悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗

文字の大きさ
58 / 71

第57話入浴

しおりを挟む



 白亜の大理石がき詰められた風呂場は、流石クローリー家と言えるほどに、立派であり温泉が引き込まれている。
 卵の腐くさったような硫黄の匂いはしない。
 クローリー家の家の者は特別な事情がない限り、この湯を産湯にして産まれてくる。

 この世界にシャワーは発明されていないので、おけでお湯をすくって体に掛けて泡や汚れを流すしかないのだ。そんなに難しい訳でもないから、今度アルタに作ってもらう……

 そんな事を考えながら、風呂に木製のおけを突っ込んで湯をむ。
 石鹸せっけんを湯で泡立てて、先ずは髪から洗う。
 長旅のせいで、髪は脂だらけで絡まっていてオマケに、石鹸せっけんが泡立ちにくい。

「お手伝いします……」

 そう言って現れたのは、先ほどのメイドの一人だった。
 服装は最低限度で、下着程度しか身に着けていない。

「何で入って来てるんだ!」

 俺は声を荒げる。

「アーノルド様は側仕えのメイドを置いておりませんので、入浴の際には介助がいると思いまして……」

 なるど……確かにこの世界の貴人の多くは、服さえ一人で着れない人もいると聞いたことはあるが、武の一族であるクローリー家にそこまで甘えた者は居ない。

「確かに背中ぐらいは洗って欲しい気持ちはあるが……俺は異性に裸を見られる事は恥ずかしいし、君だって自分の裸を俺……異性に見せたくはないだろう?」

「確かに親しい……意中や家族以外に肌を見せたくないと思う女性は多いと思いますが、私達はクローリー家に剣を捧げておりますので、稽古の際には肌を露出する事もありますし、行軍の際も同じです。女性だからと言って特別扱いは求めておりません」

 やはりクローリー家の門弟やそれに類する立場だったか……

「そうなんだ。でも俺が恥ずかしいからさ……」

 できれば、帰っていただきたいところだがまぁ難しいか……

「しかし、私にも立場と言う物がありまして……ご当主様に怒られてしまいます」

「口裏を合わせる……って言ってもあの『魔女』の事だから無駄か……妥協案として髪と背中だけ洗ってくれないか?」

 身体を洗えと言う叔母上の命令を遂行しつつ、俺の極力カラダを洗われたくない。と言う要求を折中した状態だがまだマシだ。

「では、そういたしましょう。では御髪おぐしを洗わせて頂きます」

 石鹸を手に取ると桶の中で溶かし液状石鹼を作り出すと、俺の黒髪に塗布し泡立て始めた。
 
「旅の汚れが多いようですね……」

 ワシワシと手を広げ、マッサージでもするように髪と頭皮を洗ってくれる。

「この時期に水浴びは出来ないからね……学園のある方は雪が積もるんだ」

「雪ですか……クローリー家の領地でも山岳部などでは雪が降りますが、この領都りょうとである城郭じょうかく都市ザウストブルク付近では、雪が降る事は稀ですから私には縁遠い世界です……御髪にお湯をかけますので、目を瞑ってください」 

 ザー。ザーっと桶一杯の熱湯を頭からかけられて石鹸を洗い流す。

「私には縁遠い世界です。御髪の水を切ります」

 そう言って髪の毛の水分を軽く拭ってくれる。

「そうでもないと思うよ……」

「え?」

「叔母上は他人をからかうのがお好きな性悪だけど、無駄な事は嫌いな女性ヒトだ。多分だけどミーネルか、俺の妹のアトナのメイド兼護衛にでもしたいんじゃないかな?」

 ミーネルと言うのは、続柄的には俺の父の父の父――――曾祖父の娘なのだが、俺の妹であるアトナと同い年をしている。
 理由は単純で後妻の娘で、孫の中で一番可愛がった父の息子……俺を見て張り切ったらしい。上の兄達が少し可哀そうではある。

 そのため大叔母は一族内でも扱いが難しく、叔父上達も、お爺様たちも扱いに苦慮しており、歳で短気になった曾祖父の面倒ごと、全てを叔母上が言いつけられているのだ。
 来年入学となる娘か、ひ孫の面倒を叔母上孫娘に頼んだのだろう。
 叔母上の「げぇ」っとでも言いたげな「面倒ごとに巻き込まないで下さい」とでも言いそうな顔が目に浮かぶ。
 俺の面倒を見るように言いつけたのは、困っている俺の顔を見て楽しむ事と、どれだけ言われたことを素直にこなせるのか? と言う試験を兼ねているのだろう……全く叔母上にも困ったものだ。



しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

元・異世界一般人(Lv.1)、現代にて全ステータスカンストで転生したので、好き放題やらせていただきます

夏見ナイ
ファンタジー
剣と魔法の異世界で、何の才能もなくモンスターに殺された青年エルヴィン。死の間際に抱いたのは、無力感と後悔。「もし違う人生だったら――」その願いが通じたのか、彼は現代日本の大富豪の息子・神崎蓮(16)として転生を果たす。しかも、前世の記憶と共に授かったのは、容姿端麗、頭脳明晰、運動万能……ありとあらゆる才能がカンストした【全ステータスMAX】のチート能力だった! 超名門・帝聖学園に入学した蓮は、学業、スポーツ、果ては株や起業まで、その完璧すぎる才能で周囲を圧倒し、美少女たちの注目も一身に集めていく。 前世でLv.1だった男が、現代社会を舞台に繰り広げる、痛快無双サクセスストーリー! 今度こそ、最高に「好き放題」な人生を掴み取る!

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

処理中です...