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第22話:戦利品の回収と、静かなる凱旋
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「それじゃ、回収するぞ」
俺は手に入れたばかりの『亜空間の巾着(ウロボロス・バッグ)』の口を広げた。 眼前には、山脈のように横たわる『滅びの古竜』の巨体。全長100メートル超えのSランクモンスターだ。普通なら、解体して運ぶだけで数ヶ月はかかるだろう。
「入れ」
俺が念じると、巾着から吸い込まれるような魔力の風が発生した。巨体が歪み、空間ごと圧縮され、手のひらサイズの革袋の中へとシュルシュルと吸い込まれていく。
「……すごいです。本当に全部入っちゃいました」
リリが目を丸くして、ペタンコになった袋を突っついた。重量すら消えている。これが神話級(ゴッド・アーティファクト)の性能か。これで億万長者確定だ。
「さて、と」
俺は視線を横に向けた。そこには、黒焦げになり、ピクリとも動かない勇者アルスと、その仲間たちが転がっている。かろうじて息はあるようだが、装備は全損、体もボロボロだ。特にアルスの右腕は……治癒魔法でも再生できるかどうか怪しいレベルで炭化している。
「ジン様、とどめを刺しますか?」
リリが冷ややかな声で短剣を構える。彼女にとって、ジンを害そうとした者は排除すべき対象でしかない。
「いや、いい」
俺は首を振った。
「ここで殺せば、俺たちが殺人犯として追われることになる。それに……」
俺は炭になった元英雄を見下ろし、口端を吊り上げた。
「死ぬより辛い『生』ってのもある。全てを失って、泥水をすすって生きる惨めさを味わわせてやるのが、一番の復讐だ」
それに、今の彼には「不運」こそなくなったが、「強運」もない。ただの無力な、傷ついた一般人だ。このダンジョンの帰り道、果たして無事に帰れるかどうか……まあ、運が良ければ誰かが拾ってくれるだろう。
「行くぞ、リリ。長居は無用だ」
「はい、ジン様」
俺たちは勇者たちをゴミのように放置し、踵を返した。
◇
帰りの道中は、拍子抜けするほど平和だった。行きにあれほど感じた魔物の気配が、嘘のように消え失せている。それもそのはず。今のリリには、アルスから奪い取った「最強の強運」が宿っているからだ。
「♪~」
リリは鼻歌交じりに、スキップでもしそうな足取りで歩いている。フードを外し、銀髪を揺らすその横顔は、年相応の少女そのものだった。
「ご機嫌だな」
「はい! だって、ジン様と二人っきりでお散歩ですから!」
リリは振り返り、満面の笑みを向けた。
「体が軽いです。いつもなら、足元の石につまずいたり、天井から水が垂れてきたりするのに……今は、風さえも私を祝福してくれているみたいです」
彼女は両手を広げ、ダンジョンの淀んだ空気すら美味しそうに深呼吸した。それが、彼女がずっと焦がれていた「普通の女の子」の感覚なのだと思うと、胸の奥が少し痛んだ。
「……そうか。なら、今のうちに楽しんでおけ」
この「強運」は永続ではない。彼女自身の呪いが湧き出せば、いずれ相殺されて消える。だが、少なくとも今は。
「あの、ジン様」
リリがおずおずと右手を差し出してきた。
「……なんだ?」
「その……手、繋いでもいいですか? はぐれると、危ないですし……」
見え透いた嘘だ。一本道だし、魔物もいない。はぐれる要素などない。だが、その指先が微かに震えているのを見て、俺はため息をついた。
「……一回だけだぞ」
俺は彼女の手を握り返した。リリの手は小さく、そして温かかった。
「! えへへ……」
リリはパァッと花が咲くように破顔し、俺の手をギュッと握りしめた。そして、嬉しそうに俺の肩に頭を預けてくる。
「温かいです、ジン様」
「歩きにくいだろ」
「いいんです。……私、今が人生で一番幸せです」
彼女は目を細め、夢見るように呟いた。
「ドラゴンを倒して、お宝を手に入れて、こうしてジン様と手を繋いで……。まるで、御伽噺のハッピーエンドみたい」
「まだエンディングには早いぞ。稼いだ金を使わなきゃな」
「あ、そうです! お家! お家を買いましょう、ジン様!」
リリが瞳を輝かせて食いついてきた。
「大きなキッチンがあるお家がいいです! 毎日、私がジン様に美味しいご飯を作ります! お風呂も広いのがいいですね、一緒に入れますし!」
「一緒には入らん」
「ええーっ!? ケチです、ジン様!」
リリが頬を膨らませて文句を言う。そんな他愛のない会話をしながら、俺たちは暗い回廊を歩いていく。背後には壊滅した勇者パーティと、討伐されたドラゴンの骸。 それらを置き去りにして、俺たちは光の射す出口へと向かった。
「……あ、出口が見えました!」
眩しい陽光が差し込んでくる。俺たちは顔を見合わせ、同時に一歩を踏み出した。
外の世界は、突き抜けるような青空だった。俺たちの「勝利」を祝福するかのような、最高の天気だ。
「帰りましょう、ジン様。私たちの家に」
「……ああ。帰るか」
俺は握られた手に少しだけ力を込めた。リリが嬉しそうに握り返してくる。
英雄は地に落ち、最強の守護者が隣で笑っている。第二の人生の滑り出しとしては、上出来すぎる結果だった。
俺は手に入れたばかりの『亜空間の巾着(ウロボロス・バッグ)』の口を広げた。 眼前には、山脈のように横たわる『滅びの古竜』の巨体。全長100メートル超えのSランクモンスターだ。普通なら、解体して運ぶだけで数ヶ月はかかるだろう。
「入れ」
俺が念じると、巾着から吸い込まれるような魔力の風が発生した。巨体が歪み、空間ごと圧縮され、手のひらサイズの革袋の中へとシュルシュルと吸い込まれていく。
「……すごいです。本当に全部入っちゃいました」
リリが目を丸くして、ペタンコになった袋を突っついた。重量すら消えている。これが神話級(ゴッド・アーティファクト)の性能か。これで億万長者確定だ。
「さて、と」
俺は視線を横に向けた。そこには、黒焦げになり、ピクリとも動かない勇者アルスと、その仲間たちが転がっている。かろうじて息はあるようだが、装備は全損、体もボロボロだ。特にアルスの右腕は……治癒魔法でも再生できるかどうか怪しいレベルで炭化している。
「ジン様、とどめを刺しますか?」
リリが冷ややかな声で短剣を構える。彼女にとって、ジンを害そうとした者は排除すべき対象でしかない。
「いや、いい」
俺は首を振った。
「ここで殺せば、俺たちが殺人犯として追われることになる。それに……」
俺は炭になった元英雄を見下ろし、口端を吊り上げた。
「死ぬより辛い『生』ってのもある。全てを失って、泥水をすすって生きる惨めさを味わわせてやるのが、一番の復讐だ」
それに、今の彼には「不運」こそなくなったが、「強運」もない。ただの無力な、傷ついた一般人だ。このダンジョンの帰り道、果たして無事に帰れるかどうか……まあ、運が良ければ誰かが拾ってくれるだろう。
「行くぞ、リリ。長居は無用だ」
「はい、ジン様」
俺たちは勇者たちをゴミのように放置し、踵を返した。
◇
帰りの道中は、拍子抜けするほど平和だった。行きにあれほど感じた魔物の気配が、嘘のように消え失せている。それもそのはず。今のリリには、アルスから奪い取った「最強の強運」が宿っているからだ。
「♪~」
リリは鼻歌交じりに、スキップでもしそうな足取りで歩いている。フードを外し、銀髪を揺らすその横顔は、年相応の少女そのものだった。
「ご機嫌だな」
「はい! だって、ジン様と二人っきりでお散歩ですから!」
リリは振り返り、満面の笑みを向けた。
「体が軽いです。いつもなら、足元の石につまずいたり、天井から水が垂れてきたりするのに……今は、風さえも私を祝福してくれているみたいです」
彼女は両手を広げ、ダンジョンの淀んだ空気すら美味しそうに深呼吸した。それが、彼女がずっと焦がれていた「普通の女の子」の感覚なのだと思うと、胸の奥が少し痛んだ。
「……そうか。なら、今のうちに楽しんでおけ」
この「強運」は永続ではない。彼女自身の呪いが湧き出せば、いずれ相殺されて消える。だが、少なくとも今は。
「あの、ジン様」
リリがおずおずと右手を差し出してきた。
「……なんだ?」
「その……手、繋いでもいいですか? はぐれると、危ないですし……」
見え透いた嘘だ。一本道だし、魔物もいない。はぐれる要素などない。だが、その指先が微かに震えているのを見て、俺はため息をついた。
「……一回だけだぞ」
俺は彼女の手を握り返した。リリの手は小さく、そして温かかった。
「! えへへ……」
リリはパァッと花が咲くように破顔し、俺の手をギュッと握りしめた。そして、嬉しそうに俺の肩に頭を預けてくる。
「温かいです、ジン様」
「歩きにくいだろ」
「いいんです。……私、今が人生で一番幸せです」
彼女は目を細め、夢見るように呟いた。
「ドラゴンを倒して、お宝を手に入れて、こうしてジン様と手を繋いで……。まるで、御伽噺のハッピーエンドみたい」
「まだエンディングには早いぞ。稼いだ金を使わなきゃな」
「あ、そうです! お家! お家を買いましょう、ジン様!」
リリが瞳を輝かせて食いついてきた。
「大きなキッチンがあるお家がいいです! 毎日、私がジン様に美味しいご飯を作ります! お風呂も広いのがいいですね、一緒に入れますし!」
「一緒には入らん」
「ええーっ!? ケチです、ジン様!」
リリが頬を膨らませて文句を言う。そんな他愛のない会話をしながら、俺たちは暗い回廊を歩いていく。背後には壊滅した勇者パーティと、討伐されたドラゴンの骸。 それらを置き去りにして、俺たちは光の射す出口へと向かった。
「……あ、出口が見えました!」
眩しい陽光が差し込んでくる。俺たちは顔を見合わせ、同時に一歩を踏み出した。
外の世界は、突き抜けるような青空だった。俺たちの「勝利」を祝福するかのような、最高の天気だ。
「帰りましょう、ジン様。私たちの家に」
「……ああ。帰るか」
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