社畜兎は優しいお猫様に甘やかされる

虎ノ威きよひ

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雲行きが怪しい

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「なにか引っ掛かることがあるなら、正直に言ってくれ」

 セイはきちんと話をしようと、体を起こしてベッドの上で胡座をかいた。
 同じく重い体を起こしたソーマは、手を引かれるままにセイの膝に座る。

 目を合わせられず、視線を落としたまま口を開いた。

「お、俺……セイにやってもらってばっかで、なんか釣り合わない気がして。セイはすごいから、対等になりたいのに」
「うん」

 上手く気持ちがまとまらない。
 それでも口を挟まず、ただ先を促してくれるのがありがたかった。
 ソーマは思いつくままを言葉にしていく。

「今日だって、朝は寝坊したし、俺が行きたいところばっか連れてってもらったし……セイの誕生日なのに」

 学生時代から優秀なセイは、友人としても勿体ないくらいだった。
 なんとか対等になりたいと思い、理不尽とも思える仕事を頑張っていたのだ。

 だが、セイが素晴らしい恋人だと感じれば感じるほど、一向にそうなれる気がしない。

「なんか、申し訳なくて、自信ない……」
「ソーマ」
「ごめんな、嬉しいのに……っ、俺……」

 鼻の先がツン、と痛い。
 セイはソーマの両頬を手で包み込み、額をコツンと当てた。
 その温もりに、ソーマは目頭まで熱くなってくる。

 しかし、

「よし、ソーマはまず仕事を辞めよう」
「え゛」

 唐突な言葉に、浮かび上がりそうだった涙が引っ込んで変な声を出してしまった。

 告げられた言葉を頭の中で反芻する。
 セイは、ソーマがなんとかしがみついてきた仕事を、ソーマの最後の砦を捨てろと言う。

「仕事までしなくなったら! 俺なんてただのかわいい兎獣人だぞ!」
「かわいいなら良いだろう」
「良くない!」

 自分を揶揄した言葉をそのまま受け取ったらしいセイの肩をソーマは掴み、強く揺らした。
 声を荒げてしまうソーマに対しても、セイは余裕の表情で対応してくる。

 そして、背中をゆったりと撫でながら諭すような声を出した。

「あのな、ソーマ。俺が今きちんと家事をしているのは、お前が居心地がいいと感じる場所を作るためだけだ」
「うん、いつもありがとう」

 痛いほど伝わっていた。
 セイはいつもソーマを第一に考えて動いてくれる。

「もしもお前が居てくれなかったら。俺は買い物も料理もせずデリバリーで済ませるし食べるのも面倒になって毎日は食事しない」
「ん?」

 ソーマは思わず眉を上げた。
 なにか、雲行きが怪しくなってきている。

「掃除機なんてただの置物になって、洗濯物も着る物がなくなってからする」
「洗濯してる間はどうするんだよ!」

 突っ込むべきところはそこではない気がしたが、後の祭りだ。
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