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第45話ディナー下
しおりを挟む「勘違いするなよ? 確かに俺達クローリー家は鍛冶師としての鍛錬を積むためテーブルマナーを始めとした。貴族的な常識にはやや疎いが、これは半島式の正式なマナーの一つだ。国によってはスプーンを使わず椀に口を付けて飲むことがマナーの国もあるんだぞ?」
俺は前世の日本を懐かしみながらマナーについて説明する。
「そうなの? でもお皿に口を付けて飲むなんて犬猫じゃないんだから……」
ミナは引き気味だが、文化や宗教と言うのは時代の必要に生み出された発明品だ。ヨーロッパ風の異世界人には理解されない習慣なのが悲しい。
互いにそんな軽口を叩きながらも互いに険悪になる事無く食事を楽しむ。
次に出されたのはムール貝とエビの酒蒸しで、魚介が好物である俺は喜んで頬張る。
「貝の旨味がたまらん。美味い!」
本音を言えばカルパッチョなどの生魚を食べたいのだが、港町でないこの町では一般的ではない。
エビとムール貝を肴に酒を飲む。
「アーノルド君って本当に食べる事が好きなのね。私は魚介の臭みが苦手で……」
「ああもちろん。食とは文化であり、生活の水準を知るのに良い物差しになるからな。魚は適切に処理しないと臭みが強くなる。港町で新鮮な魚介を食べてみると良い美味いぞ」
「そう言う事ね……」
口直しのソルベ。とは言っても甘味は殆どなく、魚の生臭さを洗い流す目的のため柑橘系など、酸味の強いモノが多く今回は、青リンゴのシャーベットだった。
「酸っぱいけど口直しには丁度いいわね」
――――とミナには好評だが俺にとっては酸っぱすぎる。シャーベットは甘くないと………
口内をさっぱりさせた後に出て来るのは、肉料理……アントレだ。料理全体のメインと言っていい品であり最も期待するものだ。
料理を待つ間。ワインを片手に雑談に花を咲かせる。
「授業免除のための試験も実技・座学ともに問題なかったから、冬季休暇後まで授業に出なくていいから楽でいい」
「ホント。クローリー家って優秀なのね」
「当然だろう? 現代魔術師の基礎はクローリー家が作ったんだ。魔術の教本はメイザース家を始めとした。旧派閥の息のかかった宮廷魔術師が監修しているが、剣技やそれを魔術に応用する分野は全て現主流派であるウチとその派閥で牛耳っているのだ。幼少期からその内容を叩きこまれているから、今更勉強する部分は少ないんだよ。それはメイザース家もそうだろう?」
「その通りだけど……」
「所詮教育って言うのは、家庭環境によって下駄を履かせる事が出来るものだ。学園に平民の生徒もいるが奴らは俺達にはほぼ叶わない。何故なら基礎が出来ていないからだ。学ぶ機会があれば成り上がる可能性があるだけ完全に世襲よりはマシか……」
「そうかもね」
他愛のない談笑を楽しんでいるとそこへ、給仕が肉料理を持ってきた。見た目からもわかる程柔らかそうな子牛の肉だ。外側の焼き色と中心部は美しいロゼ色のコントラストが美しい。レアの焼き加減で肉汁が溢れ出しているのが分かる。赤ワインベースのステーキソースの香りが食欲をそそる。
肉質も柔らかく、濃いめのソースで少し飽きを感じるが、この世界で一番マシな料理はフランス風料理なので、正直に言えば他に選択肢がないだけだ。
サラダ、チーズと来て次に出されるのは、お菓子だ。アイスクリームが提供され、その次が果実、最後に濃いコーヒーと焼き菓子で〆になる。
提供されたコーヒーカップは、ハムスターのお風呂サイズだった。ハム〇郎がどっぷり浸かり縁に腕を掛けて、オッサンのように「ふぅう~」っと声にならない声を上げる。そんなドリンクバーの白いカップサイズを想像されるかもしれないが、エスプレッソサイズのためあの鼠ならギチギチサイズである。
出されるのがエスプレッソコーヒーと知っていれば、倍量でと言伝をすればよかった。
通常のコーヒーに比べ豆の旨味だけを最大限抽出した味なので、エグ味や雑味と言った余分な味は少なく、豆の持つ味、苦味やフルーティーな香り、酸味と言った味を楽しめる。カフェインも少ないのでディナーで頂いても夜寝られなくなる心配は少ないのも高評価だ。
「焼き菓子も品のある味わいでコーヒーによく合うな」
「私香りは好きなんだけど飲むときには、ミルクや砂糖を入れないと飲めないのよ……」
子供舌め。
「甘いお菓子と一緒に食べれば紛れると思うよ」
こうして俺達の打ち上げは終わった。
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