歩く災害と呼ばれた【薄幸の美少女】を救ったら、俺にしか懐かない最強の守護者になった件。~運を下げるスキルで追放されたけど、彼女と一緒なら無敵

ジョウジ

文字の大きさ
15 / 111

第15話:勇者の命令と、軍師の拒絶

しおりを挟む
 中ボス戦の広間を抜け、俺たちはさらに奥へと続く回廊を進んでいた。石畳の床はひび割れ、空気は澱み、どこからか湿った風が吹き抜けてくる。この先は最深部。ダンジョンの主(ボス)が待つ玉座の間へと続く道だ。

「……不愉快ですね」

 隣を歩くリリが、珍しく眉間にシワを寄せていた。彼女は何度も後ろを振り返り、露骨に嫌そうな顔をしている。

「まだついてきています、あの人たち」 

「だろうな。あのまま引き返すほど殊勝な連中じゃない」

 俺は嘆息した。アルスという男は、典型的な「諦めの悪い」人間だ。それは勇者としての美徳でもあるが、こと人間関係においては最悪の欠点となる。自分が「正しい」と信じて疑わない彼は、他人が自分に従わない現実を直視できないのだ。

「おーい! 待て! 待てと言ってるだろ!」

 背後から、怒鳴り声と共に足音が近づいてくる。俺たちは足を止めた。無視して進んでもよかったが、背中から騒がれるとリリの索敵に支障が出る。

 振り返ると、そこには息を切らせたアルスたちが立っていた。少し休憩したのか、あるいはポーションの残りを飲み干したのか、顔色は幾分かマシになっている。 だが、その目は血走り、焦燥に満ちていた。

「はぁ、はぁ……! 勝手に行くな! 俺の許可なく単独行動をするな!」

 アルスは俺たちの前に立ちはだかり、剣の切っ先を突きつけてきた。 ……刃こぼれした、ボロボロの剣を。

「許可? 何の権利があって?」

 俺は冷ややかに問い返す。アルスは一瞬言葉に詰まったが、すぐに居丈高に叫んだ。

「お、俺は勇者だぞ! この国の希望だ! 俺の行動はすべて、世界の平和に繋がってるんだ! だったら、その俺に協力するのは国民の義務だろ!」

 なるほど。 追い詰められた人間というのは、こうも簡単に大義名分という鎧を着込みたがるものか。

「協力しろ、ジン! これは『勇者命令』だ!」

 アルスが吠える。 後ろに控える仲間たちも、気まずそうにしながらも、アルスの言葉に縋っていた。

「そうよ、ジン。意地を張ってる場合じゃないでしょ?」

 カレアが上から目線で言う。

「私たちと合流させてあげるわ。あなたのその『罠避けの運』があれば、私たちの戦力と合わせて最深部まで行けるはずよ」

「水筒のお茶も、分けていただけませんか……?」 

 マリアが乾いた唇を舐めながら、リリの水筒を物欲しげに見ている。

 彼らは本気で思っているのだ。「仲間に入れてやる」と言えば、俺が喜んで尻尾を振って戻ってくる、と。かつて俺が彼らに尽くしていたのは、それが「仕事」だったからだ。 契約が切れれば、ただの他人。そんな当たり前の理屈が、彼らの辞書には載っていないらしい。

「断る」

 俺は一言で切り捨てた。

「なっ……!?」 

「言ったはずだ。俺たちは赤の他人だと。お前らの世界平和ごっこに付き合う義理はない」

「ご、ごっこだと!? 俺たちは命懸けで……!」

「命を懸けるのと、無謀な特攻をするのは違う」

 俺はアルスの言葉を遮り、冷徹に告げた。

「装備のメンテナンスもせず、物資の管理もできず、プライドだけで深層に突っ込む。それを『自殺志願者』と言うんだよ、勇者様」

「き、貴様ぁ……!」

 アルスの顔が怒りで歪む。だが、反論はできなかった。彼ら自身、今の状況が破滅的であることを痛感しているからだ。だからこそ、なりふり構わず俺を利用しようとしている。

「それに……俺たちの目的は、お前らとは違う」

 俺は回廊の奥、闇に沈む最深部の方角を指差した。

「お前らはボスを倒して『名声』が欲しいんだろう? だが、俺たちは違う」

 俺はニヤリと笑った。

「俺たちは、『安全』に帰りたいだけだ」

「は……?」

 アルスがぽかんと口を開けた。

「あ、安全に帰る……? じゃあ、なんだ。お前たちはここで逃げ帰るつもりだったのか?」

「そう受け取ってもらって構わない」

 実際には、「ボスを瞬殺して、魔物が出なくなった安全な道を優雅に帰還する」という意味なのだが、説明してやる必要はない。 アルスの中で「ジンは臆病風に吹かれて逃げようとしている」と誤解してくれた方が、後々面白い。

「はっ、ははは! なんだ、そうかよ!」

 アルスは急に勝ち誇ったような顔をした。

「結局、怖気づいたわけか! 所詮は裏方、ボスを前に足がすくんだってことだな!」 

「ああ、そうだ。だからお前らだけで行ってくれ。英雄の活躍を邪魔したくないんでね」

 俺はリリの肩を抱き、道を譲るように端へ避けた。

「さあ、どうぞ。お先に」 

「ふん! 負け犬め。後で後悔して泣きついてきても知らねえぞ!」

 アルスは鼻を鳴らし、俺たちの横を通り過ぎようとした。仲間たちも、どこか安心したような、そして軽蔑を含んだ視線を俺たちに向けながら続く。

 その時だった。

 カツン……カツン……。

 回廊の奥から、硬質な足音が響いてきた。それも一つや二つではない。 軍隊の行進のような、規則正しく、重々しい金属音。

「……ッ!」

 リリが瞬時に俺の前に立ち、短剣を構える。アルスたちも足を止めた。

「な、なんだ?」

 闇の中から現れたのは、全身を黒い甲冑で覆った『リビングアーマー』の集団だった。 その数、およそ20体。 中ボス級の個体が、雑魚のように群れを成して迫ってくる。最深部を守る、最後の防衛ラインだ。

「げ、げええっ!? リビングアーマーの群れだと!?」 

「嘘でしょ!? 一体だけでも厄介なのに、こんな数……!」

 カレアが悲鳴を上げる。今の消耗しきった彼らに、これだけの数を相手にする余力はない。

「ジ、ジン! おいジン!」

 アルスが慌てて振り返り、叫んだ。

「協力しろ! これじゃ全滅だ! お前の『不運操作』とかいう奴で、あいつらを足止めしろ!」

 命令。懇願。悲鳴。それらが混ざり合った無様な叫び。

 俺はそれを見て――静かに背を向けた。

「頑張れよ、勇者」

「は……?」

「俺たちは『安全に帰る』って言ったろ? そんな危険な戦い、御免だね」

 俺はリリの手を引き、来た道を戻るフリをした。もちろん、本当に帰るわけではない。近くの脇道に隠れて、彼らがリビングアーマーと激突し、消耗し尽くすのを待つだけだ。あるいは、彼らが全滅してくれれば、それはそれで手間が省ける。

「ま、待て! 見捨てるな! ジンーーッ!!」

 アルスの絶叫が響く。だが、その声はすぐに、リビングアーマーたちの金属音と、戦闘の衝撃音にかき消された。

「……行こう、リリ」 

「はい、ジン様」

 リリは一度だけ後ろを振り返り、戦場と化した回廊に冷たい視線を投げかけた。 そこには、自分たちを捨て駒にしようとした者たちが、逆に捨て駒となって食い散らかされる光景が広がっていた。

「……ざまぁみろ、です」

 彼女の小さな呟きを聞きながら、俺たちは戦場の喧騒から離れるように、静かに闇へと溶け込んでいった。 この先に待つ「本当の獲物」を狩るために。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

無能と呼ばれてパーティーを追放!最強に成り上がり人生最高!

本条蒼依
ファンタジー
 主人公クロスは、マスターで聞いた事のない職業だが、Eランクという最低ランクの職業を得た。 そして、差別を受けた田舎を飛び出し、冒険者ギルドに所属しポーターとして生活をしていたが、 同じパーティーメンバーからも疎まれている状況で話は始まる。

器用貧乏な赤魔道士は、パーティーでの役割を果たしてないと言って追い出されるが…彼の真価を見誤ったメンバーは後にお約束の展開を迎える事になる。

アノマロカリス
ファンタジー
【赤魔道士】 それは…なりたい者が限られる不人気No. 1ジョブである。 剣を持って戦えるが、勇者に比べれば役に立たず… 盾を持ってタンクの役割も出来るが、騎士には敵わず… 攻撃魔法を使えるが、黒魔道士には敵わず… 回復魔法を使えるが、白魔道士には敵わず… 弱体魔法や強化魔法に特化していて、魔法発動が他の魔道士に比べて速いが認知されず… そして何より、他のジョブに比べて成長が遅いという… これは一般的な【赤魔道士】の特徴だが、冒険者テクトにはそれが当て嵌まらなかった。 剣で攻撃をすれば勇者より強く… 盾を持てばタンクより役に立ち… 攻撃魔法や回復魔法は確かに本職の者に比べれば若干威力は落ちるが… それを補えるだけの強化魔法や弱体魔法の効果は絶大で、テクトには無詠唱が使用出来ていた。 Aランクパーティーの勇者達は、テクトの恩恵を受けていた筈なのに… 魔物を楽に倒せるのは、自分達の実力だと勘違いをし… 補助魔法を使われて強化されているのにもかかわらず、無詠唱で発動されている為に… 怪我が少ないのも自分達が強いからと勘違いをしていた。 そしてそんな自信過剰な勇者達は、テクトを役立たずと言って追い出すのだが… テクトは他のパーティーでも、同じ様に追い出された経験があるので… 追放に対しては食い下がる様な真似はしなかった。 そしてテクトが抜けた勇者パーティーは、敗走を余儀無くされて落ち目を見る事になるのだが… 果たして、勇者パーティーはテクトが大きな存在だったという事に気付くのはいつなのだろうか? 9月21日 HOTランキング2位になりました。 皆様、応援有り難う御座います! 同日、夜21時49分… HOTランキングで1位になりました! 感無量です、皆様有り難う御座います♪

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

婚約破棄?いいですけど私巨乳ですよ?

無色
恋愛
 子爵令嬢のディーカは、衆目の中で婚約破棄を告げられる。  身分差を理由に見下されながらも、彼女は淡々と受け入れようとするが、その時ドレスが破れ、隠していた自慢のそれが解き放たれてしまう。

処理中です...