15 / 56

第13話お菓子職人と対決

しおりを挟む



「はぁ……そこまで言うなら私は何も言わないわ。スヴェもユーサーもリンダも迷惑だけはかけないように……ダメって言われたら諦めるのよ」

 シルヴィアは諦めたような口調で、俺達の行動を黙認するようだ。

「「「はーい」」」

 三人とも元気のよい返事を返すが、三人とも言いつけを守るつもりなど毛頭ない。
 誰だって美味しい物を食べたいと思うのは自然な事だ。
 俺達三人は、俺専属の子守女中ナースメイドとリンダ専属の子守女中ナースメイドを連れ立って、俺達は調理場へ向けて西洋風東屋ガゼボを後にした。


………
……




「シルヴィア様よろしいのですか?」

 アイリーン夫人は声を上げた。

「えぇ。ユーサーは間違いなく天才よ? でも、何でもできるせいで理不尽や失敗をまだ知らないもの、挫折や理不尽を味わうには、丁度いい機会だとは思わない?」

「え?」

 アイリーン夫人は驚きの余り、気の抜けた声を発してしまう。

「失敗しても恥ずかしくも何ともないモノなのよ? 料理人達には申し訳ないけど良い経験になるわ」

 アイリーン夫人はこの時初めて理解した。
普段はおっとりとした雰囲気を持つ上級貴族の女性と言った態度だが、その胸の内にはしっかりとした貴族らしい考えを持った腹の黒い一面を今、垣間見える事が出来た。
 このおっとりとした雰囲気の女性がどうやって、次期公爵家当主の嫁に収まったのか? と思っていたがこういう一面がちゃんとあるのなら納得も出来る。

「私もそう思います。ユーサー様は立って歩くことも、古語や外国語、数学に至るまでのあらゆる物事をとてつもない速度で歩んでおられるお方。乳母として私が出来た事など、母乳を与え娘のリンダを側に置いてあげただけ……申し訳ない限りです」

「そんなことは無いわ。アナタが居るお陰で、ユーサーも自由にその天上より授かった才覚を遺憾なく発揮できたのだから、まぁこの程度の障壁なら、今のあの子なら問題なく乗り越えられるとは思わない?」

 シルヴィアはアイリーンに同意を求めた。

「えぇ、ユーサーなら新時代を築く事も出来るでしょう」

 アイリーンもシルヴィアに答える。

 ユーサーの知らない所で、大人たちの期待は高まりまくるのであった。


………
……




「――――と言う訳で、今この屋敷で提供されているお菓子は、甘すぎると思うんだ。だから砂糖を減らした……素材の味を活かしたお菓子を作って欲しいんだ」

 俺は子供ながら一番身分の高い者として、菓子職人長ヘッド・コンフィクショナーのアルベルトに向かって要求を伝える。

「ダメです。私は公爵家にお仕えする菓子職人です! 例えば市井しせいの菓子職人であれば、売り上げのため客の要望に応える事もするでしょう……
 しかし、私は公爵家の皆様に相応しい品位あるお菓子を作る事を求められています……素材の味を活かしたと言えば聞こえは良いですが、他の貴族から舐められてしまいますそんな砂糖をケチった物を貴族の菓子として、公爵家の皆様に食べさせるわけにはいきません」

 アルベルトの取り付く島もない態度には、それ相応の理由がある事も分かる。
 前世の俺は武士や貴族の事を「品位を持った賊」と思っていた。
武力を背景に成り上がって暫くすると、今まで必要なかった品格も必要になって取り繕うようになる。これが「体面を保つ」という事だ。
 民草の暮らしを自らの肌で感じ、民草の暮らしを憂う父パウルでさえも領民を守るためには、その家格に相応しい暮らしをしなければいけないのだ。
 例えそれが、歯が痛くなるほど甘いお菓子でもだ。

「では僕がお菓子を作りましょう。菓子職人コンフィクショナー菓子職人見習いセカンド・コンフィクショナー達はアルベルトさんが居る前では、手伝ってはくれないでしょうから……茶淹女中スティルームメイドに手伝ってもらおうかな」

 俺はそう言ってこの中で一番立場の弱い。茶淹女中スティルームメイド達に視線を向ける。
 彼女らの主な仕事はお茶を入れる事だが、簡単な焼き菓子の用意もできて、菓子職人コンフィクショナーのいない屋敷では茶淹女中スティルームメイドだけで、菓子周りを全て担当する事もある。

「「「ひぃ――――!」」」

 高位貴族の子供の無茶振りに思わず。茶淹女中スティルームメイド達は悲鳴をあげる。

「ユーサー様! 女中メイド達に無茶を言わないで下さい。
ご自身でお菓子を作ると申されたのなら、その言葉を曲げず自分だけで成し遂げて下さい」

「分かったよ。スヴェータはビスケットを焼く事は出来る?」

「旅の道中でパンとかは焼いた事あるよ。クッキーとかは何回かだけだけど……」

「分かった。じゃぁここには用はないね。アルベルト邪魔したね」

 俺はそう言って、菓子職人長ヘッド・コンフィクショナーのアルベルトの居る第二調理室を出て、すぐ近くにある第三調理室へ向かって歩き始めた。

「ねぇ、ビスケットはどうなったの?」

 ――――とリンダが喚いているが、「大丈夫。僕が何とかするから……」と言って頭を撫でてやると、「うん。ユーサー大好き!」と言ってハグをしてくれる。
 前世で散々見聞きした情報と漫画やアニメのお陰だろうか? 否。リンダがチョロいだけだな……



しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト) 前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した 生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ 魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する ということで努力していくことにしました

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。

いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。 そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。 【第二章】 原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。 原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

処理中です...