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桜田と空の場合
十一話
しおりを挟む次の日、なかなか目が開けられなかった俺は、鏡を見て声を上げかけた。
真っ赤に腫れている。
瞼が重いはずだ。
完全に泣いていたのがバレるんじゃないかなって顔になっている。
公式試合で負けてもあんなに泣かないぞ。
あー、でも試合で負けた時ってみんなでその場で泣くからちょっと違うかな。
学校にこのまま行くのは避けたいくらいに悲惨だ。
「……冷やして顔が戻ったら行こ……」
『いつものツラになってから教室に戻れ』
ふと、凪の言葉を思い出してしまう。
あの時の俺の顔と今の顔、どっちが酷いんだろう。
そんな風に頭を過ったのを、振り払うように首を振った。
そしてなんとか午前中の授業に間に合うように学校に出ることが出来た俺は、何食わぬ顔で「ゲームしすぎて寝坊した~」とクラスメイトに伝えていた。少し目に違和感があっても、寝不足のせいってことにできる。
実際、あまり眠れてない。
そしてその昼休み、驚くべきことが起こった。
嘘の告白をした光安と、その相手の桃野が本当に付き合うことになったらしい。
驚きと混乱と、おめでとうと、俺は失恋したばっかなのにって虚しい妬みが腹の中で暴れ回ってしまって。
午後の授業もサボって保健室に向かうことにした。
◆
保健室に行くと、何故か隣のクラスの肥護先生がいた。
教師にしては珍しい明るい茶髪は、地毛なんだと1年生の1回目の授業で言っていたのを覚えている。
実は若い時はヤンチャしてたって噂だ。
凪が3年間、この先生のクラスだったのはそのせいらしい。
嘘か本当か、分からないけどな。
「サボりかー?」
と、俺の顔を見て笑う。先生も、多分休憩しにきているくせに。
もしかしたら凪もサボりに来てるかなって思ったけど、居なくて少しガッカリした。
居ても気まずいのに変だよな。
肥護先生が入れ知恵した罰ゲームのせいで俺は大変な思いをしてるんだぞ! って八つ当たりしたかったけど、自業自得すぎて止めた。
曖昧に笑って誤魔化すと、何故か頭を撫でられる。
「マジで寝た方がいいツラしてんな。この時間だけ寝て教室戻れ」
先生って、顔見ただけでなんでも分かるんだろうか。
お言葉に甘えてベッドに潜り込む。
家で目を冷やしてる時も寝られなかったし、どうやら俺は本当に眠かったみたいだ。
横になったらズンっと体が重くなって、睡魔に抗うことなく俺は眠りに落ちていった。
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