歩く災害と呼ばれた【薄幸の美少女】を救ったら、俺にしか懐かない最強の守護者になった件。~運を下げるスキルで追放されたけど、彼女と一緒なら無敵

ジョウジ

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第26話:豪邸購入と白い毛玉

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 翌朝。俺たちは王都の大通りに面した『王立不動産ギルド』のカウンターに、革袋いっぱいの金貨を積み上げていた。

「家を買う。条件は三つだ。王都の一等地にあり、周囲に人が少なく、即日入居可能な物件。……予算は問わん」

 俺の言葉に、ギルド職員の男は揉み手をしながら、一枚の古びた羊皮紙を奥から引っ張り出してきた。

「お客様、大変申し上げにくいのですが……条件に合う物件は一つしかございません。通称『嘆きの白亜邸』。元伯爵家の別邸なのですが……その、出るんですよ」 

「何がだ? ゴキブリか?」 

「『呪い』です」

 職員が声を潜める。

 横で聞いていたリリが「ひっ」と息を呑み、俺の袖をギュッと握りしめた。

「前の持ち主は謎の変死。その次の持ち主は三日で発狂して逃げ出しました。夜な夜な不気味な呻き声が響き、入った者は必ず不幸に見舞われる……。ですが価格は破格の金貨五十枚。誰も買い手がつきません」

 金貨五十枚。相場の十分の一以下だ。俺はニヤリと笑みを浮かべた。俺の目にはその物件情報の文字の裏に、濃厚な「不運」の気配が漂っているのが見えていた。  

 このレベルの「負のエネルギー」は、そうそうお目にかかれるものじゃない。むしろ、最初から呪われているくらいの場所のほうが、俺の燃料補給地としても都合がいい。

「気に入った。買おう」 

「えっ……ほ、本当でございますか!?」

 職員が素っ頓狂な声を上げた。十年以上も買い手がつかなかった不良債権が、まさか即決で売れるとは思わなかったのだろう。

「ジ、ジン様!? 呪いですよ!? 幽霊ですよ!?」

 一方でリリは顔面蒼白だ。ドラゴンには平気で突っ込むくせに、こういうオカルト系は苦手らしい。

「安心しろ。幽霊なんぞより、お前の寝相の方がよっぽどスリリングだ」 

「なっ……!? わ、私の寝相はそんなに悪くありませんっ!」

「さささ、気が変わらないうちに契約書を! 今なら手数料もサービスさせていただきますので!」

 職員は俺たちが痴話喧嘩(に見えているらしい)をしている隙に、目にも留まらぬ速さで契約書を作成し始めた。このチャンスを逃すまいという執念が凄まじい。

 こうして即決で手続きを済ませ、俺たちはその足で現地へと向かった。

          ◇

 案内された屋敷は、王都の北区画、鬱蒼とした森の中にポツンと建っていた。  伸び放題の蔦が絡まる白亜の洋館。空は晴れているのに、ここだけ薄暗い雲が垂れ込め、空気はジメリと重い。

 ギルド職員は入り口で鍵を渡すと、脱兎のごとく逃げ帰ってしまった。

「……ジン様。やっぱり、ここはやめませんか?」

 リリが涙目で訴えてくる。彼女の『危機察知』がビンビンに反応しているのだろう。

 「私、魔物は平気ですけど、オバケは切れないので……」 

「物理攻撃が通じない相手か。だが、俺の専門分野だ」

 俺は錆びついた門を開け、屋敷の中へと足を踏み入れた。

 ギィィィ……と重い音が響き、埃っぽいエントランスホールが姿を現す。

 その瞬間だった。

 ドロリとした黒い靄(もや)が、天井付近に渦巻いているのが見えた。 

「……なるほどな」

 幽霊が出るという噂の正体はこれか。

 これは死者の魂などではない。長い年月をかけてこの土地に沈殿した、「不運の淀み」だ。誰かの恨みや辛みが、行き場を失って溜まりに溜まり、物理的な現象を引き起こすほどのエネルギー体になっている。

「うぅ……寒気がします……」

 リリが身を震わせる。彼女自身が「不運を引き寄せる体質」だからこそ、この場所の波長と共鳴してしまっているのだ。

 放っておけば、リリの不運と屋敷の呪いが連鎖反応を起こし、屋敷ごと爆発しかねない。

「掃除の時間だ」

 俺はポケットから手を出し、天井の黒い渦に向かって指を鳴らした。

【確率操作】――対象:空間内の不運エネルギー。  術式:『圧縮』および『固定化』。

 俺は散らばっている不運の粒子を、強制的に一箇所に集めた。

 本来なら霧散させるのがセオリーだが、これだけの高純度エネルギーを捨てるのは勿体ない。リリの不運を吸収する際の「バッファ(緩衝材)」として使えるかもしれない。

「集まれ、集まれ……」

 俺が指揮棒を振るように指を動かすと、黒い靄がギュルギュルと音を立てて収束していく。

 部屋中の空気が軋む。

 リリが目を見開き、俺の背中にしがみつく。

 そして――限界まで圧縮されたエネルギーが、パチンと弾けた。

 ポンッ!

 間の抜けた音が響き、黒い靄が消滅した。代わりに、床の上に「ポサッ」と何かが落ちてきた。

「……え?」

 リリが恐る恐る顔を出す。

 そこにいたのは、真っ白な毛玉だった。大きさはハンドボールほど。フワフワの毛に覆われ、つぶらな瞳が二つ。短い手足がちょこんと生えている。

 不運のエネルギーを極限まで圧縮し、俺の魔力で固定化した結果、なぜか意志を持って実体化してしまったらしい。

「みゅう」

 毛玉が鳴いた。

 そして、短い足でペタペタと歩き出し、俺ではなくリリの方へと向かった。リリの足元で止まり、そのフワフワの体をリリのブーツに擦り付ける。

「みゅ~」

「……っ!」

 リリが固まった。数秒後、彼女は崩れ落ちるように膝をつき、その白い毛玉を両手で恐る恐る持ち上げた。

「か、かわいい……」

 リリの目がハート型になっている。

 毛玉――精霊のようなナニカは、リリの手の中で心地よさそうに目を細め、「きゅい」と甘えた声を出した。

 どうやら、リリから溢れ出る「不運の波動」が、コイツにとっては居心地が良いらしい。同類相憐れむ、といったところか。

「ジン様! ジン様っ!」

 リリが興奮した様子で振り返る。

 「この子、飼ってもいいですか!? このお屋敷の妖精さんです! きっと守り神です!」

 守り神というか、呪いの塊なのだが。

 まあ、害はなさそうだ。俺の制御下にある以上、暴走することもないだろう。それに、この屋敷に漂う微細な不運を勝手に食べて掃除してくれそうな気配もある。

「……まあ、いいだろう」

 俺は許可を出した。

「いざとなったら、非常食にはなるか」

「みゅっ!?」

 毛玉がビクリと震え、リリの豊満な胸の谷間へと潜り込んだ。

「だめです! 食べちゃだめです! ほら、怖くないですよ~。お名前、何がいいですかね……」

 リリはもう夢中だ。

 コイツの名前は『ラク』に決まったらしい。

 こうして、俺たちの新居には、最強の軍師と、最強の暗殺者、そして謎の白い毛玉(元・呪い)という、奇妙な家族が住まうことになったのだった。
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