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第x話とあるメイドの独白
しおりを挟む屋敷の使用人と言っても千差万別。
上級から下級まで大きなお屋敷では格があり、私は中級女中と言う中間管理職である保母女中をしている。
保母女中の仕事は、助産師としての技能と令嬢・令息がある程度育つまで保育し、家庭教師が付くまでの簡単な情操教育が、主な仕事で部署としての規模は、相応に小さいものの数人の子守女中を従えている。
上級使用人は個室や近隣に住む事が許されるが、私のような中級使用人は個室か半個室を与えられる。もちろん配偶者がいれば、同じ町に住むことは出来るが……結婚している者は殆どいない。下級や最下級にもなれば相部屋や大部屋での雑魚寝、部屋無しなど当たり前だ。
だが、この屋敷の主人達は寛容で、わざわざ使用人用の離れを造りそこに住まわせている。
自室でユーサー様の教育状況を過去の生徒と比較するため、日記を見ているとドアがノックされる。
(はて……誰だろうか?)
「リャナンシー様~少しよろしいでしょうかぁ~?」
私が趣味の日記を付けていると、子守女中の少女シャルティーナ・フォン・サンクティスが話しかけて来た。
相も変わらず鼻にかかったような特徴的な語尾だ。
「どうぞ……」
そう言って私は許可を下した。
「何かありましたか?」
続けて部下が話しやすいように話題を振る。
「実はぁ……」
そう前置きを話すと、シャルティーナは用件を話し始めた。
「本日、リャナンシー様もご存じの通り、ユーサー様が初めて屋敷外に外出されました」
「えぇ、他の子守女中から聞いて存じています。
それが何か?」
シャルティーナと言う娘が、未婚でこの美しさながら子守女中に任命されたのは理由がある。彼女は優秀な魔術師であり、幾つかの土属性の下級魔法であれば、短縮詠唱で魔法を発動できると言う。
下級貴族である騎士の娘として、生まれた私と比べれば幾分も産まれのいい彼女が、どうしてこんな下女の仕事をしているかなど知りたくもない。
教育なのか警護のためか……私も40年余り生きて来た人生の中でもとびきり大きな仕事だ。要らぬ藪を突いて蛇や鬼を出したくない。
「その時魔物と遭遇し、騎士主導で倒したのですがぁ……」
「外なのですから、モンスターが出るくらいは普通なのではなくて?」
リャナンシーは確かに、下級貴族である騎士爵家の生まれで、長年王都付近の裕福な家や貴族家で子守をしてきた。辺境の地と言っても過言ではない。公爵家の領地で出没するモンスターと内地にでるモンスターでは質も量も段違いだ。
例えるならRPGでは同じスライムでも、序盤のLv3程度と裏ダンジョンのLv53では、強さが段違いなようにこの世界のモンスターにも、例ほど極端ではないもののその傾向が見られる事を知らないのだ。
コレは行商人や傭兵、冒険者等が経験則で知っている事であり、普段戦わない一般市民には知る由もないからだ。
「えぇですが、生憎と警護の兵達は訓練の済んだばかりの新兵ばかりで、ボアの突進で崩れそうになっていた所を私が魔法で仕留めまして……それを見たユーサー様が自分も魔法を学びたいと……」
私はシャルティーナの言葉に眩暈を覚えた。
訓練された騎士や兵士を伴ったなら兎も角、新兵を共としたために次期公爵の長男を無駄な危険に晒すなど、報告を聞いている間生きた心地がしなかった。
「百人隊とは言いませんが、兵士ならその半分の小隊規模程度、騎士ならその半分以下の分隊程度いれば十分でしょうに……」
素人ながらリャナンシーの言葉に、納得できるものがあり従軍経験を持つシャルティーナも思わず納得してしまう。
「はい。仰る通りです」
「ユーサー様の魔法を学びたいと言うお言葉ですが……まだ文字も読めない年齢です。例え教師を招いたとしても満足に学べるとはとても思えません。急ぎ家庭教師を招き、読み書き、算術、教養を覚えたら魔法の教師を招くと言えば良いでしょう。旦那様には私が伝えておきます。」
「ありがとうございます」
シャルティーナはそう言って、リャナンシーの私室を後にした。
私はユーサー様の要望を伝えるため、公爵公子ご夫妻が晩酌をされている私室のドアを叩いた。
「誰だ?」
旦那様の口調はいつも通り優し気で、高位貴族特有の傲慢さは薄い。
冒険者を経験したせいだろうか?
「保母女中のリャナンシーで御座います」
「ユーサーの事か、部屋に入って構わない」
主人の許可が下りたので部屋に入る。
「ユーサーが珍しくワガママでも言ったのかな?」
上級貴族の子育てとは、従者に子供を教育させる事であり、パウルのように物心も付いていない子供に、興味関心を持っている時点で随分と子煩悩と言える。
ワガママとは言うが、ユーサーのワガママのために一カ月当たり主人の許可なく使える金は、平民の平均的な収入の一カ月分程度だ。
それを超えた金額をワガママで済ませられるのは、流石王国貴族の頂点である公爵と言ったところだ。
「ワガママと言えばワガママなのですが……本日初めて外へお散歩に出かけたようで、その際モンスターが現れ撃退するため子守女中のシャルティーナが、魔法を使用しそれを見たユーサー様は、自分も魔法が使いたいと駄々を捏ねた様です」
「あら、ユーサーは剣より魔法が好きみたいねアナタ」
パウルの隣で葡萄酒を飲んでいる。シルヴィアの声音は弾んでおり何処か嬉しそうだ。
「だが貴族の男ともなれば、武芸の腕も求められる魔法ばかりでは周囲の貴族に侮られる」
馬術、剣術、槍術、弓術は貴族男性にとっては必須技能である。
日本の鎌倉時代の武士は、弓道、馬術、槍術、剣術の順番で稽古の比重を置いていたと聞く。
事実の武士=弓と言う構図は、今川義元・徳川家康の「海道一の弓取り」や、宇都宮 公綱の「坂東一の弓取り」と言う異名を見れば明らかであり、現代の武士=刀と言う構図を作ったのは、刀狩りで有名な関白や太閤として知られる。豊臣秀吉と言っても過言ではない。
この国の戦士階級である。貴族も狐などを狩る時には弓を使う。剣は騎士や貴族の象徴であるため重要度が高いのだ。
「急いで評判のいい家庭教師を用意しないといけないな」
家庭教師とは我々、保母女中や子守女中とは異なり身の周りの世話やマナー教育はせず。6歳から12歳程度の子供の就学のための基礎教育に専念する存在であり本来は、我々と入れ替わるように屋敷に入る。
そうなれば我々の仕事は、乳母である。カルデコート子爵夫人のお子様が主な仕事相手になる。
家庭教師は社会的には弱い立場で、使用にでも家族でもない存在であり、結婚していない資産家の娘や困窮した貴族の婦女子が付く仕事であるため、読み書き算術以外にも外国語や絵画、音楽等に通じた人物も多くそう言った。あまり大っぴらに仕事が出来ない。社会的弱者を救済する数少ない手段でもある。
「ユーサーは賢いですから、家庭教師なんて一年持てばいい方かもしれませんよ?」
パウルがそう言うと、空かさずシルヴィアが反応する。
「俺よりユーサーと過ごしている君が言うんだ、間違いないんだろう……だったらなおの事早く、俺も剣と槍と弓の専門家庭教師を探さないと……優秀な教師は引く手数多だからね。
早いうちから声をかけて置いて損はない。
ユーサーが学べない間は寄り子(庇護下にいる貴族の事)や親戚に教師を貸し出してもいいからね」
上位貴族は子女の教育に余念がなく、学校に通う時には教育は既に終わっていると言う話は有名だ。
「でしたら私は今のうちから、スヴェータに声をかけておきます。
あの子は年齢の割に頼りない所はあるけど、魔法の腕はピカイチだから、居場所が分かっている間に冒険者ギルド経由で手紙を出してみるわ」
こうして俺の何気ない一言のせいで、魔法の教師だけでなく、武芸の教師が探される事になったのだ。
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