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第39話クズな三連星5 緑の二等星下
しおりを挟む日本の刀とは違い。
サーベルは片手で扱う事を基本とし、本来は歩兵が近接装備として用いる事はなく、曲刀型を軽騎兵が、直刀型を重騎兵が用い。フランス皇帝ナポレオンの時代になると、ピストル騎兵や、槍騎兵のサブウエポンとして装備され第一世界大戦以降は、将校や士官の階級を表すシンボルとなった。
この世界でもサーベル使いは少なく、俺の刀もサーベルの一種と間違えられる事がよくある。
構えとしては他の西洋剣術と同じく、防御魔術を左手に展開し疑似的な盾として、戦うタイプなのだろう。
左手を前に突き出して、足を前後に開き、腰を落として変則的な八相の構えを取っている。
「始め!」
号令で試合が始まる。
床を踏み締めて突撃してくる。
ギリギリ【瞬歩】を使える。と、言った所か先ほどまでのレベルだと、【瞬歩】と気が付いた時点で動かなければ対応する事は出来なかったが、この程度なら魔術で対応できるレベルだ。
「空気弾」
俺が魔術を使用すると、ヘルベルトはニタリと不敵な笑みを湛えてサーベルを振う。
ザシュ!
剣を袈裟斬りに振うと、不可視のハズの空気弾は見事に斬られ、爆発すると突風を生み出し消失する。
(【斬魔】が出来るのか……随分と技術があるようだ)
【斬魔】とは、読んで字の如く斬撃によって魔術を存在させている。術式の核を破壊する事により魔術を無効化させる高等技術であり、通称「魔術師殺し」とも呼ばれる技術だ。 剣圧か魔力で表層の魔力を剥がし、事象を改変の中核である核を破壊する必要があるため、当てずっぽうでは不可能な高等技術なのだ。
恐らくは足りない能力を、魔術で補い【斬魔】を再現しているだけだろうが、アレを使われれば並大抵の防御魔術は著しく弱体化してしまう。
ならば、相手の斬撃を防御魔術で受け止めなければいいだけの話。
俺は冒険者としての活動や、アルタの付き添いで旅をしていた時に生きるか死ぬかをしているので、人に向けて刃物を向けて斬る事が出来る。
だが一般生徒はどうだろうか?
学生の多くが騎士団などに配属された時には、新人病と呼ばれる現代で言う心的外傷後ストレス障害の症状が現れると兄達が言っていた。
モンスターや罪人とは言え、人を、命を奪うのだ。気分が悪くなるものも多いだろう。
このサーベル使いが卑怯なところは、そう言った不安や戸惑いを慣れていない生徒に向けて、上位クラスを維持している所だ。
集中力を乱したりする程度なら問題はないだろう。だが相手の魂とも言える魔杖剣や、防御無視の攻撃をチラつかせた駆け引きは流石に卑怯すぎる。
「ビビったかぁ? まぁ泣いても許さねぇケドなぁああああああっ!」
相手の袈裟斬りに合わせて、居合からの逆袈裟斬りをして相手のサーベルを弾くし態勢を崩すと、左足の裏で体重と魔力の乗った喧嘩キックをお見舞いする。
「ぐはっ!」
案の定。攻撃を受けそうなときに、体表を鎧のように覆っている魔力を動かし防御する。と言う応用技を真面に使えない奴が、【斬魔】と言う高等技術を使えるとは思えない。
体重と魔力の乗った喧嘩キックを真面に食らった結果。数メートル程度。蹴り飛ばされるも、意識は失わなかったようだ。
「納刀状態からの一撃がここまで早いとは……それに本来の魔杖剣を用いていない状態でこの強さ……完全に計算を見誤りました。私程度の実力ではコレが限界ですか……口惜しいですが、ダリルのために魔力ぐらいは削っておきましょう」
そう言うと火矢を連射してくる。
同系統の火球と比べ、熱量は劣るものの発射速度と安定に優れけん制用として非常に一般的な攻撃魔術だ。
「さぁ! 防御魔術や反属性魔術を使って魔力を失ってください!」
相手の狙いが分かっているのだ。素直に乗ってやる必要性は微塵もない。
俺は全身の魔力を滾らせて、右腕に集中させる。
魔力が渦を巻き。腕の延長線上にある刀に魔力を纏わせる。
俺の薄い魔力では、兄たちのように魔術を斬る事は出来ない。
刀身が光輝き、魔力干渉光が漏れ出て鱗粉のように周囲を舞う。
床の化粧板を強く踏み締めると、全速力でヘルベルトと迫る。
文字通り矢となって降り注ぐ火矢を、魔力の籠った斬撃と、斬撃により生じる剣圧で、迎撃しながら接近する。
「く、来るなぁぁぁぁぁあああ!」
大きめの火球が放たれるが、その程度問題ない。
「【斬魔】」
火球《ファイアーボール》を斬ると爆発し、内部の熱が熱波となり放出される。
熱い。
「ひっひぃいいいいいいいっ!」
魔力の籠った横なぎの斬撃によって、相手の防御魔術は削り切られる。
こうして俺の四戦目はあっけなく勝利に終わった。
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