【完結】青春は嘘から始める

きよひ

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光安と桃野の場合

十一話

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「………っ、もっと、してくれ……」

 桃野が俺の膝に乗って、首に腕を回してきた。
 瞳は潤んで揺れていて、まだ足りないと訴えてくる。
 熱い吐息ごと赤い唇を自分のそれで塞いだ。
 
 もっと、もっと深く。
 
 恥ずかしそうに頬を染め、見つめてくる姿は艶があって、可愛くて。
 そっと白い首筋を撫でると、桃野はギュッと目を瞑った。
 実は、Tシャツから見えている首回りが色っぽいなって思っていたんだ。
 もう一回、と、お互いに顔を寄せ合った。
 
 
 そこで目を覚ました日曜日の朝。
 
 バクバクなる胸を抑えて勢いよく上半身を起こした俺は、びっしょりと汗をかいていた。首元の汗を手の甲で拭いながら夢で触れた細い首を思い出す。 
 
(なんって夢を……!)

 俺は勢いよく布団を被り直した。



 そして月曜日。
 俺は完全に寝不足だった。
 教室で席に着くなり突っ伏してしまった。
 
 土曜日はどうやって家に帰ったか思い出せないし、日曜日は何しててもデートの日のことを思い出した。

 桃野といる時は、嘘の告白という後ろめたい気持ちがあるのに。
 初めての恋人と初めてのキスってシチュエーションにふわふわする気持ちもあって、自分が分からず胸が苦しかった。

 それなのに、1人になった途端、思い出すのは都合のいい方ばかり。
 具体的にはキスをしたことを思い出す。

 ただ触れるだけのキスだったのに、あの幸福感というか快感というか、それが忘れられない。
 夢のことも、元はと言えばそれが原因だと思う。
 抱きしめた時の体温とか、握った手とか、唇の感触とか、熱の篭った瞳とか、ほんのり朱に染まった頬とか。

 全ての記憶があまりにも鮮明で。
 浮かれた気持ちが嘘をついたという罪悪感を完全に上塗りしてしまっていた。
 
(最低だー……)
 
 ただし、違う後ろめたさは新しく発生している。
 机に額を擦り付け、大きなため息をついていたら先生が教室に入ってきて、「寝るなよー」と出席簿で頭を軽く叩かれた。
 
 
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