38 / 74
第21話 新型農法と土木建築3
その言葉に、部屋の空気が一瞬にして変わった。父をはじめ、母も、老騎士も、壮年の騎士も、皆が一斉にエルへと視線を向けた。その瞳には、驚きと、困惑そして一縷の希望が宿っている。
「領内には、豊かな森が広がっています。その森に降り積もった枯れ葉を集めて、畑の土に混ぜ込めば、来年の収穫量を飛躍的に向上させるための、非常に優れた肥料になります」
「……なんだと?」
父ガイウスは、信じられないといった面持ちでエルを見つめた。他の大人たちも同様に、目を丸くして息子の言葉に耳を傾けている。彼らにとって、土地の肥沃さを高めるには、魔術薬や精霊の加護、あるいは高価な肥料が必要であるという認識が常識だったからだ。それが、森に落ちている枯れ葉で済むというのだから、驚愕するのも無理はない。
「新型農法が、今のところ順調に進んでいるのは、森の土と枯れ葉を混ぜて、もともとの森の土壌環境に近い状態を作り出しているからだと考えています」
「おお!それを、なぜ今まで言わなかったのだ、エル!」
父は身を乗り出し、興奮した様子でエルに問いかけた。魔術に頼らない新型農法は、まだ昨年から始めたばかりの試みだった。
「一時的な効果は期待できますが、やっていることは、森を開墾して畑にするのと本質的には変わりません」
「つまり、長期的には土地の力を弱めてしまうということね?」
母アリアが、息子の言葉の真意を理解し、心配そうな表情で確認した。
「その通りです。土地の力は、我が家の税収のように、多少の変動はあれども、基本的に決まった量しか得られません。枯れ葉や腐葉土を無計画に採取しすぎれば、森の地力が低下し、やがて荒廃してしまうことに繋がりかねません」
「むう……」
父は腕を組み、髭を撫でながら深く唸った。森は、単なる木材の供給源ではなく、この地の自然のバランスを保つ重要な存在でもある。その力を損なうことは、将来的な災厄を招きかねない。
「全く意味がないと言いたいわけではありません。新型農法への移行期である今年だけ、一時的に用いるのであれば、土地へのダメージは最小限に抑えられるでしょう」
「なら使わない選択肢はないな……」
壮年の従士レオナルドは父に代わって結論を告げると理由を求めレオナルドに視線が集まった。
「未来のことをも重要だけどよぉ“今”よりも大切なモノは無ぇ。エルさまの言うことが正しければダメージは少ないんだろ? 次から使わない方法を考えた方が賢いってもんよ」
「レオナルド……おぬし……そんなことを考える頭があったのだな」
老従士バルドの一言はこの場にいる皆の心境を代弁するものだった。
そして限界を超えた俺達は声をだして笑った。
◇
父の言葉を受け、エル達はすぐに村長を呼び寄せ、森の枯れ葉と土を畑に混ぜる方法を改めて説明した。村長は、新型農法の目覚ましい成果を目の当たりにしていたため、この新たな提案にも二つ返事で頷いた。
初夏の強い日差しが照りつける中、村人たちは村長の号令一下、森へと向かった。鬱蒼とした森の中は、外の暑さとは打って変わってひんやりとしており、土と枯れ葉が混ざった独特の匂いが鼻腔をくすぐる。村人たちは、熊手や鋤を手に、地面に積もった枯れ葉をかき集め、それを麻袋や籠に詰め込んでいく。額には汗が滲み、土と枯れ葉で汚れた手は、懸命に動いていた。
(もう初夏か……今から始めて、本当に収穫に影響があるんだろうか?)
エルは、村人たちが懸命に働く姿を見ながら、内心でそう思った。それでも、何もしないよりはましだろう。この小さな試みが、秋の収穫に少しでも良い影響を与えることを願いながら、エルは彼らの作業を見守った。同時に、この新たな取り組みが、村人たちの間に新たな希望の光を灯していることも感じ取っていた。収穫の時期が、また一つ楽しみになったのは確かだった。
「領内には、豊かな森が広がっています。その森に降り積もった枯れ葉を集めて、畑の土に混ぜ込めば、来年の収穫量を飛躍的に向上させるための、非常に優れた肥料になります」
「……なんだと?」
父ガイウスは、信じられないといった面持ちでエルを見つめた。他の大人たちも同様に、目を丸くして息子の言葉に耳を傾けている。彼らにとって、土地の肥沃さを高めるには、魔術薬や精霊の加護、あるいは高価な肥料が必要であるという認識が常識だったからだ。それが、森に落ちている枯れ葉で済むというのだから、驚愕するのも無理はない。
「新型農法が、今のところ順調に進んでいるのは、森の土と枯れ葉を混ぜて、もともとの森の土壌環境に近い状態を作り出しているからだと考えています」
「おお!それを、なぜ今まで言わなかったのだ、エル!」
父は身を乗り出し、興奮した様子でエルに問いかけた。魔術に頼らない新型農法は、まだ昨年から始めたばかりの試みだった。
「一時的な効果は期待できますが、やっていることは、森を開墾して畑にするのと本質的には変わりません」
「つまり、長期的には土地の力を弱めてしまうということね?」
母アリアが、息子の言葉の真意を理解し、心配そうな表情で確認した。
「その通りです。土地の力は、我が家の税収のように、多少の変動はあれども、基本的に決まった量しか得られません。枯れ葉や腐葉土を無計画に採取しすぎれば、森の地力が低下し、やがて荒廃してしまうことに繋がりかねません」
「むう……」
父は腕を組み、髭を撫でながら深く唸った。森は、単なる木材の供給源ではなく、この地の自然のバランスを保つ重要な存在でもある。その力を損なうことは、将来的な災厄を招きかねない。
「全く意味がないと言いたいわけではありません。新型農法への移行期である今年だけ、一時的に用いるのであれば、土地へのダメージは最小限に抑えられるでしょう」
「なら使わない選択肢はないな……」
壮年の従士レオナルドは父に代わって結論を告げると理由を求めレオナルドに視線が集まった。
「未来のことをも重要だけどよぉ“今”よりも大切なモノは無ぇ。エルさまの言うことが正しければダメージは少ないんだろ? 次から使わない方法を考えた方が賢いってもんよ」
「レオナルド……おぬし……そんなことを考える頭があったのだな」
老従士バルドの一言はこの場にいる皆の心境を代弁するものだった。
そして限界を超えた俺達は声をだして笑った。
◇
父の言葉を受け、エル達はすぐに村長を呼び寄せ、森の枯れ葉と土を畑に混ぜる方法を改めて説明した。村長は、新型農法の目覚ましい成果を目の当たりにしていたため、この新たな提案にも二つ返事で頷いた。
初夏の強い日差しが照りつける中、村人たちは村長の号令一下、森へと向かった。鬱蒼とした森の中は、外の暑さとは打って変わってひんやりとしており、土と枯れ葉が混ざった独特の匂いが鼻腔をくすぐる。村人たちは、熊手や鋤を手に、地面に積もった枯れ葉をかき集め、それを麻袋や籠に詰め込んでいく。額には汗が滲み、土と枯れ葉で汚れた手は、懸命に動いていた。
(もう初夏か……今から始めて、本当に収穫に影響があるんだろうか?)
エルは、村人たちが懸命に働く姿を見ながら、内心でそう思った。それでも、何もしないよりはましだろう。この小さな試みが、秋の収穫に少しでも良い影響を与えることを願いながら、エルは彼らの作業を見守った。同時に、この新たな取り組みが、村人たちの間に新たな希望の光を灯していることも感じ取っていた。収穫の時期が、また一つ楽しみになったのは確かだった。
あなたにおすすめの小説
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜
ハリネズミの肉球
ファンタジー
「おい、城の噴水が止まったぞ!?」
「街の井戸も空っぽです!」
無能な王太子による身勝手な婚約破棄。
そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを!
ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。
追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!?
優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。
一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。
「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——!
今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける!
※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。
神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜
あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。
その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!?
チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双!
※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!