悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活（スローライフ）を始めたかった。

第51EXハンバーグを作ろう下

【視点変更】



「そうですな……」

　店長は確かにその通り、匂いと食感を確かめるにはシンプルに塩。そう思って先ずは一口食べるために端の方を、銀のナイフとフォークでハンバーグを切る。
　表面は炭火で焼き固められ、やや硬いものの。それはハンバーグが自らの油で、揚げ焼きに近い状態になっているからであり、決して嫌な印象は受けない。
　ナイフの刃が入ると驚くほどスルスルと刃が入り、ハンバーグは切断される。するとジュワリと肉汁が溢れだす。
　
（普通の牛肉では先ずあり得ない量の肉汁だ。ここまで溢れるのなら牛脂を仕込む必要はなかったのではないか？）

　店長はそう思いながらも……食のセンスのあるアーノルドの知識を信じた。

「……」

　一口。口に入れれば、炭火で焼き固められた表面はカリっとした食感と炭の香りが『ふわり』と香り、牛、豚の肉々しい噛み応えと、適度な柔らかさのお陰で、上等な差しの入ったステーキを食べているような錯覚を感じさせる。

（確かに、豚と内臓が入る事で若干の臭みが出るだが、牛脂を入れる事で油の香りでそれを軽減しているのか……）

「どうだ？」

　アーノルドはニヤニヤとチェシャ猫のように笑う。
　
「確かにこれならばコストを抑える事が出来る。より安価に牛肉を提供する事ができます！」

　店長は大喜びと言った所だろう。

「気に入ってくれたのならいい。存分に名声を高めクローリー家の名を広めてくれればいいさ」

　なんと太っ腹な人だろう……この調理法だけでも大儲けできる可能性があると言うに……その権利をあっさりと他人に提供するなんて……

「まぁ赤ワインか炭酸の良く効いたビールでも飲んでみろ。肉の油分を綺麗に洗い流してくれて、次の一口をより新鮮な気持ちで食べる事が出来るぞ」

　アーノルド様はそう言うと注文していた。琥珀色のビールをゴクゴクと喉を鳴らして楽しんでいる。　
　最近出た味ではなく、『喉ごしを楽しむ』と言う一風変わったコンセプトのビールで「冷やして飲むことをお勧めする。」と、贔屓にしている行商人が言っていた事を思い出した。
　産地は確か……あぁそう言えばクローリー家の領地だったなと思い納得する。
　言われた通り自分でも試して見る。
　先ずはビールだ。
　一口大に切り分けた。ハンバーグを口に運び、咀嚼そしゃくしている間に木製のジョッキに注いだビールを煽る。

「あっ――――んっ！　んっ、んっ、んっ、んっ、んっ！！　かぁぁぁ――――っ！！」

（美味い！　美味すぎる！）
　
　喉を大きくかっ開いて、喉で味わう炭酸の刺激……辛味と苦味の中に感じる旨味と爽やかな麦芽の香りが、牛の脂と旨味をスッキリと洗い流し、また次の一口を求めさせている。
　これは酒が売れる！　店長は肉の専門家で、商人としては二流だが……この組み合わせが売れる事だけは直観的に本能が理解した。

「キャベツなど葉物はもの野菜の酢漬けも、口内をサッパリとさせる事は出来るが、好みが分かれるのと新しく仕入れる事が難しいからな……ビールや赤ワインの方が合うだろう……」

「確かに……ピクルスにもあいそうですね……」

「ソースと一緒に煮込んで煮込みハンバーグ、チーズを入れてチーズハンバーグにしても美味いから、安価なセットのメインを張るには十分だろう」
　
　経緯はともかくこうして焼き肉屋には、ハンバーグがメニューとして追加され、今までよりも所得の低い町人から冒険者までが入れる店になり繁盛する事になる。