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最終話 模索継続
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どれくらい笑っていたんだろう。しばらくしたら落ち着いて、いつのまにかベンチで卵焼きを食べている。
前よりはマシになったけどやっぱりどこか歪な卵焼き。中の渦がぐちゃぐちゃで女将さんの卵焼きには足元にも及ばないけど、やっぱり大和は「美味しい」って嬉しそうに食べてくれた。
ただし空気がぎこちないせいで無理してるように見える。
そう、今俺たちはとても気まずい雰囲気になっていた。
ついさっきまで抱きしめあってキスまでしてたなんて信じられない。間にもう一人入るんじゃないかってくらい離れてどこも触れ合わず、目も合わせられない。
テンションが上がってると人はとんでもないことをしでかすんだな。冷静になると思い出しただけでも顔から火が出そうだ。何回キスするんだよ。
大和も同じみたいで、さっきから卵焼きに向かってしかしゃべれてない。
それでも喜んでくれている気持ちは伝わってるから、俺はちょっと調子に乗る。
(いつかは女将さんより上手くなりたい、なんてな)
身の程知らずな野望を抱きつつ、俺は大和のジャージの裾を指先で摘んだ。
「俺もちょっと妬いてた」
「え?」
最後の一個の卵焼きを口に入れた大和がこっちを見たのを感じながら、俺は文化祭でモヤモヤしていたことを素直に伝える。
「女子に囲まれてデレデレしてんの見て腹たってきて。あれ、妬いてたんだなって」
「デレデレしてないよ」
「してた。嬉しそうにニマニマしてた」
いつも知らない相手には無愛想なくせに、と、思い出しただけで眉間に皺が寄る。
あの時は気付かなかったけど、彼女たちに嫉妬してたんだったら合点がいった。
大和は何故かあの時よりも目尻を下げて俺を見下ろす。なんだよ、こっちの気も知らないで。
「違うよ、あれは……俺が態度悪いと蓮が後で困ると思って」
「俺のため」
「うん」
「そっか」
人ってのは単純だ。たったこれだけの会話で、俺は納得して、一方的な怒りも引っ込んだ。
血が上りがけた頭を冷やそうとでもするように涼しい風がそよいでくる。
「ヘラヘラしてんのは本気で喜んでるんだと思ってた」
「えー、蓮にそう思われるのは嫌だなぁ」
「人を寄せ付けないためとはいえ、いつもびっくりするくらい無表情だろ。どうやってんだよ」
「漫画読んでる時にニヤニヤしないように鍛えてたからね。その延長」
表情筋が死んでるんじゃなくて限界まで鍛えられた結果の無表情なのかよ。なんだその特殊能力。
俺なんかイラついた表情して誤魔化すしかないのに。それはそれで外見に合ってるから困りはしないけど。
ホッと力を抜いたら、だんだん肌寒くなってきた。気温を意識した瞬間ブルッと来て腕をさすると、大和が遠慮がちに近づいてくる。
くっついてくるかと思ってドキドキしたのに、拳ひとつ分離れたところで止まってしまった。
(期待してるなら俺からいけばいいのに)
分かっていても体は動かない。でも、触れ合ってなくても人の体温ってのはなんとなく感じるんだってことを知った。
「……なぁ」
「うん」
少し目線を上げると、月とライトに照らされた真っ赤な紅葉。赤色を見ると、いつも思い出すことがあった。
「赤いサッカーボールかっこいいなって……俺、ずっと言いたかった」
「え……」
分かりやすく言えって言ったのは俺なのに、肝心な時には照れたりカッコつけたりしちゃうものらしい。大和の優秀な頭脳でも、俺の言葉を理解するのに瞬き十回分くらい掛かった。
でも俺とは違って大和はちゃんと解読してくれて、整った顔が綻ぶ。
「実家に置いてあるから、今度公園で蹴ろっか」
「うん」
ちょっと勇気を出す、それを繰り返したから。
俺たちはボールを蹴り合える距離にいる。
「ねぇ蓮」
「ん?」
「手を繋いで、駅まで送っても良い?」
「え……と……」
改めて言われると恥ずかしくて、こういうのに即答出来るのはもう少し先になりそうだ。
自分が苦手なんだから、察する力なんて相手に求めるのは本意じゃないのに。
俺は指先で大和の手をツンと突いた。
おしまい
前よりはマシになったけどやっぱりどこか歪な卵焼き。中の渦がぐちゃぐちゃで女将さんの卵焼きには足元にも及ばないけど、やっぱり大和は「美味しい」って嬉しそうに食べてくれた。
ただし空気がぎこちないせいで無理してるように見える。
そう、今俺たちはとても気まずい雰囲気になっていた。
ついさっきまで抱きしめあってキスまでしてたなんて信じられない。間にもう一人入るんじゃないかってくらい離れてどこも触れ合わず、目も合わせられない。
テンションが上がってると人はとんでもないことをしでかすんだな。冷静になると思い出しただけでも顔から火が出そうだ。何回キスするんだよ。
大和も同じみたいで、さっきから卵焼きに向かってしかしゃべれてない。
それでも喜んでくれている気持ちは伝わってるから、俺はちょっと調子に乗る。
(いつかは女将さんより上手くなりたい、なんてな)
身の程知らずな野望を抱きつつ、俺は大和のジャージの裾を指先で摘んだ。
「俺もちょっと妬いてた」
「え?」
最後の一個の卵焼きを口に入れた大和がこっちを見たのを感じながら、俺は文化祭でモヤモヤしていたことを素直に伝える。
「女子に囲まれてデレデレしてんの見て腹たってきて。あれ、妬いてたんだなって」
「デレデレしてないよ」
「してた。嬉しそうにニマニマしてた」
いつも知らない相手には無愛想なくせに、と、思い出しただけで眉間に皺が寄る。
あの時は気付かなかったけど、彼女たちに嫉妬してたんだったら合点がいった。
大和は何故かあの時よりも目尻を下げて俺を見下ろす。なんだよ、こっちの気も知らないで。
「違うよ、あれは……俺が態度悪いと蓮が後で困ると思って」
「俺のため」
「うん」
「そっか」
人ってのは単純だ。たったこれだけの会話で、俺は納得して、一方的な怒りも引っ込んだ。
血が上りがけた頭を冷やそうとでもするように涼しい風がそよいでくる。
「ヘラヘラしてんのは本気で喜んでるんだと思ってた」
「えー、蓮にそう思われるのは嫌だなぁ」
「人を寄せ付けないためとはいえ、いつもびっくりするくらい無表情だろ。どうやってんだよ」
「漫画読んでる時にニヤニヤしないように鍛えてたからね。その延長」
表情筋が死んでるんじゃなくて限界まで鍛えられた結果の無表情なのかよ。なんだその特殊能力。
俺なんかイラついた表情して誤魔化すしかないのに。それはそれで外見に合ってるから困りはしないけど。
ホッと力を抜いたら、だんだん肌寒くなってきた。気温を意識した瞬間ブルッと来て腕をさすると、大和が遠慮がちに近づいてくる。
くっついてくるかと思ってドキドキしたのに、拳ひとつ分離れたところで止まってしまった。
(期待してるなら俺からいけばいいのに)
分かっていても体は動かない。でも、触れ合ってなくても人の体温ってのはなんとなく感じるんだってことを知った。
「……なぁ」
「うん」
少し目線を上げると、月とライトに照らされた真っ赤な紅葉。赤色を見ると、いつも思い出すことがあった。
「赤いサッカーボールかっこいいなって……俺、ずっと言いたかった」
「え……」
分かりやすく言えって言ったのは俺なのに、肝心な時には照れたりカッコつけたりしちゃうものらしい。大和の優秀な頭脳でも、俺の言葉を理解するのに瞬き十回分くらい掛かった。
でも俺とは違って大和はちゃんと解読してくれて、整った顔が綻ぶ。
「実家に置いてあるから、今度公園で蹴ろっか」
「うん」
ちょっと勇気を出す、それを繰り返したから。
俺たちはボールを蹴り合える距離にいる。
「ねぇ蓮」
「ん?」
「手を繋いで、駅まで送っても良い?」
「え……と……」
改めて言われると恥ずかしくて、こういうのに即答出来るのはもう少し先になりそうだ。
自分が苦手なんだから、察する力なんて相手に求めるのは本意じゃないのに。
俺は指先で大和の手をツンと突いた。
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