歩く災害と呼ばれた【薄幸の美少女】を救ったら、俺にしか懐かない最強の守護者になった件。~運を下げるスキルで追放されたけど、彼女と一緒なら無敵

ジョウジ

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第23話:逆転する評価、地に落ちる英雄

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 冒険者ギルドは、いつもの喧騒に包まれていた。夕刻時。依頼を終えた荒くれ者たちが酒を酌み交わし、今日の戦果を自慢し合う、活気ある時間帯だ。

「おい聞いたか? 勇者パーティが『嘆きの古城』へ行ったらしいぞ」 

「マジかよ、あそこはBランクだろ? 流石はアルス様だ」 

「きっと今頃、伝説の財宝を持って凱旋してくるぜ!」

 楽観的な噂話。 誰もが英雄の勝利を疑っていなかった。 少なくとも、あの二人が扉を開けるまでは。

 カラン、コロン。

 扉のベルが鳴り、二つの人影が入ってきた。黒髪の青年と、銀髪の少女。その姿があまりにも「場違い」だったため、近くにいた冒険者たちが会話を止めた。

「……なんだあいつら?」 

「デートの帰りか? 服に汚れ一つついてねえぞ」

 ジンとリリは、まるで王都のメインストリートを散歩してきたかのような清潔さで、真っ直ぐにカウンターへと歩を進めた。

「お疲れ様です、ミライさん」 

「……あら、ジン様。リリ様もお早いお帰りで」

 受付嬢のミライは、書類仕事の手を止めずに顔を上げた。

「今回は早かったですね。北の森ですか? それとも近場の遺跡?」 

「いや、『嘆きの古城』だ」

 その言葉に、ミライの手がピタリと止まった。 周囲の冒険者たちも、聞き耳を立ててざわめき始める。

「……古城? あそこは勇者パーティが攻略中のはずですが」 

「ああ、会ったよ。途中でな」

 ジンは淡々と答えた。

「それで、依頼達成の報告だ。査定を頼む」 

「はあ……。何を持ち帰られたんですか? スケルトンの骨ですか? それとも……」

 ミライは期待していなかった。どうせ、入り口付近で小物を拾ってきた程度だろうと高を括っていた。だが、ジンが懐から取り出した「革袋」を見て、首を傾げた。

「……それは?」 

「全部ここに入ってる。ここじゃ狭いから、裏の倉庫を借りてもいいか?」 

「は? 倉庫?」

 ミライは訝しげな顔をしたが、ジンの真剣な眼差しに押され、渋々立ち上がった。

「……わかりました。こちらへどうぞ」

          ◇

 ギルド裏の巨大倉庫。 本来は大型魔獣の解体などに使われる広大なスペースだ。

「さあ、出してください。何が入っているんですか?」

 ミライが腕組みをして待つ前で、ジンは革袋の口を緩めた。

「腰を抜かすなよ」

 ジンが袋を逆さにし、軽く振った。

 ドスゥゥゥゥゥンッ……!!

 空間が歪み、質量保存の法則を無視した巨大な物体が、倉庫の床を揺らして出現した。それは、黒曜石のような鱗に覆われた、山のような肉塊。そして、その頂点には――特徴的な黄金の瞳を持つ、巨大な頭部があった。

「――――」

 ミライは言葉を失った。 眼鏡がずり落ちるのも構わず、口をパクパクと開閉させる。

「こ、これ……は……」 

「『滅びの古竜』だ。ついでに、狂王の宝物庫にあったガラクタも全部ここにある」

 ジンはドラゴンの横に、ジャラジャラと金銀財宝の山を築いてみせた。ドラゴンの素材と、国宝級の財宝。その総額は、ギルドの年間予算すら軽く超えるだろう。

「う、そ……嘘、でしょ……?」

 ミライはその場にへたり込んだ。Sランク相当の古竜。 伝説上の存在であり、一個師団を動員しても勝てるかどうかわからない厄災だ。それを、たった二人で? しかも、無傷で?

「あなたたち……一体、何者なんですか……?」

 震える声で問うミライに、ジンは涼しい顔で答えた。

「ただのEランク冒険者だよ。……まあ、運が良かっただけさ」

          ◇

 その直後だった。 ギルドの表口が、騒がしくなった。

「おい! 道を開けろ! 怪我人だ!」 

「ひでぇ……なんだこの火傷は!」 

「治療室へ運ぶぞ! 手を貸せ!」

 怒号と悲鳴。ジンたちが倉庫から戻ると、そこには地獄のような光景が広がっていた。

 運び込まれてきたのは、四つの担架。その上に乗せられているのは、見るも無惨な黒焦げの肉塊だった。

「う、うぅ……水……水を……」

 かろうじて人の言葉を発しているのは、全身を包帯で巻かれた剣聖ガイルだけだ。 聖女マリアは意識がなく、足があらぬ方向に曲がっている。大魔導士カレアは髪が焼け焦げ、虚ろな目で天井を見つめていた。

 そして――最後に運ばれてきた、一番酷い状態の男。

「……アルス様!?」

 誰かが叫んだ。 その声に、ギルド中が凍りついた。

 右腕を失い、自慢の金髪も焼失し、顔の半分が炭化したその男は、間違いなく勇者アルスだった。 かつての栄光など欠片もない。ただの、死に損ないの敗残兵だ。

「な、なんで……勇者が負けたのか……?」 

「ドラゴンだ! 救助隊の話じゃ、深層で古竜に焼かれたらしいぞ!」 

「古竜だって!? じゃあ、誰があいつを倒したんだ?」

 ざわめきが波紋のように広がる。その時、ミライが震える手で、一枚の羊皮紙を掲示した。

『速報!! Eランク冒険者ジン・クラウゼル及びリリ・クラウゼル、深層にてSランクモンスター【滅びの古竜】を討伐!! 素材の回収を確認!!』

「――――は?」

 一瞬の静寂。そして、爆発のような驚愕がギルドを揺らした。

「おい、あいつらか!? さっき涼しい顔で帰ってきた……!」 

「嘘だろ!? 勇者が半殺しにされた相手を、無傷で!?」 

「あいつら、化け物かよ……!」

 視線が集まる。 先ほどまでの「なんだあいつら」という好奇の目は消え失せていた。代わりに向けられるのは、理解不能な存在への「畏怖」と、圧倒的な実力者への「称賛」。

 そして、担架で運ばれていくアルスたちに向けられる視線は――残酷なほど冷たかった。

「なんだよ、勇者って言っても口だけか」 

「新人に手柄を取られて、自分たちはこのザマかよ」 

「だっせぇ……」

 失望。軽蔑。勝者こそが正義である冒険者の世界において、敗者は何を言っても言い訳にしかならない。ましてや、格下の新人が成し遂げた偉業の前では、彼らの敗北はただの「無能の証明」でしかなかった。

「……行くぞ、リリ」

 ジンは騒ぎの中心にいることに興味なさそうに、出口へと歩き出した。 群衆が、モーゼの海割れのように道を開ける。誰も、彼に気軽に声をかけることなどできなかった。

「はい、ジン様」

 リリは担架の上のアルスを一瞥もしなかった。彼女にとって、彼はもう「汚いゴミ」ですらない。視界に入れる価値もない、過去の遺物だ。

 二人がギルドを出ていく背中を、ミライだけが呆然と見送っていた。 彼女は悟っていた。今日、この瞬間。 王国の英雄譚は終わりを告げ、新たな「最強」の伝説が始まったのだと。
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