悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗

文字の大きさ
6 / 71

第6話古剣・火樹銀花

しおりを挟む



 ミナは鞘から数センチ程刀身を引き抜いて中を覗き込んだ。
 刀身は美しい鋼の銀色をしており、アーノルドの剣と違い波紋は浮かんでいないものの、鞘には夜空に浮かぶ花火と紅葉の落ち葉をモチーフに意匠《デザイン》した彫刻が施されており、艶やかな印象を受ける。

「いいの? こんないい濶剣ブロードソード借りちゃって……」

 アーノルドは便宜上、濶剣ブロードソードと呼んでいるが、古代の日本では大陸と同じく両刃直剣を用いていた。
 時代が流れ平安時代中期以前には、反りのない片刃の剣が好まれるようになり直刀が出現し、関東以北に在住していた。蝦夷エミシ(大和政権に服属していないまつろわぬ民)の蕨手刀わらびてとうそれを参考にした湾刀わんとう、そして現代人が思い描く刀へと進化してきた系譜があり、懐古主義に習って打った影打ち(試作品の事)の一振りでしかない。
 そのそも濶剣ブロードソード自体が、細剣レイピアと比べて刀身が広いと言う意味でしかないので、広意で言えば古剣とよばれる日本の両刃直剣も、濶剣ブロードソードの一種と言える。

「俺にはコレがあるから問題ない」

 そう言って俺は愛刀・流櫻りゅうおうをカチャリと鳴らす。こちらも鞘には桜の花弁の意匠が施されており、日本を想起させる美しい意匠デザインをしている。ある程度なら俺も鞘を作れるが、ここまで美しく飾り立てられるのは数少ない友人の腕のお陰だ。

「その剣……火樹銀花かじゅぎんかは火属性魔術に特化した調整で、高速発動・高威力・低燃費をコンセプトにした片手用両刃直剣だ。今の手持ちの中だと魔術型の剣士と一番相性がいい一振りなんだ。取りあえず杖替わりに持っておけ」

「そう言う事なら……」

 渋々と言った様子でミナ・フォン・メイザースは剣を受け取った。

「それでなんで国内有数の権力者の息子が、冒険者の真似事なんてしてるのよ?」

 ミナの言葉には軽蔑の色も侮辱の色も感じなかった。ただ疑問に思った事を素直に口にしただけなんだろう。

「俺は自由に生きたいんだよ。小遣いも稼げるし手に職も付くから、冒険者をやってみようと思っただけだ」

 少し見栄を張ってしまった。この世界の事をロクに知らない俺は、前世の知識で勝手に冒険者=自由の象徴とイメージしているだけだ。

「ふーん。そうなんだ。でもクローリー家なら剣を打てるんでしょ? 鍛冶師になればいいじゃない……」

 彼女の言葉にも一理ある。危険を冒して得る報酬よりも鍛冶師として、武器を打った方が時間当たりの稼ぎは多い。

「俺はあくまでも自分のために剣を打っているだけだから……それに俺は上三人と比べると全て劣るからなぁ……」

 長兄は頭脳に優れ、次兄は鍛冶に優れ、三男は剣技に優れる。それに比べて俺は全員の真似事が出来るに留まる。強いて言えば魔力は一番多いぐらいか……

「まぁ何というかご愁傷様。この数年クローリー家四兄弟は学内では悪い意味で有名だもんね……それで火樹銀花かじゅぎんかはアーノルド君が打ったの?」

「あぁ、火樹銀花かじゅぎんかは俺が授業で使うために弟子入りしている工房で打った。刀の技術を取り入れた濶剣ブロードソードだ。付与ももちろん俺がやった。まぁ鞘だけは作ってもらったがな……」

「確かにこんな綺麗な仕事を貴方がやったと言われたら、私も素直に納得できないわ」

「確かに俺は金属細工や彫刻は基礎しか出来ないから、ここまでの一品は作れないよ。大型鼠の皮や魔石だが俺が貰っていいか?」

「えぇ別に構わないわ。そのために私に魔杖剣を渡したのよね?」

「概ね正解だが、俺にはコレがあるからお前が居なくても問題ない……」 

 俺はコートの胸ポケットにしまっていた。魔杖直刀・風餐露宿ふうさんろくしゅくを取り出した。
 先ほどまでの二振りの剣とは異なり風餐露宿ふうさんろくしゅくは華美な装飾は一切行っていない。白無垢の木材にうるしを塗った程度の簡素なものだ。

「さっきまでの剣に比べると地味な鞘ね」

「まぁそう言うな……コイツは便利な魔術を刻んであるだけでそれ以外の魔術を使う用には作って無いからな。【風餐露宿ふうさんろくしゅく】起動!」

 ピュー。

突風が吹き始め、俺を中心に風が集まり繭を形成する。

「何これ!」

風餐露宿ふうさんろくしゅくは音・匂いをほぼ完全に遮断し、副次効果で索敵も出来る結界魔術で俺の固有魔術オリジナルにあたる。効果は地味だが便利でな、こうやって血の匂いを遮断する事で他から狙われにくくなる」

「魔力を視られたら、一発アウトなのが難点って所かしら……」

「その通り」

 風餐露宿ふうさんろくしゅくは元々、とあるコンセプト刀の試作で、魔術を乗せた付与版の影打ちの様なもの。だがその数ある失敗作の中では、抜群の汎用性を誇る。

 今回も先ほどの鎧狼アーマーウルフと同じく、首から肛門まで、一直線にかつ内臓を傷つけないようにスーッと毛皮を切り開き、皮に接着した筋を直刀で切りながら肉と皮をバラし最後に筋肉を割いて魔石を取り出す。

「手慣れてるわね……」

「そうでもないよ。鎧狼8匹で練習したし、たまにだけど魚とか捌いてるから慣れだよ慣れ」

「そう言う物かしら……」



しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

元・異世界一般人(Lv.1)、現代にて全ステータスカンストで転生したので、好き放題やらせていただきます

夏見ナイ
ファンタジー
剣と魔法の異世界で、何の才能もなくモンスターに殺された青年エルヴィン。死の間際に抱いたのは、無力感と後悔。「もし違う人生だったら――」その願いが通じたのか、彼は現代日本の大富豪の息子・神崎蓮(16)として転生を果たす。しかも、前世の記憶と共に授かったのは、容姿端麗、頭脳明晰、運動万能……ありとあらゆる才能がカンストした【全ステータスMAX】のチート能力だった! 超名門・帝聖学園に入学した蓮は、学業、スポーツ、果ては株や起業まで、その完璧すぎる才能で周囲を圧倒し、美少女たちの注目も一身に集めていく。 前世でLv.1だった男が、現代社会を舞台に繰り広げる、痛快無双サクセスストーリー! 今度こそ、最高に「好き放題」な人生を掴み取る!

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

処理中です...