「責任とってあっためてくれますか?」
言葉と共にふわりと胸に抱き寄せられて、藤ヶ谷は思わず周りを見渡した。
この辺りは子連れもおらず、カップルばかりなことに気がついて少し安心する。
子どもが好きそうな煌びやかなツリーなのに、去年もここには子連れは見当たらなかったと思い出す。
子どもが来るような場所ではないからだ。
「よしよし、仕方ないなぁ」
さっきまで温めて貰っていたのは藤ヶ谷の方だが、恩着せがましく背中に腕を回して頬に口付けた。唇に柔らかく冷たい感触がする。
「俺の家、来る?」
「うってつけの場所が目と鼻の先ですよ」
「え?あ……」
顔を上げると、カップルたちが吸い込まれていく道がある。
キラキラと派手なネオンが彩る建物が並ぶ、恋人たちの場所。
そう、ここはホテル街。
知っていたし覚えていたはずなのに、言われてようやく意識した。
藤ヶ谷は自分から、杉野をここに誘導してしまったのだと。
この後は家に帰って、杉野と触れ合うつもりではいた。
だが、これは想定外だ。
みるみる顔が熱くなってくる。
藤ヶ谷は見るからに狼狽えて杉野の腕の中で体を小さくする。
「お、俺そういうつもりじゃ……ないこともないけど、その」
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