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第三章
ご褒美がないと
しおりを挟む「私も攻略対象の方で転移したかったですわ!」
ラナージュに先日、カラマに遊びに行った時のことを報告した後の第一声はこれだった。
私を見下ろす顔は、血色の良い唇を尖らせて眉を寄せ、本気で悔しそうだ。
「あー、分かる。代わってあげたい」
好きなゲームのキャラクターに囲まれて一緒に青春を楽しむ。
私よりもラナージュに経験させてあげたかった。絶対もっと楽しいもん。
いや、私もめちゃくちゃ楽しかったけど、やっぱ疲れるし。
今、私は学校の裏庭のベンチに寝そべっている。
ラナージュに膝枕されて。
細いけれど、柔らかくて寝心地の良い不思議な枕だった。時折、頭を優しく撫でてくれるのも気持ちがいい。
会話を聞かれたくないので人避けの魔術を施しているが、万が一誰かに見られたら面倒だろうなぁ。
「そろそろ普通に会話しないか?」
「もう少しだけ。私はもう4回もゲームオーバーを経験しているんですのよ? 何かご褒美がないとやってられませんわ!」
ご褒美を受け取る方が膝枕してるの面白いな。
実際、大変な思いをしてるんだから何か良いことがないとなとは思う。
「逆に膝枕してあげようか?」
「今度はそうしていただきますわね。もう、シンの肌ピカピカですわ……最高……」
ご機嫌に私の頬に触れたり額に手を当てたりとこそばゆい。彼女の推しなのは体だけなんだけど良いのだろうか。
中身まで推しな方がやりにくいか。
とにかく幸せそうだからまぁいいや。
気がすむまで膝枕はしてもらうことにして、私は本題に入った。
「そういえば、ルース王子と私の外見の特徴が似てるのとか、攻略対象のメンバーが王子一行まんまなのは何か物語的に意味があるのか?」
「ルース王子と貴方の関係は謎なんですの。ファンの間では生まれ変わりとか似ているから魔王に選ばれてしまったとか、二次創作は色々あるんですけれど」
ラナージュは蕩けるような笑顔から真面目な顔とトーンに切り替わる。
ゲームの隠しルートまでやって謎ってことはそこに深い意味はないんだろうな。
金髪碧眼の王子様を夢見るヒロイン、アンネって設定のためのビジュアルか。
「生まれ変わりの上にそっくりだから選ばれて、『私たち一つになれたね。お前の大事な国をお前の手で滅ぼしてあげるからね!』て魔王が満足してるBL展開はない?」
「それBLですの?」
思いついたことを口走っただけだったのだが、真顔で質問が返ってきてしまった。
BLの定義を考えねばならない質問が来たな。
王子と魔王が愛し合ってたら間違いなくBLだけど。魔王の片想いで王子が姫を好きだったらBLじゃないのかな。
片想いBLってことも。いや今はどうでも良いわそんなこと。
我々がBLだと思えばそれはBLなのだから。
「すまない、話が逸れた」
「いえ、私そっちも好きですわよ。アレハンドロとシンとか」
「聞かなきゃ良かった」
とても美しい笑顔で言われてしまった。
そういえばこの子にアレハンドロと舞踏会で踊らされたんだった。本当にそういう意図があったとは。
なんでその2人なんだとかどっちが攻めだとか詳しく聞きたいところだが、また今度にしなければ。絶対長くなる。
「攻略対象の5人とルース王子一行が似ているのは、魔王の倒し方が伝説の物語の通りだからですわ」
全員が王子一行の生まれ変わりとか末裔とかそういうことでもないんだね。
魔王の倒し方、というのは生き残るためにも知っておかなければならないことな気がする。
「物語の通りというと」
「エラルドがアレハンドロを守り、後ろからバレットが魔王を切ったところにネルスが無力化の薬をかける。最後はアレハンドロとアンネの2人が魔王にとどめを指します」
王子が魔王に負けそうなところを盾の騎士が命を捨てて守る。
その隙をついて剣の騎士が魔王を切る。
本来は王子が、魔王を一時的に弱らせる薬を賢者から預かってかける。
最終決戦でネルスの出番がなくなるからここは変更しているようだ。
最後は王子が剣で魔王の胸を貫く。
乙女ゲームだからアンネも一緒に、となったというところか。
乙女ゲームの割にはアレハンドロとアンネがくっついてるとしか思えない最終決戦だなぁとか、色々ツッコミたいところはある。
が、まず確認したいことができた。
「それってエラルドは無事なのか?」
物語中の盾の騎士は、理由は様々だが魔王に寝返る。
しかし最後は100%王子を守り、その後99%死ぬ。
シンとラナージュがあっさり殺される世界観ならば、盾の騎士の役割を果たすらしいエラルドも命を落とす可能性が高い。
自分から裏切るってことはなさそうだから、操られる方向だろうか。だったらそれを跳ね返すような防御魔術をかけとくとか何か対策を考えなければ。
待て待て、魔王が私なんだとしたらその魔術を解かれる可能性もあるのか。
それならば私の手から離れても効果がある魔術道具を持ってもらうか?
エラルド攻略ルートならアンネが洗脳を解くエピソードがありそうだけれど、生憎と今はアレハンドロのルート爆進中だ。
質問の答えを待ちながら、すでに考えを巡らせる私を見下ろしてラナージュは大きな瞳を瞬かせる。
まつ毛で風が起こせそうなくらいまつ毛長い。
小さく息を吸い込む音がする。
返答が怖くて胸が騒ぐ。
そして、私の質問の意図を完璧に理解した返答がきた。
「それが、特に操られもせず裏切りもせず、アレハンドロのを守った時に負傷すらしませんのよ」
「逆になんでだよ」
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