6 / 111
第6話:守るということは攻撃を代わりに受けることではない
しおりを挟む
王都の城壁を出ると、そこには見飽きた街道の風景が広がっていた。 轍(わだち)の刻まれた土の道。まばらな雑木林。 どこにでもある、平和で退屈な光景だ。
だが、隣を歩くリリにとっては、そうではないらしい。
「……木が、倒れてきません」
彼女は道の脇に生える古木を見上げ、ポツリと呟いた。
「足元の地面が陥没しません。空から魔物の群れが降ってきません」
「お前の中で、外出ってのはダンジョン攻略と同義なのか?」
俺が呆れて聞くと、リリは真剣な顔でうなずいた。
「はい。一歩外に出れば、そこは戦場でしたから。……でも、今は」
リリは俺の背中を見つめ、熱っぽい瞳を向けてくる。
「ジン様が近くにいるだけで、世界がすごく静かです。風の音も、鳥の声も、今まで聞こえなかった音が聞こえます」
「そりゃどうも。俺は高性能な避雷針らしいな」
俺は肩をすくめた。 実際には、俺が彼女の不運を吸い続けているだけだが、彼女にとっては救世主に見えているのだろう。 その信仰心は利用できるが、あまり重すぎると胃がもたれそうだ。
「さて、まずは手頃な獲物を狩って金にするか。薬草採取でもいいが、効率が悪い」
俺たちが目指しているのは、街道から少し外れた森だ。 そこなら低ランクの魔物が出る。リリの実力をテストするには丁度良い。
――と、思った矢先だった。
「おいおい、待ちなよ兄ちゃん」
街道の茂みから、ガサガサと男たちが現れた。 革鎧に薄汚れた剣。見るからに質の悪い、典型的な野盗たちだ。 数は5人。 ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべ、俺たちを取り囲む。
「王都を出てすぐの場所でピクニックか? 随分と余裕だなあ」
「へへっ、しかも連れは上玉じゃねえか。そのボロボロの服がまたそそるぜ」
リーダー格らしい男が、剣を肩に担いで前に出る。
「命が惜しけりゃ、持ち物全部置いて失せな。姉ちゃんの方は……まあ、少し遊ばせてもらうがな」
ベタだ。 あまりにもベタすぎて、あくびが出そうになる。 教科書に出てくる『三流の悪党』そのままだ。
「……おい、リリ」
俺は隣の少女に声をかけた。
「どうする? 金はないし、置いていく荷物もないぞ」
俺がそう言った瞬間だった。
ザッ。 リリが、無言で俺の前に出た。
その背中からは、先ほどまでの「忠犬」のような雰囲気は消え失せていた。 代わりに漂うのは、氷のような冷気。 そして、触れれば切れるような鋭利な殺気だ。
「……ジン様」
リリの声は、地を這うように低かった。
「下がっていてください。……汚れますから」
「あ?」
盗賊たちが顔を見合わせる。
「なんだこの嬢ちゃん、震えて……ん?」
男の一人が、リリの異変に気づいた。 彼女は震えてなどいない。ただ、構えているだけだ。 武器など持っていない。素手だ。 だが、その立ち姿には一切の隙がない。
「私の命は、ジン様が救ってくださったものです」
リリは地面に落ちていた手頃な石を拾い上げると、それを握りしめた。ただの石ころが、彼女の手の中にあるだけで凶器に見える。
「この命も、体も、心臓も。すべてはジン様のためにある」
彼女はゆっくりと顔を上げた。その赤い瞳は、濁った血のような色で盗賊たちを射抜いていた。 そこに慈悲や躊躇いはない。あるのは「排除」の意志だけだ。
「――ジン様に指一本触れさせない。その汚い視線を向けたことを、地獄で後悔させてあげる」
ゾクリ、と。場の空気が凍りついた。 盗賊たちの顔からニヤけ面が消え、本能的な恐怖が走る。
(……ほう)
俺は後ろで腕を組み、口元を歪めた。
これは拾い物だ。ただの「不運な少女」かと思っていたが、どうやら彼女の本質は、俺の想像以上に「壊れて」いるらしい。
「いいぜ、リリ」
俺は許可を出した。
「掃除の時間だ。――ただし、殺すなよ? 後始末が面倒だからな」
リリが小さく頷く。 その瞬間、彼女の姿がブレて消えた。
だが、隣を歩くリリにとっては、そうではないらしい。
「……木が、倒れてきません」
彼女は道の脇に生える古木を見上げ、ポツリと呟いた。
「足元の地面が陥没しません。空から魔物の群れが降ってきません」
「お前の中で、外出ってのはダンジョン攻略と同義なのか?」
俺が呆れて聞くと、リリは真剣な顔でうなずいた。
「はい。一歩外に出れば、そこは戦場でしたから。……でも、今は」
リリは俺の背中を見つめ、熱っぽい瞳を向けてくる。
「ジン様が近くにいるだけで、世界がすごく静かです。風の音も、鳥の声も、今まで聞こえなかった音が聞こえます」
「そりゃどうも。俺は高性能な避雷針らしいな」
俺は肩をすくめた。 実際には、俺が彼女の不運を吸い続けているだけだが、彼女にとっては救世主に見えているのだろう。 その信仰心は利用できるが、あまり重すぎると胃がもたれそうだ。
「さて、まずは手頃な獲物を狩って金にするか。薬草採取でもいいが、効率が悪い」
俺たちが目指しているのは、街道から少し外れた森だ。 そこなら低ランクの魔物が出る。リリの実力をテストするには丁度良い。
――と、思った矢先だった。
「おいおい、待ちなよ兄ちゃん」
街道の茂みから、ガサガサと男たちが現れた。 革鎧に薄汚れた剣。見るからに質の悪い、典型的な野盗たちだ。 数は5人。 ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべ、俺たちを取り囲む。
「王都を出てすぐの場所でピクニックか? 随分と余裕だなあ」
「へへっ、しかも連れは上玉じゃねえか。そのボロボロの服がまたそそるぜ」
リーダー格らしい男が、剣を肩に担いで前に出る。
「命が惜しけりゃ、持ち物全部置いて失せな。姉ちゃんの方は……まあ、少し遊ばせてもらうがな」
ベタだ。 あまりにもベタすぎて、あくびが出そうになる。 教科書に出てくる『三流の悪党』そのままだ。
「……おい、リリ」
俺は隣の少女に声をかけた。
「どうする? 金はないし、置いていく荷物もないぞ」
俺がそう言った瞬間だった。
ザッ。 リリが、無言で俺の前に出た。
その背中からは、先ほどまでの「忠犬」のような雰囲気は消え失せていた。 代わりに漂うのは、氷のような冷気。 そして、触れれば切れるような鋭利な殺気だ。
「……ジン様」
リリの声は、地を這うように低かった。
「下がっていてください。……汚れますから」
「あ?」
盗賊たちが顔を見合わせる。
「なんだこの嬢ちゃん、震えて……ん?」
男の一人が、リリの異変に気づいた。 彼女は震えてなどいない。ただ、構えているだけだ。 武器など持っていない。素手だ。 だが、その立ち姿には一切の隙がない。
「私の命は、ジン様が救ってくださったものです」
リリは地面に落ちていた手頃な石を拾い上げると、それを握りしめた。ただの石ころが、彼女の手の中にあるだけで凶器に見える。
「この命も、体も、心臓も。すべてはジン様のためにある」
彼女はゆっくりと顔を上げた。その赤い瞳は、濁った血のような色で盗賊たちを射抜いていた。 そこに慈悲や躊躇いはない。あるのは「排除」の意志だけだ。
「――ジン様に指一本触れさせない。その汚い視線を向けたことを、地獄で後悔させてあげる」
ゾクリ、と。場の空気が凍りついた。 盗賊たちの顔からニヤけ面が消え、本能的な恐怖が走る。
(……ほう)
俺は後ろで腕を組み、口元を歪めた。
これは拾い物だ。ただの「不運な少女」かと思っていたが、どうやら彼女の本質は、俺の想像以上に「壊れて」いるらしい。
「いいぜ、リリ」
俺は許可を出した。
「掃除の時間だ。――ただし、殺すなよ? 後始末が面倒だからな」
リリが小さく頷く。 その瞬間、彼女の姿がブレて消えた。
50
あなたにおすすめの小説
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
無能と呼ばれてパーティーを追放!最強に成り上がり人生最高!
本条蒼依
ファンタジー
主人公クロスは、マスターで聞いた事のない職業だが、Eランクという最低ランクの職業を得た。
そして、差別を受けた田舎を飛び出し、冒険者ギルドに所属しポーターとして生活をしていたが、
同じパーティーメンバーからも疎まれている状況で話は始まる。
器用貧乏な赤魔道士は、パーティーでの役割を果たしてないと言って追い出されるが…彼の真価を見誤ったメンバーは後にお約束の展開を迎える事になる。
アノマロカリス
ファンタジー
【赤魔道士】
それは…なりたい者が限られる不人気No. 1ジョブである。
剣を持って戦えるが、勇者に比べれば役に立たず…
盾を持ってタンクの役割も出来るが、騎士には敵わず…
攻撃魔法を使えるが、黒魔道士には敵わず…
回復魔法を使えるが、白魔道士には敵わず…
弱体魔法や強化魔法に特化していて、魔法発動が他の魔道士に比べて速いが認知されず…
そして何より、他のジョブに比べて成長が遅いという…
これは一般的な【赤魔道士】の特徴だが、冒険者テクトにはそれが当て嵌まらなかった。
剣で攻撃をすれば勇者より強く…
盾を持てばタンクより役に立ち…
攻撃魔法や回復魔法は確かに本職の者に比べれば若干威力は落ちるが…
それを補えるだけの強化魔法や弱体魔法の効果は絶大で、テクトには無詠唱が使用出来ていた。
Aランクパーティーの勇者達は、テクトの恩恵を受けていた筈なのに…
魔物を楽に倒せるのは、自分達の実力だと勘違いをし…
補助魔法を使われて強化されているのにもかかわらず、無詠唱で発動されている為に…
怪我が少ないのも自分達が強いからと勘違いをしていた。
そしてそんな自信過剰な勇者達は、テクトを役立たずと言って追い出すのだが…
テクトは他のパーティーでも、同じ様に追い出された経験があるので…
追放に対しては食い下がる様な真似はしなかった。
そしてテクトが抜けた勇者パーティーは、敗走を余儀無くされて落ち目を見る事になるのだが…
果たして、勇者パーティーはテクトが大きな存在だったという事に気付くのはいつなのだろうか?
9月21日 HOTランキング2位になりました。
皆様、応援有り難う御座います!
同日、夜21時49分…
HOTランキングで1位になりました!
感無量です、皆様有り難う御座います♪
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~
namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。
かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。
海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。
そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。
それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。
そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。
対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。
「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」
アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。
ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。
やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。
揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
婚約破棄?いいですけど私巨乳ですよ?
無色
恋愛
子爵令嬢のディーカは、衆目の中で婚約破棄を告げられる。
身分差を理由に見下されながらも、彼女は淡々と受け入れようとするが、その時ドレスが破れ、隠していた自慢のそれが解き放たれてしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる