子持ち専業主婦のアラサー腐女子が異世界でチートイケメン貴族になって元の世界に戻るために青春を謳歌する話

虎ノ威きよひ

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第二章

無防備すぎて

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 エラルドがもうずっと笑っている。
 声を出さずにずっと肩を小刻みに震わせている。

「アンネとラナージュにほっぺ……!」

 そんなに面白い?笑ってるのエラルドだけだけど!?
「あー、おかしい。なんでバレット笑ってないんだよー」

 指で涙を拭いながら無表情のバレットにエラルドは絡んだ。

「逆にお前は何がそんなに面白いんだ?」

 本当にな。
 箸が転がっても笑えてくる状態なんだろうな今。

「えー、だって殿下とシンがずっとこうやってもちもちされてるんだぞ?」

 エラルドがバレットの頬を両手で挟んで動かした。表情の動かないバレットの口元が伸びたり唇が尖ったりしてジワジワくる。

「なるほど」

 頷いたバレットがエラルドの頬に手を伸ばして同じように顔を変形させはじめた。
 そこまではされてないぞ。
 なんだこれ。

「……っ、殿下にお怪我がなくて、本当に良かったです」

 2人の様子を見ながら笑うのを堪えて息を吸ったネルスが、アレハンドロに笑いかける。
 アレハンドロも、たぶん笑いそうになっている口元を隠してネルスの方へ目線を移した。

 私は普通に笑いたいんだけど。
 笑ってはいけない、のか。
 仕方がないので口元と目元を引き締めた。

「多少の怪我ならなんでもないが、大事になると護衛の騎士が入ってきて劇場に迷惑をかけるからな。良かったと思う」
「そんなことが考えられるようになったのか」

 睨まれた。

「な、なんにしても、楽しかったみたいで、よかったな?」

 自分が動かしたバレットの顔を見て、息も絶え絶えに笑いながらエラルドが手を離してこちらを見た。
 そして更に楽しげに口を開く。

「殿下はシンたちと一緒になるまでアンネと2人だったんだろ?何かなかった?」
「え、エラルド……!」

 踏み込んだなーと思ったら、タブーを口にしたかのようにネルスが慌てて名前を呼んだ。
 婚約者がいるのに平民の女の子とデートに行ってたんだもんな。
 いくら気持ちがバレバレでも普通聞かないよな。

「ない」

 アレハンドロは特に動揺するわけでもなく、紅茶のカップに口を付けてから仏頂面で答えた。

「そうなのか?」

 ちょっとは隠せ、と思いながらも食い気味に聞いてしまった。
 明らかに何かありそうだったから見るのをやめたのに。
 しかし、溜息を吐きながら眉間に皺を寄せているこの表情は、嘘をついている顔ではない。

「あの女、無防備すぎて何かしようという気にもならんな」
「あー」
「あー」

 苦々しく吐き捨てられた言葉から色々察した私とエラルドの声が重なる。

 あんまりになんの疑いも照れもなく、躊躇せずに目を閉じられたのだ。
 おそらくキスをしようとしていたのだろうが、やめたのだろう。

 エラルドにもみくちゃにされていた頬をさすりながらクッキーを口に放り込んだバレットが、真っ直ぐアレハンドロを見て口を開く。

「脈なしなんじゃないか?」

 こらー!!
 いつもいつも!!
 人の心がないのかお前は!!
 そんなことはないー!
 多分だけど。

 アレハンドロの負のオーラを感じたのか、気まずそうな顔で話を聞いていたネルスがすぐさま話題を変えた。

「ラナージュ嬢と2人でいたお前の方が僕は気になるが? 殿下の婚約者と何をしているんだ」

 おっとその話題も中々際どくない?
 私と2人になった時にこっそり聞くやつでしょう。
 何もないだろうと私を信用してるからこその話題転換なのかな?

「保護者みたいなことをしていただけだよ。それこそ、何をしようという気にもならないくらいお嬢様に振り回された」

 私にはやましいことはないのでありのままをサラッと伝えた。
 何もないよーと手をパタパタ振りながら空いている手で紅茶を飲む。
 全員が目を瞬かせた。

「振り回された」
「意外だ」
「ラナージュに」

 特にアレハンドロは俄には信じられないという表情だ。
 アレハンドロとラナージュは、お互いどこか猫を被っている感じがあるな。

「私も意外だったよ」

 まさかお嬢様のお世話をする経験をするとは。
 驚いた表情のまま、ネルスが何か思い出したように手を叩いた。

「そういえば。いや、今の話とは関係のない話なんだけどな?ラナージュ嬢といえば、この間シンの話になったんだが」

 ラナージュとネルスが会話しているのはともかく、そこで私の話題が出るのがなんだか不思議だ。噂話をするタイプじゃないし。

 ネルスは目線を左上にしながら顎に手を当てる。

「なんで本気を出せば学年首席にもなれるし、剣術大会でも優勝できるのにしないのかって言っていたな」
「恐ろしく買い被られてるな」

 紅茶が口に入っているのに笑いそうになるのを堪えて飲み込む。
 チートかな。チートだけど。

「ネルスやアンネと同じくらい勉強が出来て、バレットやエラルドと同じくらい剣術が出来ると思われているってことだろう?そんな馬鹿な」

 そんなキャラ潰しなことある?
 この体のポテンシャル的には小さい時からやる気を出して勉強して、本気を出して剣術に打ち込めばもしかしたらそんなチートキャラが誕生するのかもしれないけれど。

 残念ながら私は興味を魔術にほぼ全振りし、その他はそんなに努力しなくてもだいたい上の中くらいできるすごい人なだけだった。

 だけだった、とか。
 いやー。凄いわ私。
 他人から見たら腹立たしいだろうな。

 しかし、全部に本気で取り組むなんて、時間も気力も体力も足りないと思う。
 どこかで限界が来そう。

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