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第7話:空から魚が降る確率
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「死ねッ!」
リリの身体能力は異常だった。 地面を蹴った次の瞬間には、既に5人の盗賊たちの懐(ふところ)へ潜り込んでいた。 速い。速すぎる。 並の人間なら、瞬きをする間に首を刈り取られているだろう。
だが――俺は軍師だ。 自分の手駒(ポーン)に、無駄なリスクは負わせない。
「――パスだ、リリ」
俺はポケットの中で、軽く指を鳴らした。
【確率操作】――不運譲渡(パス)。 対象:リリ・クラウゼル ⇒ 盗賊団A~E。 転送量:致死性(デス)クラス。
瞬間、世界が書き換わる。
「なっ、速――!?」
先頭にいたリーダー格の男が、迫りくるリリに反応し、大剣を振り上げようとした。 迎撃態勢。 リリの速度なら問題なく回避して喉を潰せるだろうが、万が一の擦り傷(カスリ)も俺は許容しない。
「うおおおおッ! 死ねぇええ!」
男は気合と共に大きく口を開け、咆哮した。 肺一杯に空気を吸い込み、筋肉を収縮させる。 その頭上、高度150メートル。
偶然、一羽の巨大な鷲(ワシ)が飛んでいた。 偶然、その鷲は獲物の巨大魚(5キログラム)を掴んでいた。 偶然、鷲はくしゃみをしたくなり――爪の力が緩んだ。
ヒュオオオオオオオッ……!
「がああああッ……!?」
ズドォォォォォンッ!!
「……が? ごぼッ!?」
凄まじい衝撃音と共に、男の咆哮が止まった。 振り上げられた大剣が、力なく地面に落ちる。
男は白目を剥き、直立不動のまま痙攣していた。 その口には――巨大な川魚が、頭から尾びれまで深々と突き刺さっていた。
「……え?」
リリが足を止め、呆然と振り返る。 周囲の盗賊たちも、攻撃の手を止めてリーダーを凝視した。
「あ、兄貴!? なんだそれ!?」
「さ、魚……!? 空から魚が!?」
「ご、ごふっ、ギョッ……!」
リーダーは魚を口にねじ込まれた衝撃で、首があらぬ方向へひん曲がっていた。 そのまま糸が切れたように後ろへ倒れる。 ドサリ。 ピクリとも動かない。 即死だった。
「ひ、ひいいいッ!?」
残りの4人がパニックに陥る。 だが、俺の指揮(タクト)はまだ振られている。
「逃げるなよ。全員分あるぞ」
俺は冷ややかに告げ、二度目の指を鳴らす。
「くそっ、なんだこの野郎! やってやる!」
一人の男が、腰の投げナイフを抜こうとした。 だが、その拍子にベルトのバックルが「偶然」弾け飛んだ。 ズリッ。 革ズボンが足首まで落ちる。 男は自分のズボンに足を取られ、派手に前へつんのめった。
そこへ、「偶然」転がっていた鋭利な石。 そして、「偶然」男が持っていた投げナイフ。
「あぶッ――」
ドスッ。 男は転倒の勢いのまま、自分のナイフの上に喉から突っ込んだ。 自滅。
「うわあああ! な、なんなんだよコイツら!」 「呪いだ! 近づくんじゃねえ!」
残った3人が背を向けて逃げ出す。 だが、逃走ルートには既に「不運」が設置されている。
一人が森へ逃げ込もうとして、枯れ木につまずく。 その衝撃で木の上にあった巨大なハチの巣が落下。 「ギャアアアア! キラービーだあ!」 全身を刺されながら川へ転落し、そのまま流されていった。
もう一人は、逃げる途中で「偶然」通りかかった野生のボア(猪)の突進ルートと重なり、正面衝突して星になった。
最後の一人は――恐怖で足がもつれ、俺の目の前で尻餅をついた。
「ひっ、ひいい……! た、助けて……!」
男は涙と鼻水を垂らしながら後ずさり。 俺はゆっくりと彼を見下ろした。
「運が悪かったな。日頃の行いが悪いからだ」
「そ、そんな……俺たちはただ、金を……」
「金? ああ、そうだな」
俺はニヤリと笑い、リリに目配せをした。
「リリ。こいつの身ぐるみ剥いで、木に縛り付けておけ。衛兵への土産にする」
「は、はい……!」
リリはまだ状況が呑み込めない様子だったが、すぐに気を取り直して男を取り押さえた。 男は抵抗する気力もなく、ガタガタと震えているだけだった。
◇
戦闘――いや、一方的な蹂躙が終わった。 俺たちは盗賊たちの懐から金目の物を回収した。 全部で銀貨20枚ほど。当面の宿代と飯代にはなるだろう。
「あの……ジン様」
リリが、不思議そうな顔で俺を見ていた。
「今の……魚とか、ハチとか……まさか、全部ジン様が?」
「言ったろ? 俺は軍師だ。戦場の全ての要素をコントロールするのが仕事だ」
俺は魚を咥えて死んでいるリーダーの死体を指差した。
「お前の中に溜まっていた『不運』を、少しばかり彼らにプレゼントしただけだ。お前の不運は致死性が高いからな。普通に暮らしている人間なら、擦っただけで即死級の事故が起きる」
「私の、不運……」
リリは自分の手を見つめた。 今まで自分を苦しめ、殺そうとしてきた呪われた力が、初めて「敵を倒す武器」になった瞬間だった。
「す、すごいです……!」
リリの瞳が輝きだした。
「私、ずっと自分が呪われているのが嫌でした。でも、ジン様がいれば、この呪いで敵を倒せるんですね! 私、役に立てるんですね!」
「ああ。お前は最強の爆弾だ。安全装置(セーフティ)は俺が握っているから、安心しろ」
俺は彼女の頭をポンと撫でた。 リリは嬉しそうに目を細め、俺の手に頭をすり付けてくる。
(……チョロいな)
俺は内心で苦笑しながら、王都の方角を見た。 金も手に入った。装備も最低限なら整えられるだろう。 次は、冒険者としての身分を確保する必要がある。
「行くぞ、リリ。ギルドへ登録だ」 「はいっ! どこまでもついて行きます!」
こうして、俺とリリの最初の戦闘は、一滴の血も流すことなく(敵は血まみれだが)、幕を閉じたのだった。
リリの身体能力は異常だった。 地面を蹴った次の瞬間には、既に5人の盗賊たちの懐(ふところ)へ潜り込んでいた。 速い。速すぎる。 並の人間なら、瞬きをする間に首を刈り取られているだろう。
だが――俺は軍師だ。 自分の手駒(ポーン)に、無駄なリスクは負わせない。
「――パスだ、リリ」
俺はポケットの中で、軽く指を鳴らした。
【確率操作】――不運譲渡(パス)。 対象:リリ・クラウゼル ⇒ 盗賊団A~E。 転送量:致死性(デス)クラス。
瞬間、世界が書き換わる。
「なっ、速――!?」
先頭にいたリーダー格の男が、迫りくるリリに反応し、大剣を振り上げようとした。 迎撃態勢。 リリの速度なら問題なく回避して喉を潰せるだろうが、万が一の擦り傷(カスリ)も俺は許容しない。
「うおおおおッ! 死ねぇええ!」
男は気合と共に大きく口を開け、咆哮した。 肺一杯に空気を吸い込み、筋肉を収縮させる。 その頭上、高度150メートル。
偶然、一羽の巨大な鷲(ワシ)が飛んでいた。 偶然、その鷲は獲物の巨大魚(5キログラム)を掴んでいた。 偶然、鷲はくしゃみをしたくなり――爪の力が緩んだ。
ヒュオオオオオオオッ……!
「がああああッ……!?」
ズドォォォォォンッ!!
「……が? ごぼッ!?」
凄まじい衝撃音と共に、男の咆哮が止まった。 振り上げられた大剣が、力なく地面に落ちる。
男は白目を剥き、直立不動のまま痙攣していた。 その口には――巨大な川魚が、頭から尾びれまで深々と突き刺さっていた。
「……え?」
リリが足を止め、呆然と振り返る。 周囲の盗賊たちも、攻撃の手を止めてリーダーを凝視した。
「あ、兄貴!? なんだそれ!?」
「さ、魚……!? 空から魚が!?」
「ご、ごふっ、ギョッ……!」
リーダーは魚を口にねじ込まれた衝撃で、首があらぬ方向へひん曲がっていた。 そのまま糸が切れたように後ろへ倒れる。 ドサリ。 ピクリとも動かない。 即死だった。
「ひ、ひいいいッ!?」
残りの4人がパニックに陥る。 だが、俺の指揮(タクト)はまだ振られている。
「逃げるなよ。全員分あるぞ」
俺は冷ややかに告げ、二度目の指を鳴らす。
「くそっ、なんだこの野郎! やってやる!」
一人の男が、腰の投げナイフを抜こうとした。 だが、その拍子にベルトのバックルが「偶然」弾け飛んだ。 ズリッ。 革ズボンが足首まで落ちる。 男は自分のズボンに足を取られ、派手に前へつんのめった。
そこへ、「偶然」転がっていた鋭利な石。 そして、「偶然」男が持っていた投げナイフ。
「あぶッ――」
ドスッ。 男は転倒の勢いのまま、自分のナイフの上に喉から突っ込んだ。 自滅。
「うわあああ! な、なんなんだよコイツら!」 「呪いだ! 近づくんじゃねえ!」
残った3人が背を向けて逃げ出す。 だが、逃走ルートには既に「不運」が設置されている。
一人が森へ逃げ込もうとして、枯れ木につまずく。 その衝撃で木の上にあった巨大なハチの巣が落下。 「ギャアアアア! キラービーだあ!」 全身を刺されながら川へ転落し、そのまま流されていった。
もう一人は、逃げる途中で「偶然」通りかかった野生のボア(猪)の突進ルートと重なり、正面衝突して星になった。
最後の一人は――恐怖で足がもつれ、俺の目の前で尻餅をついた。
「ひっ、ひいい……! た、助けて……!」
男は涙と鼻水を垂らしながら後ずさり。 俺はゆっくりと彼を見下ろした。
「運が悪かったな。日頃の行いが悪いからだ」
「そ、そんな……俺たちはただ、金を……」
「金? ああ、そうだな」
俺はニヤリと笑い、リリに目配せをした。
「リリ。こいつの身ぐるみ剥いで、木に縛り付けておけ。衛兵への土産にする」
「は、はい……!」
リリはまだ状況が呑み込めない様子だったが、すぐに気を取り直して男を取り押さえた。 男は抵抗する気力もなく、ガタガタと震えているだけだった。
◇
戦闘――いや、一方的な蹂躙が終わった。 俺たちは盗賊たちの懐から金目の物を回収した。 全部で銀貨20枚ほど。当面の宿代と飯代にはなるだろう。
「あの……ジン様」
リリが、不思議そうな顔で俺を見ていた。
「今の……魚とか、ハチとか……まさか、全部ジン様が?」
「言ったろ? 俺は軍師だ。戦場の全ての要素をコントロールするのが仕事だ」
俺は魚を咥えて死んでいるリーダーの死体を指差した。
「お前の中に溜まっていた『不運』を、少しばかり彼らにプレゼントしただけだ。お前の不運は致死性が高いからな。普通に暮らしている人間なら、擦っただけで即死級の事故が起きる」
「私の、不運……」
リリは自分の手を見つめた。 今まで自分を苦しめ、殺そうとしてきた呪われた力が、初めて「敵を倒す武器」になった瞬間だった。
「す、すごいです……!」
リリの瞳が輝きだした。
「私、ずっと自分が呪われているのが嫌でした。でも、ジン様がいれば、この呪いで敵を倒せるんですね! 私、役に立てるんですね!」
「ああ。お前は最強の爆弾だ。安全装置(セーフティ)は俺が握っているから、安心しろ」
俺は彼女の頭をポンと撫でた。 リリは嬉しそうに目を細め、俺の手に頭をすり付けてくる。
(……チョロいな)
俺は内心で苦笑しながら、王都の方角を見た。 金も手に入った。装備も最低限なら整えられるだろう。 次は、冒険者としての身分を確保する必要がある。
「行くぞ、リリ。ギルドへ登録だ」 「はいっ! どこまでもついて行きます!」
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