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第42話クズな三連星8 赤の一等星下
しおりを挟む轟音が鳴り響き、衝撃波が出鱈目にまき散らされる。
両者の足元の床石は砕け脚先は、衝撃で埋まっている。
柄を持った両の手は衝撃でビリビリと痛むが、俺は決して足を浮かすことなく全力で押し込んだ。
「はぁぁぁあああああああああああああああああっ――――!」
俺は両手剣の袈裟斬りを打ち上げ、無防備になったところへ止めの一撃を食らわせる。
ただの鋭い袈裟斬り。
息をつかせぬほどの間で返す。その二刀目が、相手の防御魔術を激しく削る。
命中を確認する事もせず、俺は軽く魔力を込めて地面を蹴り前方へ距離を詰めながら、魔力を用いた剣術――――魔刀術を使い攻撃を叩きこむ。
魔力を込めた事による、異常な速度から放たれる連撃によって、相手の防御魔術を削り切り俺の勝利となったものの。
手の内をかなり明かしてしまった。
カンの良いやつなら俺が魔術を用いる遠距離型ではなく、魔術も剣技も高いレベルで使える。万能型とバレてしまったハズだ。年に一度行われる大会までは、隠しておきたかったが仕方ない。
こうして俺は誰が仕組んだのか分からない。嫌がらせを引き分けで決着をつけるハメになった。
「勝者。アーノルド・フォン・クローリー! 五戦全勝を成し遂げました。皆さま惜しみない拍手を!」
審判がそう宣言すると、俺に賭けていた奴以外が握っていた。木片が投げられ、カラカラと言う音が鳴る。
小遣いを使い過ぎたのか、借金までして賭けたのかは知らないが、絶望した顔をしている者も居る。まぁ俺のオッズは低いので、安定志向の奴らはソコソコ稼げたことだろう。
自分が勝つと分かっていても、賭ける事が出来ないのは大分痛手だ。
八百長を禁止するために、自分の試合には賭ける事が出来ないようになっているので俺の儲けはゼロだ。
耳を澄ませてみると、罵声や怒声そして俺の剣技を見て、漏らした感嘆の声をが聞こえる。
「あろうことか……祈ってしまったっ…!」
「なんだよ! 最後の魔力量!」
「金返せよ! 三連星!」
「あいつの剣術はあの曲刀を使い抜剣を用いた物じゃなかったのか?」
「曲刀で試して見るか……」
「クローリー家って鍛冶師もしてたよな?」
「もしかして……注文さえすれば、アーノルドのあの剣も買えるのか?」
「お前! ……天才か?」
……そんな声を聞きながら俺は控室に戻るために、通路を通る。
「お疲れ」
ミナが、革製の水筒を投げ渡して来る。
両手で抱えるようにキャッチすると、フタを取って口を付ける。ただの水だが、戦いで火照った躰に沁みる。
美味い。
「ありがと」
俺がそう言うと、ミナは長い長髪を撫でるようにして靡かせ。
「別にコレぐらい大したことじゃないわよ……それとあなたのお陰で儲ける事が出来たわ。これで支払いが問題なく出来そうだわ」
と、照れ隠しをしながら言った。
「そりゃよかった。今夜一緒にディナーでもどう? 前にご飯誘った時。体調悪そうだったからさ、今回どう? 二人とも昇級戦を無事過ごせたんだし、少しぐらいご褒美があってもいいと思わない?」
出来るだけ軽薄そうに、断りやすいような口調でディナーを誘う。まぁ断られたら断られただ。
「いいの? 家族とか来てるものだと思ってたけど……」
現代でこの昇級戦に近いモノは、定期試験や期末試験と言ったものだ。実力主義を掲げるこの国では、例え貴族であっても、家格よりも能力を尊ぶ。それ故、所領が近かったり、母親や親族がこの時期になるとこの町に来ている……という事は珍しくもない。
まぁ領地が遠かったり、子爵以下の家だと金銭的に難しかったりするので、友人と飯に行く事が多いと聞いている。
俺みたいに、領地も遠く、勝手当然で、オマケに友達もロクにいないような奴には関係のない話だが……
「ないない。クローリー家は勝って当たり前と言う考えなんだよ。負けていいのは練習と格上だけ、だから学生レベルだと常勝不敗《じょうしょうふはい》で当たり前って考えなんだよ」
まぁ妹は喜んでくれるだろうけど……
「聞いていた通り、凄い自信を持っているのね……」
「そうだからさ、一緒にご飯行かない?」
「別にいいわよ。でも汗かいちゃったから着替えてからが良いんだけど……」
女の子としては、相手が恋愛対象でも何でもない俺でも、身だしなみには気を使いたいって事か……
「丁度良かった。今から少し用事があるんだ、用が終わったら迎えに行くからそれまで少し待って」
こうして俺と、ミナは一時別れた。
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