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第22話装飾師の少女

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 昔の俺なら、うるしでも塗って黒く染めて置けば、高級感を感じられるからそれでいいと思っていたのだが、装職人の幼馴染が俺の刀を装飾したところ、俺の見立てで金貨100枚と言った所の平凡な出来の刀が、倍額の金貨200枚で売れた。それ以来俺は剣を作った時には彼女・・に装飾を依頼している。

 無理やり一日で濶剣ブロードソード一振りを仕上げ、公衆浴場で汗を流し、その足で彼女の経営する工房へ足を運んでいた。

 煉瓦造りの立派な店の木戸ドアを開ける店内に入る。カランカランと木戸鈴ドアベルが鳴り響き、店員に客が入った事を知らせる。
 店内は温かみを感じる化粧板で覆われており、所々見える煉瓦がお洒落に見える。

「はいはい! すいません。まだウチのお店営業してないんですよー」

 大声でそんな事を言いながら、ドタドタと言う足音を鳴らして出て来たのは、腐れ縁の幼馴染アルタ・アルジェントだ。

「やぁアルタ。以前君自身が『都市に店を出したから暇な時に来なよ?』って手紙を出してくれたから店に来たと言うのに、まだ開店すらしていないってどういう事なんだよ?」

 彼女アルタの実家アルジェント家は宝石や金属細工の店をやっており、彼女は修行の一環として刀を打つための修行をしていた都市で暮らししていた。その時に年齢が近い事もあって良く野山を駆け回ったのだ。

 アルタはボサボサの白金色プラチナブロンドの色素の薄い長髪を靡かせ、半開きの眠そうな眼を擦り階段から降りて来た。
 黒を基調としたドレス姿で胸元と手には、大粒の紅玉ルビーがあしらわれた金属細工を付けている。

コイツ、商談から帰って来てそのまま寝やがったな……

 昔からズボラな部分は多いが宝石と細工それに服飾の腕だけは良く、今学園に着ていくコートを縫ってくれたのも彼女だ。デザインだけうろ覚えのトレンチコートの絵を描き、それを彼女が修正してくれたモノを使った。

「って、なんだアーノルドかぁああ、お客さんかと思ってびっくりしちゃった。で、今日は何のよう? 昨日遅くまで仕事をしていたから寝不足なんだけど……」

 アルタの視線が手に持っている濶剣ブロードソードに移った事に気が付いた。

「アーノルドが濶剣ブロードソードを打つなんって珍しい。君の極東かぶれと言うアイデンティティはどうしたんだい?」

 アルタの無自覚に失礼な言動で安心感を覚える。

「依頼があったから打ったまでの事だ」

 そっけなく答える。これ以上追求してほしくないからだ。

「アーノルドが依頼を受けるなんて珍しい。私でさえ一振り打ってもらうのに数か月かかったっていうに……」

 拗ねるな。第一お前の剣の腕はミナにも劣るレベルだ。付与魔術で剣の重さを極限まで軽減して、ようやく戦える程度の腕力で剣を強請るな! 

「お前が強請るから折角打ってやった。双頭の白鷲アルバス・アルバなんて、パーティーや夜会で腰に佩刀はいとうするだけの儀礼剣としてしか使っていないじゃないか!」

「まぁまぁそう怒るなよ。見たまえよこの美しい装飾を!」

 そう言って胸の前で手の甲を俺に見せながら、親指を中心に交差させて双頭の鳥を表現する。

「――――双頭の白鷲アルバス・アルバと言う名に負けず。我が故郷の霊獣である双頭の鷲の御名を冠した剣としても、実に立派なモノだと胸を張って自慢できる一品だ。双頭の白鷲アルバス・アルバのお陰で色んな仕事も来るしね剣さまさまだよ」

 鞘には双頭の鷲の意匠があしらわれており、シンプルながらも底の深い美しさを感じる。
 地球にも双頭の鷲の意匠があり、古くは紀元前の古代では、天空神エンリルの随獣である巨大鳥あるいは、獅子の頭を持った鷲として描かれるアンズー(ズー)やグリフォン。
 鳥の羽を持った農耕、狩猟、戦争を司る大麦の主ニヌルタ神を起源としていると言われており、またローマ帝国でも双頭の鷲の紋章は用いられており、東西に分裂した後も西ローマ帝国を継承し、神聖ローマ帝国の皇帝を務めた。ハプスブルクの紋章としても知られている。現在でもヨーロッパ各地で用いられているポピュラーな意匠だ。

「んで、鍛冶嫌いの君が久しぶりに短刀以外を打ったんだ。立派なこしらえにしてあげよう。相手は女かい? 男かい?」

 とからかうような口調で聞いてくる。

「同級生の女だ。キャラを作っていることがバレてなその口留めだ……」

「そりゃぁいい。傑作だ。私も久しぶりに人間の尊厳をかなぐり捨てて職人マイスターとして仕事に当たろう! そうだ銘を聞いていなかった」

紅椿あかつばきだ。付与は風と炎を基本にしている」

「赤椿《あかつばき》ねぇ……いいじゃないか! どんなか想像が付いた。今日は店開けずに仕事に取り掛かるとしよう! さ、君は帰った帰った!」

「おい、押すなよ!」

「アーノルド。君寝てないだろう? 目の下に隈がある」

「それはそうだが……」

「それに寝起きの乙女をじっと観察するな! 完成したら屋敷に持っていくからそれまでは絶対に来るんじゃないぞ!」

 強い口調でアルタに押され店から追い出された俺は一人物思いに耽るのだった。

「胸相変わらず育ってないな……」

 背中に触れたアルタの胸は慎ましやかだったのだ。



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