22 / 150
第22話:戦利品の回収と、静かなる凱旋
「それじゃ、回収するぞ」
俺は手に入れたばかりの『亜空間の巾着(ウロボロス・バッグ)』の口を広げた。 眼前には、山脈のように横たわる『滅びの古竜』の巨体。全長100メートル超えのSランクモンスターだ。普通なら、解体して運ぶだけで数ヶ月はかかるだろう。
「入れ」
俺が念じると、巾着から吸い込まれるような魔力の風が発生した。巨体が歪み、空間ごと圧縮され、手のひらサイズの革袋の中へとシュルシュルと吸い込まれていく。
「……すごいです。本当に全部入っちゃいました」
リリが目を丸くして、ペタンコになった袋を突っついた。重量すら消えている。これが神話級(ゴッド・アーティファクト)の性能か。これで億万長者確定だ。
「さて、と」
俺は視線を横に向けた。そこには、黒焦げになり、ピクリとも動かない勇者アルスと、その仲間たちが転がっている。かろうじて息はあるようだが、装備は全損、体もボロボロだ。特にアルスの右腕は……治癒魔法でも再生できるかどうか怪しいレベルで炭化している。
「ジン様、とどめを刺しますか?」
リリが冷ややかな声で短剣を構える。彼女にとって、ジンを害そうとした者は排除すべき対象でしかない。
「いや、いい」
俺は首を振った。
「ここで殺せば、俺たちが殺人犯として追われることになる。それに……」
俺は炭になった元英雄を見下ろし、口端を吊り上げた。
「死ぬより辛い『生』ってのもある。全てを失って、泥水をすすって生きる惨めさを味わわせてやるのが、一番の復讐だ」
それに、今の彼には「不運」こそなくなったが、「強運」もない。ただの無力な、傷ついた一般人だ。このダンジョンの帰り道、果たして無事に帰れるかどうか……まあ、運が良ければ誰かが拾ってくれるだろう。
「行くぞ、リリ。長居は無用だ」
「はい、ジン様」
俺たちは勇者たちをゴミのように放置し、踵を返した。
◇
帰りの道中は、拍子抜けするほど平和だった。行きにあれほど感じた魔物の気配が、嘘のように消え失せている。それもそのはず。今のリリには、アルスから奪い取った「最強の強運」が宿っているからだ。
「♪~」
リリは鼻歌交じりに、スキップでもしそうな足取りで歩いている。フードを外し、銀髪を揺らすその横顔は、年相応の少女そのものだった。
「ご機嫌だな」
「はい! だって、ジン様と二人っきりでお散歩ですから!」
リリは振り返り、満面の笑みを向けた。
「体が軽いです。いつもなら、足元の石につまずいたり、天井から水が垂れてきたりするのに……今は、風さえも私を祝福してくれているみたいです」
彼女は両手を広げ、ダンジョンの淀んだ空気すら美味しそうに深呼吸した。それが、彼女がずっと焦がれていた「普通の女の子」の感覚なのだと思うと、胸の奥が少し痛んだ。
「……そうか。なら、今のうちに楽しんでおけ」
この「強運」は永続ではない。彼女自身の呪いが湧き出せば、いずれ相殺されて消える。だが、少なくとも今は。
「あの、ジン様」
リリがおずおずと右手を差し出してきた。
「……なんだ?」
「その……手、繋いでもいいですか? はぐれると、危ないですし……」
見え透いた嘘だ。一本道だし、魔物もいない。はぐれる要素などない。だが、その指先が微かに震えているのを見て、俺はため息をついた。
「……一回だけだぞ」
俺は彼女の手を握り返した。リリの手は小さく、そして温かかった。
「! えへへ……」
リリはパァッと花が咲くように破顔し、俺の手をギュッと握りしめた。そして、嬉しそうに俺の肩に頭を預けてくる。
「温かいです、ジン様」
「歩きにくいだろ」
「いいんです。……私、今が人生で一番幸せです」
彼女は目を細め、夢見るように呟いた。
「ドラゴンを倒して、お宝を手に入れて、こうしてジン様と手を繋いで……。まるで、御伽噺のハッピーエンドみたい」
「まだエンディングには早いぞ。稼いだ金を使わなきゃな」
「あ、そうです! お家! お家を買いましょう、ジン様!」
リリが瞳を輝かせて食いついてきた。
「大きなキッチンがあるお家がいいです! 毎日、私がジン様に美味しいご飯を作ります! お風呂も広いのがいいですね、一緒に入れますし!」
「一緒には入らん」
「ええーっ!? ケチです、ジン様!」
リリが頬を膨らませて文句を言う。そんな他愛のない会話をしながら、俺たちは暗い回廊を歩いていく。背後には壊滅した勇者パーティと、討伐されたドラゴンの骸。 それらを置き去りにして、俺たちは光の射す出口へと向かった。
「……あ、出口が見えました!」
眩しい陽光が差し込んでくる。俺たちは顔を見合わせ、同時に一歩を踏み出した。
外の世界は、突き抜けるような青空だった。俺たちの「勝利」を祝福するかのような、最高の天気だ。
「帰りましょう、ジン様。私たちの家に」
「……ああ。帰るか」
俺は握られた手に少しだけ力を込めた。リリが嬉しそうに握り返してくる。
英雄は地に落ち、最強の守護者が隣で笑っている。第二の人生の滑り出しとしては、上出来すぎる結果だった。
俺は手に入れたばかりの『亜空間の巾着(ウロボロス・バッグ)』の口を広げた。 眼前には、山脈のように横たわる『滅びの古竜』の巨体。全長100メートル超えのSランクモンスターだ。普通なら、解体して運ぶだけで数ヶ月はかかるだろう。
「入れ」
俺が念じると、巾着から吸い込まれるような魔力の風が発生した。巨体が歪み、空間ごと圧縮され、手のひらサイズの革袋の中へとシュルシュルと吸い込まれていく。
「……すごいです。本当に全部入っちゃいました」
リリが目を丸くして、ペタンコになった袋を突っついた。重量すら消えている。これが神話級(ゴッド・アーティファクト)の性能か。これで億万長者確定だ。
「さて、と」
俺は視線を横に向けた。そこには、黒焦げになり、ピクリとも動かない勇者アルスと、その仲間たちが転がっている。かろうじて息はあるようだが、装備は全損、体もボロボロだ。特にアルスの右腕は……治癒魔法でも再生できるかどうか怪しいレベルで炭化している。
「ジン様、とどめを刺しますか?」
リリが冷ややかな声で短剣を構える。彼女にとって、ジンを害そうとした者は排除すべき対象でしかない。
「いや、いい」
俺は首を振った。
「ここで殺せば、俺たちが殺人犯として追われることになる。それに……」
俺は炭になった元英雄を見下ろし、口端を吊り上げた。
「死ぬより辛い『生』ってのもある。全てを失って、泥水をすすって生きる惨めさを味わわせてやるのが、一番の復讐だ」
それに、今の彼には「不運」こそなくなったが、「強運」もない。ただの無力な、傷ついた一般人だ。このダンジョンの帰り道、果たして無事に帰れるかどうか……まあ、運が良ければ誰かが拾ってくれるだろう。
「行くぞ、リリ。長居は無用だ」
「はい、ジン様」
俺たちは勇者たちをゴミのように放置し、踵を返した。
◇
帰りの道中は、拍子抜けするほど平和だった。行きにあれほど感じた魔物の気配が、嘘のように消え失せている。それもそのはず。今のリリには、アルスから奪い取った「最強の強運」が宿っているからだ。
「♪~」
リリは鼻歌交じりに、スキップでもしそうな足取りで歩いている。フードを外し、銀髪を揺らすその横顔は、年相応の少女そのものだった。
「ご機嫌だな」
「はい! だって、ジン様と二人っきりでお散歩ですから!」
リリは振り返り、満面の笑みを向けた。
「体が軽いです。いつもなら、足元の石につまずいたり、天井から水が垂れてきたりするのに……今は、風さえも私を祝福してくれているみたいです」
彼女は両手を広げ、ダンジョンの淀んだ空気すら美味しそうに深呼吸した。それが、彼女がずっと焦がれていた「普通の女の子」の感覚なのだと思うと、胸の奥が少し痛んだ。
「……そうか。なら、今のうちに楽しんでおけ」
この「強運」は永続ではない。彼女自身の呪いが湧き出せば、いずれ相殺されて消える。だが、少なくとも今は。
「あの、ジン様」
リリがおずおずと右手を差し出してきた。
「……なんだ?」
「その……手、繋いでもいいですか? はぐれると、危ないですし……」
見え透いた嘘だ。一本道だし、魔物もいない。はぐれる要素などない。だが、その指先が微かに震えているのを見て、俺はため息をついた。
「……一回だけだぞ」
俺は彼女の手を握り返した。リリの手は小さく、そして温かかった。
「! えへへ……」
リリはパァッと花が咲くように破顔し、俺の手をギュッと握りしめた。そして、嬉しそうに俺の肩に頭を預けてくる。
「温かいです、ジン様」
「歩きにくいだろ」
「いいんです。……私、今が人生で一番幸せです」
彼女は目を細め、夢見るように呟いた。
「ドラゴンを倒して、お宝を手に入れて、こうしてジン様と手を繋いで……。まるで、御伽噺のハッピーエンドみたい」
「まだエンディングには早いぞ。稼いだ金を使わなきゃな」
「あ、そうです! お家! お家を買いましょう、ジン様!」
リリが瞳を輝かせて食いついてきた。
「大きなキッチンがあるお家がいいです! 毎日、私がジン様に美味しいご飯を作ります! お風呂も広いのがいいですね、一緒に入れますし!」
「一緒には入らん」
「ええーっ!? ケチです、ジン様!」
リリが頬を膨らませて文句を言う。そんな他愛のない会話をしながら、俺たちは暗い回廊を歩いていく。背後には壊滅した勇者パーティと、討伐されたドラゴンの骸。 それらを置き去りにして、俺たちは光の射す出口へと向かった。
「……あ、出口が見えました!」
眩しい陽光が差し込んでくる。俺たちは顔を見合わせ、同時に一歩を踏み出した。
外の世界は、突き抜けるような青空だった。俺たちの「勝利」を祝福するかのような、最高の天気だ。
「帰りましょう、ジン様。私たちの家に」
「……ああ。帰るか」
俺は握られた手に少しだけ力を込めた。リリが嬉しそうに握り返してくる。
英雄は地に落ち、最強の守護者が隣で笑っている。第二の人生の滑り出しとしては、上出来すぎる結果だった。
あなたにおすすめの小説
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
追放即死と思ったら転生して最強薬師、元家族に天罰を
タマ マコト
ファンタジー
名門薬師一族に生まれたエリシアは、才能なしと蔑まれ、家名を守るために追放される。
だがそれは建前で、彼女の異質な才能を恐れた家族による処刑だった。
雨の夜、毒を盛られ十七歳で命を落とした彼女は、同じ世界の片隅で赤子として転生する。
血の繋がらない治療師たちに拾われ、前世の記憶と復讐心を胸に抱いたまま、
“最強薬師”としての二度目の人生が静かに始まる。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります
しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。
納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。
ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。
そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。
竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。