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第25話 五本指靴下とインソール
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「糸と、革を用意しろとは、エル様はいったい何を企んでおられるのですか?」
屈強な従士、ガレスが、鍛え上げられた腕を組みながら、好奇心と若干の困惑を滲ませた声で問いかけた。エルは、傍らに積み上げられた素材を見下ろし、涼やかな表情で答えた。
「靴下と、足の裏に敷くものを作る」
「足の裏に敷くもの、ですか……それは存じ上げませんが……靴下といえば、あの足袋のようなものでしょうか? もしご所望でしたら、街の仕立て屋に頼むか、腕の良い者に編んで貰えばよろしいのでは?」
ガレスの言う通り、この世界における靴下の歴史は古い。特に、指先が分かれていない足袋のような形状のものは一般的で、上質な糸で編まれたものは、貴族の子女の嫁入り修行の一環としても教えられていた。
「確かにそうだな」
エルは頷いた。
「だが、今回作るのは、少し変わったものだ。指を一本ずつ包む形になる。だから、一度自分で試作品を作ってみようと思って……」
「エル様が『少し変わった』とおっしゃるならば、それは相当に奇抜なものでしょう。それに、口頭でご説明いただくよりも、実際にどのようなものか見本があった方が、我々も理解しやすいでしょうし……」ガレスは、エルが時折見せる突飛な発想に慣れた様子で、そう付け加えた。
「先日、鹿狩りを狩った際、革靴の中がひどく蒸れて閉口したのだ……」
エルは、当時の不快感を思い出すように眉をひそめた。上質な革で作られた靴は、確かに丈夫で魔物の牙や爪から足を守ってくれるが、通気性は皆無に等しい。
じめじめとした湿地帯を長時間歩き回った結果、靴の中は汗でぐっしょりと濡れ、まるで水の中に足を浸しているようだった。
「靴下がなければ、靴の中で足が滑って、まともに歩けなかっただろうと思うほど、酷い有様だった」
「わかります……」
ガレスは深く頷いた。
「水虫は、古くから兵士たちの間で『戦場の悪疫』とも呼ばれるほど、悩みの種でございます。特に、長期間鎧兜を身につけ、蒸れた革靴で過ごす兵士にとっては、深刻な問題です。もし、水虫を予防できるのであれば、皆、多少の金銭を払ってでも手に入れたいと願うでしょう」
「この世界では、回復魔術や魔法薬で治療することはできないのか?」
エルは問いかけた。
「回復魔術を使える魔術師は極めて少なく、いたとしても高位の聖職者くらいでしょう。それに、魔法薬も非常に高価で、一般の兵士や農民が気軽に手に入れられるものではございません……」
ガレスは、この世界の医療事情について説明した。
「つまり、魔術や魔法薬は高嶺の花だが、靴下程度のものなら、何とか手に入れられるということか」
「まさに、その通りでございます」
ガレスは力強く頷いた。
エルは手慣れた様子で、用意した糸を使い、四足分の五本指靴下を編み上げていった。
革と吸湿性に優れた布、そして炭を細かく砕いた活性炭を材料に、同じ数のインソールを作り上げた。活性炭は湿気や臭いを吸い取る効果がある。昼過ぎには、試作品の靴下とインソールが完成した。
◇
エルは、領主の私兵たちが日々の鍛錬に励む訓練場へと向かった。剣と剣がぶつかり合う金属音、騎士たちの荒い息遣い、そして汗と土の混じった匂いが、訓練場を満たしている。エルは、木剣を打ち合わせている男たちに声をかけた。
「すまないが、これを試してみてくれないか?」
屈強な騎士の一人が、エルが差し出したものを見て首を傾げた。
「エル様、その奇妙なものは何でございましょうか?」
「これは靴下だよ」
エルはにこやかに答えた。
「はあ。これが靴下ですか? 指まで一つずつ覆うとは、まるで蟲の抜け殻みたいでございますな」
別の従士が、興味深そうに、しかし少しばかり気味悪そうにそれを見た。
「確かに、履くのが大変そうだ……」
別の従士も、そう言って顔をしかめた。
「そんなことを言わずに、一度履いてみてくれないか?前の影狼狩りの時、ひどく汗をかいて、革靴の中がびちゃびちゃになって困ったんだ。何とかできないかなと思って作ったんだよ」エルは、そう言って騎士たちを促した。
最初に恐る恐る五本指靴下に足を入れた騎士が、しばらくすると不思議そうな声を上げた。「では、失礼して……っ!?」
「どうした?」エルが問い返した。
「汗で少し履きにくいですが、指が一本ずつ包まれているせいか、妙な違和感があります……しかし、確かに、先ほどまで感じていたような、足裏の汗でぐしょぐしょする感じが、幾分か和らいだ気がいたします」騎士は、驚きを隠せない様子でそう言った。「まさか、こんなにも効果があるとは……」エルは、その言葉を聞いて、内心で小さくガッツポーズをした。「マジか?」
「このインソールと組み合わせると、さらに快適になるはずだ。それに、水虫の予防にもなる」エルは、そう言ってインソールを騎士たちに手渡した。
屈強な従士、ガレスが、鍛え上げられた腕を組みながら、好奇心と若干の困惑を滲ませた声で問いかけた。エルは、傍らに積み上げられた素材を見下ろし、涼やかな表情で答えた。
「靴下と、足の裏に敷くものを作る」
「足の裏に敷くもの、ですか……それは存じ上げませんが……靴下といえば、あの足袋のようなものでしょうか? もしご所望でしたら、街の仕立て屋に頼むか、腕の良い者に編んで貰えばよろしいのでは?」
ガレスの言う通り、この世界における靴下の歴史は古い。特に、指先が分かれていない足袋のような形状のものは一般的で、上質な糸で編まれたものは、貴族の子女の嫁入り修行の一環としても教えられていた。
「確かにそうだな」
エルは頷いた。
「だが、今回作るのは、少し変わったものだ。指を一本ずつ包む形になる。だから、一度自分で試作品を作ってみようと思って……」
「エル様が『少し変わった』とおっしゃるならば、それは相当に奇抜なものでしょう。それに、口頭でご説明いただくよりも、実際にどのようなものか見本があった方が、我々も理解しやすいでしょうし……」ガレスは、エルが時折見せる突飛な発想に慣れた様子で、そう付け加えた。
「先日、鹿狩りを狩った際、革靴の中がひどく蒸れて閉口したのだ……」
エルは、当時の不快感を思い出すように眉をひそめた。上質な革で作られた靴は、確かに丈夫で魔物の牙や爪から足を守ってくれるが、通気性は皆無に等しい。
じめじめとした湿地帯を長時間歩き回った結果、靴の中は汗でぐっしょりと濡れ、まるで水の中に足を浸しているようだった。
「靴下がなければ、靴の中で足が滑って、まともに歩けなかっただろうと思うほど、酷い有様だった」
「わかります……」
ガレスは深く頷いた。
「水虫は、古くから兵士たちの間で『戦場の悪疫』とも呼ばれるほど、悩みの種でございます。特に、長期間鎧兜を身につけ、蒸れた革靴で過ごす兵士にとっては、深刻な問題です。もし、水虫を予防できるのであれば、皆、多少の金銭を払ってでも手に入れたいと願うでしょう」
「この世界では、回復魔術や魔法薬で治療することはできないのか?」
エルは問いかけた。
「回復魔術を使える魔術師は極めて少なく、いたとしても高位の聖職者くらいでしょう。それに、魔法薬も非常に高価で、一般の兵士や農民が気軽に手に入れられるものではございません……」
ガレスは、この世界の医療事情について説明した。
「つまり、魔術や魔法薬は高嶺の花だが、靴下程度のものなら、何とか手に入れられるということか」
「まさに、その通りでございます」
ガレスは力強く頷いた。
エルは手慣れた様子で、用意した糸を使い、四足分の五本指靴下を編み上げていった。
革と吸湿性に優れた布、そして炭を細かく砕いた活性炭を材料に、同じ数のインソールを作り上げた。活性炭は湿気や臭いを吸い取る効果がある。昼過ぎには、試作品の靴下とインソールが完成した。
◇
エルは、領主の私兵たちが日々の鍛錬に励む訓練場へと向かった。剣と剣がぶつかり合う金属音、騎士たちの荒い息遣い、そして汗と土の混じった匂いが、訓練場を満たしている。エルは、木剣を打ち合わせている男たちに声をかけた。
「すまないが、これを試してみてくれないか?」
屈強な騎士の一人が、エルが差し出したものを見て首を傾げた。
「エル様、その奇妙なものは何でございましょうか?」
「これは靴下だよ」
エルはにこやかに答えた。
「はあ。これが靴下ですか? 指まで一つずつ覆うとは、まるで蟲の抜け殻みたいでございますな」
別の従士が、興味深そうに、しかし少しばかり気味悪そうにそれを見た。
「確かに、履くのが大変そうだ……」
別の従士も、そう言って顔をしかめた。
「そんなことを言わずに、一度履いてみてくれないか?前の影狼狩りの時、ひどく汗をかいて、革靴の中がびちゃびちゃになって困ったんだ。何とかできないかなと思って作ったんだよ」エルは、そう言って騎士たちを促した。
最初に恐る恐る五本指靴下に足を入れた騎士が、しばらくすると不思議そうな声を上げた。「では、失礼して……っ!?」
「どうした?」エルが問い返した。
「汗で少し履きにくいですが、指が一本ずつ包まれているせいか、妙な違和感があります……しかし、確かに、先ほどまで感じていたような、足裏の汗でぐしょぐしょする感じが、幾分か和らいだ気がいたします」騎士は、驚きを隠せない様子でそう言った。「まさか、こんなにも効果があるとは……」エルは、その言葉を聞いて、内心で小さくガッツポーズをした。「マジか?」
「このインソールと組み合わせると、さらに快適になるはずだ。それに、水虫の予防にもなる」エルは、そう言ってインソールを騎士たちに手渡した。
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