お転婆姫の懐剣~没落騎士はお転婆姫の近衛騎士となる。野心家な腹黒姫は女王となるため謀略を巡らせる~~

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗

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第4話 賊の処理

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「ありがとう」

 姫の手を取りエスコートするメイドに礼を言うと視線を俺に向ける。
 その瞳は、「粒ぞろいの騎士達でしょう?」とでも言いたげだ。
 実際、優れた騎士達だとは思うがまだまだ粗が多い事も事実だ。
 姫としては、彼女らの成長を導く存在としてこの俺をスカウトしたのだろうか?

「とても優れた特技を持つ騎士達ですね」

「ふふふ」と楽し気に微笑む。

「姫さま」

 と声を上げながらプラチナブロンドの長髪の騎士が、騎乗まま近寄ってくる。
 
「馬上から失礼します。たった今、賊の連中を追い払う事に成功しました」

先ほど指揮をしていた騎士だ。
確か名前は……

「よくやりました。ミネルヴァ……」

 ミネルヴァと呼ばれた女性は、チラリとこちらを一瞥する。
 
「ただ、賊は20人を超える大所帯でしたので、他にも仲間がいる可能性があります。早急に捜索隊を……」

――――と作戦を立案するが、姫はバッサリと斬り捨てる。

「必要ありません。あなた達は十分に役目を果たしています……」

 大切な事は襲撃者を殲滅する事ではない。
被警護者である姫を無事に、王墓のあるサンライトイーストグロウ教会に送り届け祭儀を無事執り行う事だ。

「くっ! しかし……」

 一度吐いた言葉を飲み込めないでいるのか? はたまたみすみす襲撃を許してしまった汚点を雪ぐためなのか、しつこく食い下がる。

「くどいです……追手を放った所で対して意味はありません。
ならば生き残った賊を捉え情報を吐かせ、背後関係を洗うのが最も合理的でしょう」

 と、視野狭窄気味の騎士ミネルヴァに対して、こうすればよいのではないか? と言う具体的な解決案をだす事で行動を誘導しつつ、教育を施している。と言ったところだろう。

 国王と言うよりは、管理職に向いている才能だな。
と俺はお転婆姫を評価する。

「はっ、申し訳ございません……失礼します。」 

 ミネルヴァは踵《きびす》を返し、姫から離れる。
 どうやら姫からの命令を伝えに行ったようだ。

 まぁ、姫が言うように追手を放たないにしても、ミネルヴァが言うように賊を追いかけ捕らえるにせよ、現状を把握してからでなくては動けない。

 ミネルヴァは、同じく馬上に乗ったダイアナに質問を投げかける。

「ダイアナ、賊の残党は何人捕まえた?」

「ん~大体三分の一くらいかしら」

 ダイアナは、賊の居所を探るための魔法を使いながら答える。

 約30名の賊をほぼ同数の25名で打倒し、軽微な損耗で敵戦力を壊滅させることが出来たのは、初陣にしては上出来と言える。

「もう近場に居ないっぽい」

 状況を報告しあっていると、ヴェスタが徒歩のまま寄ってくる。

「幸い馬車が余っているので、賊を運ぶ事は可能ですよ。ミネルヴァ団長どうしますか?」

 ミネルヴァは首を傾げ「うーむ」と唸る。
 三人寄れば文殊の知恵。とはいうが、経験も知識にも欠ける三人が寄ったところで、良いアイディアは出ないようだ。

 業を煮やした姫は、ミネルヴァ達の元へ歩いていくとこう言った。

「元々、サンライトイーストグロウ教会には明日到着する予定ですので、襲撃者は全員拘束し囚人座りの状態で二台に乗せるか、紐で全員を繋いで連行するのはどうでしょう?」

 扇で口元を隠しながら述べるその姿は、正に上級貴族の女性のソレだった。

 声を上げたのは、ダイアナと呼ばれている桃髪の女性だ。

「しかし、それでは姫の御身が危険に晒されてしまいます!」

「痛みなくして得られる利益はない。と言う言葉がある通り、賊の目的、背後関係、どうしてこのルートが割れたのか? などを我らの手で明らかにするのなら必要なリスクです」

「確かにそうですが……」

 ダイアナはやや長いロバのような耳を、しゅんと下に下げる。
 
 エルフ族か……

 などと余計な事を考えていると、姫の視線が俺に移動した。
 発言を求められているのだと理解した俺は、過去の経験から対応を答える。

「賊の生存者が10名ならば、戦闘員が約25名しかいない我々では、全員を捕縛・連行するのはリスクが高く推奨はできません――――」

 姫は、全く笑っていない目のまま「私の意見を否定するのね。まぁいいわ。続けなさい」とでも、言いたげな視線を向けたままニッコリとした笑みを讃えている。

「――――通常。捕縛する際は常時倍程度の戦力で行う事が多く、我々の戦力比は1.2倍程度であるので、通常は5名程度処分する事が一般的です」

「折角の情報源をみすみす殺せと仰りたいんですか!」

 斬った張ったの剣戟を演じ、また騎士団の長のミネルヴァとしては、自身の戦果を減らすような真似は許せないのだろう。
 否、尊敬する姫を害した(害そうとした)奴を許せないのかもしれない。

「いえ、そう言う訳ではありません」

「では何と仰りたいのですか!」

「ヴェスタさんでしたか? あなたは意識を奪う魔法は使えますか?」

 赤髪の少女は「え? わ、私?」と言いたげな驚きの表情を浮かべるも、「おほん」と咳ばらいをしこう答えた。

「睡眠魔法《スリープ》に麻痺魔法《パラライズ》一通りは使えるよ」

「素晴らしい。では睡眠魔法《スリープ》と麻痺魔法《パラライズ》を馬車に積んでから、半数に掛けていただけますか?」

「あ、そういう事。半数でいいの? 全員に掛けられるけど……」

「可能であれば全員に掛けたいのですが、賊の後ろに人物がいたとしてその方の妨害がコレだけとは限りませんので、魔術師の方には出来るだけ魔力の節約をしてほしいんです」

「なるほどね。分かった」

「姫さま。これでよろしいでしょうか?」

「よくやりました。準備ができしだい出発しましょう。流石に野宿はいやですから……」


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