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第1話プロローグ

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「すいませんでした!」

俺は頭を下げ、目の前の男性に謝罪した。

「全く……困るんだよね……オイル売ったら付帯品も売ってくれなきゃ……本社から怒られるのは、店長と工場の責任者の俺なんだから……」

男は火をつけた煙草からもくもくと、紫煙を立ち上らせ休憩室を煙草の煙で満たしていく……。

付帯品とは、一つの商品を販売した際に発生する関連商品やサービスのことである。会社としては利益率の高い付帯品をつける事で、利益を上げようという事である。

「でも……」

俺は理由を述べようとした。しかし……

「須藤テメェ! でも、もクソも無ぇんだよ!」

ドン! 足の裏の部分で工場長は、自分の机を蹴った。

「どんなことをしてでも、売り上げ目標を達成しろッ! 車なんてのはな、幾らでも金をかけられるものだよ!! 例えばオイルを交換すれば、タイヤ、ワイパー、バッテリー、オイル添加剤、フィルター……そのどれか一つぐらいは売って見せろ!」

俺はこの閉店後から今まで、一時間以上にわたる説教を食らっていた。入社一年目で、バッテリー担当になったその年。ウチのフランチャイズ系列で一番バッテリーを売った事で、表彰と賞与を貰い目立ってしまったのが仇となった。

社会に出たばかり右も左も分からなかった俺は、一言で言えば調子に乗っていた。自分には販売力があると。しかしそれは、まさにビギナーズラックと前任の先輩がダメダメだっただけだった。

売り上げを見た店長と工場長の過度な期待は、ストレスに代わり伸び悩む業績などにより、上の人間はその捌け口を求めていたのであろう。気が付くと俺は皆の不満のはけ口になっていた。

「今月はあとバッテリーを30個売れ。これが出来なきゃクビだからなッ! 俺とエースの満島君とメシいくから明日までに、月末の会議の書類用意しておけよ!」
「そ、そんな!」

ギィっ バタン!! と大きな音を立てて、ボロボロの変形したドアが閉まる。俺は一人だけ残業することになった。
工場長のPCを見る限り、まだ半分も会議資料は終わっていないようだ。

「はぁ」俺はため息を吐くと、仕事と趣味で使う為に持ってきている。ノートPCを鞄から取り出して、USBメモリに会議資料などのデータを移してから自分のパソコンで、エクセルで資料をまとめ、画像を張って文字やグラフを挿入したパワーポイントなどの制作を始める。

暫くするとグ~っと腹の虫が泣いた。

時計を見るとどうやら、数時間は経過しているようで……時間は22時。

「腹も減ったし飯にするか……ていうか俺今日帰れるかな……」

携帯を見ると叔母からのメッセージが入っている。「ユウト。ご飯食べてる? よければ今度飯食べに行こ?」俺はソレを無視して事務所の鍵をかけると、近所のコンビニにご飯を買いに行くことにした。
交差点を渡っていると、何とも凄まじいエンジン音が聞こえた。

音のする方を見ると、トラックが法定速度を優に超えた。80km/hほどの速度で、バクシンしてきていた。もう日も暮れていて運転手の顔は見えないが、ただ事でない事だけは容易に想像がつく。

過剰労働の疲れによる居眠り運転だろうか? 数日前に見たネットニュースの内容がふと脳裏をよぎるり、つい他人の心配をしてしまう。

もうよける時間はあまり残っていない。
俺は全力でトラックから離れようと駆け出すがトラックは横転して、4車線道路を覆うように横転する。
その挙動は、まるで俺の命を刈り取る事を目的としているかのようであり、俺はその瞬間過去のことを思い出していた。

人に迷惑をかけた小学校、勉強から逃げた中学校時代。色恋沙汰はなかったがほどほど楽しめ真面目にしようとした高校・大学時代。今までのツケを払うかのようにブラックな環境に落とされた社会人時代
どうしてこうなったとかと、後悔の感情が頭の中でぐるぐると回っているが、答えは出ない。

これが走馬灯……

そして――――。

刹那。

引き延ばされていた体感時間は、終にトラックの衝突事故によって現実に引き戻される。
俺は自分の数十倍以上の重量を持つトラックに跳ね飛ばされ、アスファルトの道路に体を強く打ち付けた。

衝撃とその痛みによって肺の中の酸素が、一瞬にして吐き出させられ酸欠症状に陥り意識がだんだんとと思いて行く……恐らくは肋骨が肺や内臓に突き刺さって酷い内出血を起こしているため俺は恐らく助からないだろう。

工場長困るだろうな……ザマァ見ろ。労基と残業代未払いに、過労死で訴えられてしまえ……

そんなことを考えていると、痛みと出血、酸欠によって俺の意識は遠のいた。



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