転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗

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第29話 借財と売り込み2

「食料を求める方々に、その購入を制限するつもりはございません。また、不当な価格をつり上げるような真似も致しません。しかし、かつて当家を冷遇された貴殿方に対する今回の申し出は、私どもなりに十二分な温情をもって対応させていただいているつもりですが」母は、静かに、しかし言葉の刃を突き刺すように言った。

「新参者が……!」準男爵は、憎々しげな表情で、まるで毒を吐き捨てるかのように小さな声で呟いた。

ステップド家は、確かに歴史は古いが、この国の貴族として認められたのは、亡き祖父の功績によるものだ。元々この地に根付いていた旧家や、戦乱の時代にいち早く伯爵に臣従した家を除けば、周囲にいるのは皆、陞爵あるいは叙爵されたばかりの新興貴族ばかりである。つまり、この地域の複雑な力関係や慣習に、彼は詳しくないのだ。

「何か仰いましたか?」母アリアは、聞き逃さなかった。「最終的に支援を行うかどうかを決めるのは、このステップド家の当主、私の夫ガイウスです。平素より親しいお付き合いがあれば、率先して支援することも吝かではありませんでしたが……残念ながら、私達の間にはそのような親交はございません。それに、今回の準男爵様の申し出の規模からしますと、伯爵様のご判断を仰ぐべき大規模な案件かと存じます。現に、伯爵様からの支援は既に行われているはずでは?」

「それは、まあ、そうだが……しかしだな、余裕のある家が、困窮している家を助けるのは、貴族の矜持というものではないか! 新参のステップド家には、そのような高貴な精神は到底理解できないということか!」準男爵は、必死の形相で訴えた。

「困っている友人を助けるのは、当然のことです――」母アリアは、優雅に微笑みながら言った。「ならば――」と、準男爵は食い下がるように言葉を重ねようとしたが、母はそれを遮るように、さらに言葉を続けた。「しかし、それはあくまで友人間の話。それに、友人を助け、共に傷を負うのは美徳でしょう。しかし、敵もいないのに、わざわざ共倒れになるような愚行は、論外です」

「……」準男爵は、言葉を失い、悔しそうに唇を噛み締めた。

「他に何かお話はございますか?」母アリアは、立ち上がり、退出を促すように言った。

「ステップド家とその周辺は、実に水に恵まれておりますな……そして、今年の収穫は、豊作とまではいかないまでも、例年並みの収穫量があると聞く……何か、特別な秘訣があるのでしょうか?」準男爵の目は、ギラギラと欲に燃えていた。(来たな)と、俺は心の中で呟いた。

本当に食料支援だけが目的なら、伯爵などが主催する華やかなパーティーの前後で、他の貴族たちに紛れて支援を頼めばいいはずだ。しかし、わざわざ当主が不在の時を選び、それも自分よりも爵位の低い騎士爵の元を訪れるのは、食料支援以外に、別の目的があると言っているに等しい。豊作の秘訣。つまり、ステップド家が密かに開発した新型の農法を探りに来たのだ。いや、本来は、準男爵の護衛の兵を引き連れ、その爵位を背景にした恫喝によって、強引に情報を聞き出そうとしていたというのが正解だろう。

「ええ、これも一重に、慈悲深き神の御思し召しでしょう」母アリアは、涼やかな表情で答えた。この世界では、領主の徳こそが、領内の豊穣を左右するという考え方が主流である。つまり、母は遠回しに「あなたの領地が困窮しているのは、あなた自身の徳が足りないからでしょう」と、痛烈な一撃を食らわせたのだ。

「ぐぬぬ……」準男爵は、喉の奥から苦悶の声を漏らした。
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