子持ち専業主婦のアラサー腐女子が異世界でチートイケメン貴族になって元の世界に戻るために青春を謳歌する話

虎ノ威きよひ

文字の大きさ
109 / 134
第三章

二人の様子

しおりを挟む
 
 広い学園内には、森林の中に人口の小さな湖のようなものがある。

 ラナージュが言うには、アンネとアレハンドロが恋愛イベントを進める場合はだいたいここで会っているらしい。ゲームの攻略本と歩いている気分だよ。

 そしてラナージュを追ってその周辺にたどり着くと、人が来ないように結界が張ってあった。
 通常はなんの違和感もなくそこに近づかないでいるのだろうが、私は天才なので気づいてしまったのだ。

 おそらく中でふたりが何かしているのだろう。アンネは魔術は得意ではないからアレハンドロだろうか。わざわざするかなそんなこと。
 まぁ見られるのは恥ずかしいもんなと思いつつも、その結界の中にこっそり侵入する。

 そしてその先で、パトリシアが目を見開いて立っていた。

「し、シン様! ラナージュ様!」

 結界をあっさり破られたことに気がついたらしい。しかも気づけなかったことに膝をついて悔しがっている。
 なんかごめん。私が天才なばっかりにごめん。

 それにしても、パトリシアが人避けしていたとは。乙女ゲームのお友達ポジってこんな大変なことを人知れずしていたのか。
 よしよしと頭を撫でてから、そのまま湖に向かおうとする私たちのブレザーの裾をパトリシアが握り締めた。

「い、行っちゃだめですぅう! 行かないでくださいぃ!」

 振り返ったラナージュが、ヒソヒソ声で必死に訴えるパトリシアの両肩に手を置く。

「パトリシア、何も邪魔をしようというわけではありませんのよ。少し見たいだけです」

 真っ直ぐと本当に真剣な眼差しで。そのまんま欲望を言ったな。

「ちなみに、どんな様子なんだ?」
「わ、私は人が来ないようにって勝手にこういうことしてるだけでふたりの様子とかは……」

 偉い。覗きとかしないのえらい。人の道を外してない。
 ついつい、モジモジと話すパトリシアの頭をもう一度撫でてしまう。
 
 そして結局、私とラナージュ、そしてパトリシアは湖の畔に座るアレハンドロとアンネを覗くことにした。
 ラナージュの熱が凄かったのはもちろん、やはり私もパトリシアも好奇心には勝てなかった。
 

「申し訳ございません殿下!」
 
 向かい合って立っているふたりを視界に捉えた瞬間、聞こえた言葉はこれだった。

「わ、私はまだ、殿下の隣に並べるような存在ではないので……!」

 震えるアンネの高い声が聞こえてくる。
 本当にかわいい声してるわ。

 というか、これフラれてるなアレハンドロ。両思いだと思ってたけど残念だったな。
 続いて、意外にも落ち着いた様子の低くて深い良い声が響いてきた。

「私に愛されている、というのは私の隣に相応しい存在ということではないのか」

 全くもってその通りだ。私もそう思うよアレハンドロ。

 会話を聞きながら、私たち3人の姿や声がふたりに認識できないように魔術を施した。
 もはや盗み聞きが板についてきてしまった気がする。
 人としてダメなんだけど、やめられない。

 アンネは深く頭を下げながら、必死の声で言葉を紡いでいる。

「私はまだ私を認められてなくて、その……! 卒業の時に首席が取れたら私、私から! その時に殿下のお気持ちが変わっていたらそれは、それで仕方がないので……」

 やっぱり普通に両思いだった。
 言いたいことは分かる。でもアレハンドロが心変わりしてたら心の底からめっちゃガッカリすると思うぞ。

 そんなの本当は辛いって思っていることが、声にも滲み出ているのが分かる。

「嫌だ」
「え」
「アンネも私のことを好きだと言っただろう。何故2年も待たねばならんのだ」

 アンネがアレハンドロのことを好きって言う、一番肝心なところ見逃してんじゃないかー。決定的瞬間を見たかったなー。

「私の恋人だと明言していなければ、悪い虫が湧くかもしれない。良いことがひとつもないぞ」

 眉を寄せ、あるあるの独占欲で迫るアレハンドロ。
 変に現実的なことを言うと、この学園内では平民のアンネは意外とモテない。かわいい良い子なのに。
 ライバルになるとしたらやっぱり攻略対象の皆さんなんだろう。

 アンネの地元では知らないけどな。

 アンネはアレハンドロの言葉に手と首を左右に振った。

「私に好意を持ってくださる方はそんなに居ませんので! それに、婚約解消されて間もないのに! ラナージュ様はきっと、まだ殿下が……」

 両手を祈るように組み、気まずそうに眉を下げている。


「そうなのか?」
「いえ全く」
「ええ!? 全く!?」

 私の質問に真顔で否定するラナージュ。
 それに対して大きな声を上げたパトリシアは、パッと口元に手を当てた。
 聞こえないように魔術をかけているから気にしなくていいんだけどね。

「ラナージュとは親が決めた婚約者同士だったが、お互い、そういった感情は無かった」
「いいえ! ラナージュ様はいつも殿下を優しい目で見てらっしゃいました!」

 それについてはほぼ100%アレハンドロが正しいだろう。やっぱりアレハンドロからしても特別な感情は無かったのかと少し切なくもあるが。
 ラナージュの前ではちょっと格好つけてた気がするのに。

 一応、ラナージュにも確認することにした。

「そうなのか?」
「かわいいんですもの」
「かわいい!? かっこいいじゃなくて!?」

 聞こえないとはいえ、本当に遠慮なく驚きの声を上げるパトリシア。素直でよろしい。
 普通はアレハンドロってかっこいいんだなぁ。

 アレハンドロはというと、アンネの言葉に困ったように目を泳がせる。

「あれは、シンのことばかり見ていたと思うが」
「……それは、そう、ですけど……」

 アンネも急に自信なさげに視線を落としてしまった。
 よく見てるなふたりとも。
 推しの様子が違いすぎて気になって仕方なかったみたいだからな。
 主人公たちを困らせるくらい私のこと見てたんだな。
 そして、惰性で同じやりとりを繰り返す。

「そうなのか?」
「愛してますわ」
「え? え!?」
「そうか、知ってた」
「ええ!?」

 横目で視線を合わせて笑顔を向け合いながら会話する私たちの間で、いちいち驚きの声を上げるパトリシアがかわいい。
 反応が面白いからついつい遊んでしまう。

 アレハンドロは腕を組んでアンネを見下ろす。
 身長差があるので、ものすごい威圧感だと思う。
 付き合って欲しい人間の態度かあれ。

「他には何かあるか?」
「……! え、と、心の準備が何も出来てません……


 手をスカートの前で握りしめ、消え入りそうな声を出して俯くアンネ。表情は見えないけど、赤い顔をしてるんじゃないだろうか。セオリー的に。

 俺様キャラらしくその様子を見下ろすアレハンドロ。なんかいつもよりアンネに対して尊大な態度なのは気のせいだろうか。

「卒業まで待てば心の準備とやらが出来るのか」
「は、はい」
「遅い。2年の終わりまでにしろ。それ以上は待てん」

 首席で卒業出来れば自信もつくし周りにも認められるからってことなんだから待ってやれよー。
 でも制服デートとか出来るの今だけか。
 それは惜しいかもなぁ青春の思い出としては学生時代に付き合っときたいねぇ。

 卒業したら気が狂いそうなほどに忙しくなるだろうし。

「意外と気が長いですわね」
「せっかく両思いなのに! 私なら1日も待てません……!」
「まぁ、待つ気はあまりなさそうだけどな……」

 私には分かる。恋人なんて名称の関係じゃなくたって、どうせ人前で無自覚でいちゃいちゃするし嫉妬もするし周りには普通に付き合ってると思われるようになる。

 そういうもんだ。

 両思いだと確認してるだけマシだよこれを無自覚ですると、

「何の権利があってこの子のすることに口出しするの?」
 ってなるからな。

 アンネに気があるそぶりを見せた男子をアレハンドロが視線で殺す日も近いな。
 
 ふたりの話はひとまず「2年の終わりまで待つ」がお互いの妥協点らしい。
 きちんと話し合いが出来るのは良いことだ。


 ところでお嬢さん方。
 そろそろ退散しましょうよ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...