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第1話 龍虎は逢出会う
しおりを挟むあくまでも自然に、それでいて素人目にも丹精込めて整えられたのが理解できる美しい庭園であった。
そんな季節の花々によって彩られた庭園の一角、ちょっと休憩するのに最適な、壁の無い小屋のようなものが一棟立っている。
辺りは綺麗に整備され、周囲からは孤絶されていた。
そんな四阿の下には、何人かの人物が見受けられるが、テーブルを挟み、斜向かいに座しているは一組の男女だけだった。
北欧系美女の典型といってもいい黄金を溶かした髪色に、スッと通った鼻筋、綺麗な卵型のフェイスライン。
美女と美少女の危うい期間の顔付きを、いたずらっぽい光を湛えるサファイアブルーの大きな瞳が、より幼く魅せる。
「さて、今日あなたをお茶会に招待したのには理由があります」
そう言うと、喉が渇いたのか一口紅茶を喫す。
桜色の唇が白磁のティーカップから離れ、舶来の磁器に絡む指が解けてゆく様を見比べるに、少女の肌色の方が健康的に白く、美しい程である。
「なんでしょうか?」
思わず見とれてしまい、返事が数秒遅れる。
「近年、都の治安が荒れている。と、訊いていますが事実ですか?」
身に纏う艶やかな空色のドレスは、普段使いとは思えない程上等なモノで、言外に彼女の身分が高い事を示している。
「はっ! 恐れながら申し上げます。仰せの通り、宮中は佞臣(主君にこびへつらう家来)の巣窟と化し、官僚・貴族の権力闘争の場となり果てております。その横領の為王国の財は底を付き、……力を持たぬ王国の民草は、打ち続く天災や飢饉に打ちひしがれ、天井知らずの麦の高騰でパンすら買えない始末です」
少女の瞳は、王国内部、ひいては彼女の父である国王陛下の治世を、愚かだと断じる俺を真っすぐにじっと見据え、「続きを言いなさい」とでも言いたげな視線を向けてくる。
「民は貴族を! いや……王を恨んでいるのが現状です。
内政を建て直さねば、貴族は名誉を、財を奪われその果てに処刑台への階段を昇る事になるでしょう……」
俺がそう述べると、姫に仕えるメイドと騎士がそれぞれの得物に手を掛ける。
騎士は腰に差した剣の柄に、メイドはスカートの中太腿に這うガーターベルトに付けた短剣を抜くために、カーテシーのような動きをしている。
姫は右手を上げると、「やめなさい」と、焦る訳でもなくピシャリと命令を下す。
「驚かせてごめんなさい。彼女達に悪気はないの……」
そう言うと、「このお茶とクッキー美味しいのよ」とお茶とお菓子を進めてくる。
「はっ。ありがとうございます」
そういうと初めて、ティーカップに口を付け紅茶を飲む。
酸味と渋み、そして仄かな甘みのバランスが良い。
確かに貴人が好むような味だ。
「どうですか?」
と、目を輝かせて聞いて来る。
「私では滅多に味わえぬ高価な茶葉は、大変美味しいモノですな」
「でしょう? 私のオリジナルブレンドなの」
貴婦人の趣味として園芸や手芸、バレー等と並び紅茶は極一般なものだ。
「それは、それは。姫様の夫となられるお方は美味しいお茶を飲めるという事ですな。今の内に味わって置かねば、私には次の機会などいつ巡ってくるか」
と世辞を交え、険悪になった場の雰囲気の改善に努める。
「あら、随分とお世辞がお上手なのね……」
「世辞ではありません。それで私に王国批判をさせて御身は何をなさりたいのですか?」
「兄達は宮中の勢力図の塗り替えに心を砕いるようですから、私は兄達に代わって困窮する民のために心を砕きたいのです」
「それは御立派な事だと思います。ですが、金と人員はどうするのですか?」
「金も人も今はまだ必要ありません。
今必要はなのは直に民の声を聴き、生活を見る事です」
「確かに権力者が現地を視察し実情を理解し政策を執る事が出来ればより良いモノにはなるでしょうが……」
「やはり! 百聞は一見に如かずと言う通り、実際に見聞きする方が物事の本質を理解できるのですね!」
自らの失言に気が付いて、椅子を立った姫から両脇に立つ女騎士とメイドに視線を向ける……
二人とも「あっちゃー」とか「やってしまった」と言いたげな表情を浮かべており、俺の背後に控えるメイドが「お茶のお代わりをお淹れいたします」と言うと、背中に鋭利なモノが触れ服がピンと張る。
すると耳元でこう囁かれた。
「責任とれ、このヘボ騎士が」
普段聞くキャピキャピとしたような女の声ではなく、ドスの聞いた低音に俺は思わず震え上がる。
「やはり私の目に狂いはなかった。あなたの剣を私に捧げなさい」
「は、はい?」
俺は思わず姫の言葉を聞き返す。
「ですから、私の近衛騎士となりなさいと言ったのです。権謀術数渦巻く、宮中ではあなたの慧眼は十二分に役に立つ事はないでしょう。父……国王陛下には私から伝えておきますから移籍の準備をしておきなさい」
「私には夢があるのです!」
「無礼者!」
そういうと再び女達は武器に手を掛ける。
「構いません。言ってみなさい」
「恐れながら、国王陛下に仕える将なとなり我が家を再興させる事に御座います」
「で、あれば尚の事です。ペーパーナイフで戦をする者は、ただの馬鹿者のする愚行です。私の元で兵を率いこの腐った世を変えこの私が王になったあかつきには、あなたの願いを叶えましょう」
「女王など王国の歴史のなかで片手の数しかおりませんぞ!」
「ですが、成れない訳ではありません。法典によれば女性にも継承権はあります。私とあなたたちで新世界をつくりましょう」
俺はその言葉に対して何一つ言い返す事は出来なかった。
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