11 / 65

第08話 転生陰陽師は外にでる

しおりを挟む

 元平安貴族の俺にとって、集まりとは歌を詠むイメージがあって不安になる。

 俺は歌が苦手だ。いや、下手だった。
僧侶やかつての同僚にすら呆れられるほど表現が直接的らしい。
その詩詠の才のなさは今後の出世に響く程で、「おまえの祖先に阿倍仲麻呂あべのなかまろがいることすら不可思議だ」とまで言われたものだ。

まったく余計なお世話である。

うっ! 思い出すだけでおなかが痛くなってきた……【秘神】ぽんぽんペイン神に祈りを捧げた。架空の神であるのに心が安らぐのはなぜだろう……。

「歌とか詠む?」

「平安時代じゃないんだから、歌なんか詠まないわよ。
まぁ、そういうのが好きな人もいるけど……」

下っ足らずで若干たどたどしいが、最近意思疎通ができるようになった子供らしい発音で会話を続ける。

 「総会」の意味がわからないと思った母が説明してくれるが、俺が訊きたいのは言葉の意味じゃない。

「えっと、そうかいって何するの?」

「簡単に言えば顔合わせ……皆、仲良くしましょうって挨拶ね」


ふむ、狭い業界だから上辺だけでも仲が良いほうがいいってことか。

 平安時代でもさまざまな催し物を行い、交友を深めた。
しかし中途半端に互いを知ったからこそ嫉妬や妬みが産まれ、呪い合う貴族や僧侶たちの例もある。

 先日、呪術戦を行った者と今日は酒を酌み交わす。なんてことも珍しくはなかった。
 アニメで習った言葉にこんなものがある。「昨日の敵は今日の友」

「……めんどくさそう」

「ハハハハハっ! 直毘人は素直だな」

「今日は屋敷の外に出るんだから、しっかり準備するんだぞ?」

「はーい」

 釘を刺す父の言葉に返事をする。
幼児を演じるのも慣れたものだ。

お手伝いさんに手伝ってもらって身支度をしていると、

「準備はできたか?」

「もう少しです」

「今日は直毘人の魔力測定もする。婚約者も決まるだろうな……」

「婚約者!」

「ああ、そうだ。婚約者、将来結婚する女の子だ」

「かわいい子だといいな」

「ハハハハハっ! 違いない」

 談笑していると白髪の老人……確か御当主と呼ばれていた人物が現れた。

「――直樹ナオキ、行くぞ?」

「わかってるよ父さん。息子の晴れ姿なんだからもう少し待ってくれ」

「当主と呼べ……先に車で向かうぞ?」

「わかった」

 今まで当主としか呼ばなかったからわからなかったが、どうやら俺は当主の孫だったようだ。
 赤子の目ではよく見えなかったが、あれが前当主か……とても武闘派には見えない。

「じいちゃんにあいさつしような……」

「じいちゃん?」

「……なんだ?」

「一緒にいてくれないの?」

「今日は無理だ」

「わかった……」

「………来年はバスを手配しよう。来年は親族皆で行けるぞ?」

「……」

「それに会場には多くの術者の子弟がいる。友達も見つかるだろう」

「うん!」

「じゃあ直樹……」

「分かっている」

「『禍津日マガツヒは力の強い女性と子どもを狙ってくる』だろ?」

「ああ……くれぐれも気を付けろ」

 先に出発した祖父を見送ってから俺たちも出発する。
 母に手を引かれ、普段は閉め切られた正門へ向かう。
 平安時代基準では小さい屋敷だが、この時代の基準では立派な屋敷になるとテレビで学んだ。
 門の両脇には大きな松の木が生えており、この屋敷の歴史を物語っている。

「これからお台場のホテルに車で向かう。何があっても父さんか母さんから離れるな」

「離れたらどうなるの?」

禍津日マガツヒに食われて死ぬ」

「……」

平安時代でも確かに食われていたけどまだ昼だよ? そんなにポンポン禍津日マガツヒが出てきてたまるか!!

「食われたくなかったら大人から離れるな」

えー、もしかしたら何かの理由で白昼堂々と禍津日《マガツヒ》が出るようになったのか? それに、わざわざ子供が喰われるリスクを承知で集会に集まるメリットがあるのだろうか?

「直樹《ナオキ》様、お車のご用意が出来ております」

「頼む」

お手伝いさんがいれば運転手ぐらいはいるか……

 妙に納得してしまっている自分に驚く。
コンクリートで舗装された路を進むと、数台のセダン車やスポーツカーが止まっているのが見える。
停まっている車は、国内外を問わずどれも高級車ばかりだ。

「本日は混雑が予想されお時間もかかりますので、乗り心地の良いお車で参りましょう」

 運転手の提案を受け入れると、車が決まった。
 父母は自分でドアを開ける。

「さあ、直毘人車に乗るわよ」

「はーい」

 後部座席に用意されたチャイルドシートに固定される。
 普通、運転席の後ろに配置されることが多いのだが、なぜか助手席の後ろに配置されている。おまけに隣に座ったのは母ではなく父だ。

 何となくだが、その理由が分った気がする。  
 陰陽の大家と呼ばれる家でも、力を持たない子弟は産まれてくる。  
 禍津日マガツヒを倒す術《すべ》は『家』と『血』によって引き継がれる。女は血を重要視し、より多くの女性と子を成せる男子が優遇される。  

 男の適合者は非適合者の女を腹ませたとしても、一定の確率で適合者の子供を作ることができると、前世でも知られていた。  
 また、複数の子供を残すことができれば、師弟関係による一門ではなく、血による一族を形成することができ、裏切りを生み辛い。最も、分家に立場を乗っ取られることはあるだろうが、『血』が残る。  
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生者は冒険者となって教会と国に復讐する!

克全
ファンタジー
東洋医学従事者でアマチュア作家でもあった男が異世界に転生した。リアムと名付けられた赤子は、生まれて直ぐに極貧の両親に捨てられてしまう。捨てられたのはメタトロン教の孤児院だったが、この世界の教会孤児院は神官達が劣情のはけ口にしていた。神官達に襲われるのを嫌ったリアムは、3歳にして孤児院を脱走して大魔境に逃げ込んだ。前世の知識と創造力を駆使したリアムは、スライムを従魔とした。スライムを知識と創造力、魔力を総動員して最強魔獣に育てたリアムは、前世での唯一の後悔、子供を作ろうと10歳にして魔境を出て冒険者ギルドを訪ねた。 アルファポリスオンリー

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

処理中です...