【完結】青春は嘘から始める

虎ノ威きよひ

文字の大きさ
42 / 65
杏山と土居の場合

九話

しおりを挟む
 土居の初心な反応が気になりすぎて悶々としたまま休日を過ごすことになってしまった。
 あの後、当たり障りない会話だけして別れたんだけど。
 もう、あの燃えるような真っ赤な顔が頭から離れない。
 何かの間違いの可能性が高いと思ってたのに、土居は本当に俺のことが好きなのだろうか。

 そんなことで頭をいっぱいにしたまま月曜日になった。
 
「杏山ー! 暇そうだな?」

 放課後の掃除当番中。担任の海棠先生に捕まってしまった。
 にこやかに手を振って近づいてくるけど、一応は抵抗しておく。

「俺のどこが暇そうなんだよー! 掃除してるしこの後バイトだし、いつも忙し」
「うんうん。これ、ちょっと生徒会室に持ってってくれ」

 拒否権はないらしい。
 ポンっと軽快に頭に置かれた冊子を受け取るしかなかった。

「このくらい自分で持ってけよぉ」

 と唇を尖らせても、

「任せたぞー」

 と行ってしまう。生徒づかいが荒い!
 他の掃除当番たちは薄情なことに、いってらっしゃいと手を振っている。
 俺は仕方なく生徒会室に足を運ぶことにした。

 うちの生徒会室は、フィクションの世界と違って豪華な雰囲気は一切ない。
 普通の教室に普通の机が並んでいるだけだ。
 違うところといえば、いろんなファイルが置いてある大きな棚があることと、部屋の様子が外からは見えなくなっているところだろうか。
 だから普段は生徒会なんて優等生の集まりに縁がない俺には、何をしているのかどんな頻度で集まっているのかなんかはさっぱりわからない。

 なんとなく、扉の前で深呼吸してからノックする。
 すぐに返事があったから、元気よく挨拶しながら入っていった。

「失礼しまーす! これ、海棠先生から預かってきましたでーす!」
「ありがとう、助かるよ」

 超の付く美形が、眼鏡をかけた顔を上げて微笑んだ。
 窓を背に座っているから、差し込む光がまるでありがたい後光のように見える。
 艶のある黒い髪にキラキラと反射していて、少女漫画のヒーローみたいだ。
 目の前にいる生徒会長の 水坂龍興みずさかたつおみは、間違いなく学校一、モテる男。
 顔良し、性格良し、運動神経良しで非の打ち所がない。

 そして罰ゲームの参加者で、俺の幼馴染でもある 梅木まもるが告白成功させた相手である。
 俺もだけど、いったいどうしてそうなった。

「あれ」
「ん?」

 俺の姿を認識した水坂が目を瞬かせたから、思わず体に視線を落とす。
 何か変なところがあっただろうか。服を着崩しているのをとやかく言うタイプじゃないんだけど。
 でも俺が戸惑っているのに気が付いて、水坂はすぐに爽やかな笑顔に戻った。

「ああ、ごめん。珍しいと思って」
「教室の掃除してたら暇そうだって渡されたんだよ。酷ぇよなー! 自分で持ってこりゃいいのに」

 中央に大きく「修学旅行」と書かれた冊子を差し出しながら愚痴を言うと、水坂は受け取りながら眉を下げた。

「そうだな。でも、先生は忙しいから仕方ないさ」
「さすが、良いやつだなぁ」
「そんなこと、全然ないよ」
「またまたぁ」

 俺にはさらっと同意して、先生のフォローもしてやるなんて生徒の鑑だ。
 謙遜して偉ぶらないのも好感度が高い。
 ひとりで居るところを見たことがないくらい人気なのも頷ける。

 さて、渡すものは渡したし帰ろうと足を動かしたとき、水坂に呼び止められた。

「そういえば、杏山って梅木うめきと仲良いよね」
「ああ、家が近所だからな。幼なじみってやつ」
「そういうことか」

 合点がいったというように頷く姿を見ただけで何を考えているかがわかる。
 チャラいと言われる俺と地味でオタクっぽい梅木まもるは、傍から見たら一緒にいるタイプではないから不思議に思ったんだろう。
 梅木まもるが俺に話しかけてくる度に一緒にいる奴に質問されたから慣れている。
 水坂はその完璧な顔をまっすぐ俺に向けてきた。

「だったら、梅木のこと色々知ってるよな?」
「ま、まぁ……うん」

 賢いやつだから嘘の告白のことがばれていて、今から追及されるんだったらどうしようと、内心ヒヤヒヤしながら頷く。

「梅木が好きなものとか、貰ったら喜ぶものとか知らないか?」

 普通に恋人っぽい質問が来た。

(ここであいつが好きなアニメキャラクターとか答えたら怒られるんだろうな)

 俺は幼馴染が「お前水坂に何を吹き込んだんだよ!」と顔を真っ赤にして怒っているのを想像して他の案を考えることにした。

「んー……すっげぇ甘党だよ。昼メシがパンの時は全部甘いやつの上にココアとかいちごミルクとか飲んでる」

 甘い食べ物ならプレゼントもし易いしデートにも繋がり易いだろうと、無難なものをお伝えする。

「売り切れてたからしょうがなくって、あいつ……」
「え?」

 眼鏡の位置を指で直している水坂から、聞いたことのない低い声が出た気がして聞き返す。

「いや、なんでもない。教えてくれてありがとう」

 こちらを改めて見た水坂は、いつもの優しそうな生徒会長だった。気のせいか。
 俺は、こんな良いやつをだましているのが申し訳なくなるとともに興味がわいてきた。
 梅木まもるはまだ真実を伝えられていないと言っていたが、あの恋愛初心者と生徒会長はどんなお付き合いになっているのだろうか。

真守まもると、最近その、仲良いのか?」

 我ながら探りを入れるのが下手すぎた。
 だがそんなことより、次の一言で明らかに水坂を纏う穏やかな空気が一変したことを肌で感じた。

「まもる?」

 先ほどとは違い、声はいつも通りだ。
 でも俺は「笑っているのに目が笑っていない」ヤツを今、初めて体験している。

「えと、あいつ、梅木真守うめきまもるって……」

 いやいやそのくらい水坂なら知ってるだろう。
 先ほどの疑問形はそういうことじゃない。
 しかし、ビビりすぎてコミュ障みたいな返事しか出来なかった。

「……うん、仲良くしてくれてるんだ。真守くん」
 
(呼び方変わりましたね)
 
 俺の本能が言っている
 俺は今、なんかミスった。
 もしかして、穏やかそうに見えて独占欲強いタイプだった? 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

腐男子ですが何か?

みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。 ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。 そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。 幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。 そしてついに高校入試の試験。 見事特待生と首席をもぎとったのだ。 「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ! って。え? 首席って…めっちゃ目立つくねぇ?! やっちまったぁ!!」 この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。

裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。

みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。 愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。 「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。 あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。 最後のエンドロールまで見た後に 「裏乙女ゲームを開始しますか?」 という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。  あ。俺3日寝てなかったんだ… そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。 次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。 「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」 何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。 え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね? これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。

孤毒の解毒薬

紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。 中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。 不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。 【登場人物】 西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。 白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

処理中です...