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第28話:変人鍛冶師ヴォルグ
王都の裏路地。そこは、表通りの華やかさとは無縁の、煤(すす)と鉄と、どこか危険な香りが漂う職人街だ。俺たちは、その最深部にある一軒のボロ屋……もとい、工房の前に立っていた。
「……ここですか? なんだか、今にも爆発しそうな音が聞こえますけど」
「ああ、ここだ。腕は確かだが、頭のネジが数本飛んでいる男が住んでいる」
看板には『ヴォルグ魔導鍛冶工房』とあるが、看板自体が焼け焦げて読めない部分が多い。俺がノックしようと手を上げた、その瞬間。
ドカーーーーーーンッ!!
轟音と共に、工房の鉄扉が内側から吹き飛んだ。リリが瞬時に反応し、俺を抱きかかえて横へ跳んだ。扉は俺たちが立っていた場所を通過し、向かいの壁に突き刺さった。
「ケホッ、ケホッ……! ちっ、また失敗か! 火薬の配合がコンマ1グラム多かったか!」
黒煙の中から現れたのは、全身煤まみれの大男だった。岩のような筋肉。ボサボサの髭。頭には溶接用のゴーグル。典型的なドワーフ……ではなく、ただの筋肉ダルマな人間族、ヴォルグだ。
「おい、ヴォルグ。相変わらず命知らずな実験をしてるな」
「ああん? 誰だ、俺の芸術鑑賞を邪魔する奴は……おっ、お前は!」
ヴォルグはゴーグルをずらし、俺の顔を見るとニヤリと笑った。
「ジンじゃねえか! 生きてたのか、あの貧弱軍師! 勇者パーティを追い出されたって聞いた時は、てっきり野垂れ死んだかと祝杯をあげてたんだぞ!」
「祝うな。……仕事の依頼だ。金はある」
俺は革袋を放り投げた。ヴォルグはそれを受け取ると、中身(古竜討伐の報酬の一部)を確認し、目の色を変えた。
「……ほう。腐っても元軍師、金回りはいいみたいだな。で、何を作る? 装備した瞬間に自爆する『特攻鎧』か? それとも敵味方無差別に毒を撒く『皆殺しスプリンクラー』か?」
「ろくなもんがないな。……家事用品だ」
俺はリストを渡した。 『ミスリルのフライパン』 『オリハルコンの洗濯板』 『アダマンタイトの包丁』 『衝撃吸収術式付きのティーカップ』
「……は?」
ヴォルグがリストを見て、間の抜けた声を出した。
「なんだこれ。ふざけてんのか? こんな国宝級の素材で、ママゴト道具を作れだと?」
「本気だ。こいつ……いや、連れの身体能力が高すぎてな。市販品じゃ一瞬でゴミになる」
俺は隣のリリを紹介した。リリはフードを深く被り、ラクを抱いて大人しくしている。
ヴォルグはリリを一瞥し、鼻で笑った。
「はんッ! 女子供の力加減ミスなんぞ知ったことか。俺はなぁ、戦うための『凶器』しか作らねえ主義なんだよ。こんな軟弱な男の、軟弱な注文を受けるほど落ちぶれちゃいねえ!」
ヴォルグがリストを地面に叩きつけ、俺を指差した。
「だいたいなぁ、お前みたいなヒョロガリが軍師だなんて笑わせるぜ。剣も振れねえ、魔法も使えねえ、口先だけの腰抜けがよぉ。どうせその金も、女騙して巻き上げたんだろ? あぁん?」
ヴォルグの悪態は、いつものことだ。職人気質の偏屈親父なりの挨拶みたいなものだ。俺は適当に聞き流そうとした…だが。
ヒュッ。
風が鳴った。次の瞬間、ヴォルグの首筋に、冷たい切っ先が突きつけられていた。
「――訂正してください」
凍てつくような声。いつの間にか、ヴォルグの背後にリリが立っていた。俺の隣にいた残像が消えるよりも早く、彼女は音もなく距離を詰め、その短剣を喉元に当てていたのだ。
「な、ん……ッ!?」
ヴォルグが息を呑む。鍛冶師としての本能が告げているのだろう。この少女が、ただ者ではないと。一ミリでも動けば、頸動脈を切り裂かれると。
「ジン様は、腰抜けではありません。誰よりも賢く、誰よりも強く、私を救ってくださった最高の軍師です」
リリの瞳が、フードの奥で赤く輝く。そこにあるのは、純粋培養された殺意。 今朝の「ポンコツ奥様」の面影など微塵もない。これぞ【AGI:SSS】の暗殺者としての本性だ。
「その汚い言葉を撤回し、謝罪を。……さもなくば、あなたの喉を第二の煙突にして差し上げます」
「ま、待て待て待て!」
ヴォルグが両手を挙げた。冷や汗が滝のように流れている。
「わ、悪かった! 冗談だ! ただの軽口だ!」
「……ジン様?」
リリが俺に判断を仰ぐ視線を向ける。
「そこまでにしてやれ、リリ。職人が死んだら道具が作れない」
「……はい」
俺が命じると、リリは瞬時に短剣を納め、スッと俺の隣に戻ってきた。そして何事もなかったかのように、ラクの頭を撫で始める。
「みゅう(こわかった)」
ラクがブルブル震えながらリリの腕に顔を埋める。
「……化け物かよ」
ヴォルグがへたり込み、首筋をさすった。そこには、皮一枚だけ切れた赤い線が残っていた。警告のための、寸止めの傷だ。
「わかった、わかったよ……。作ればいいんだろ、作れば! その代わり、素材はてめぇ持ちだ! 加工費も高くつくぞ!」
「交渉成立だな。リストの金属よりもっといい素材がここにある」
俺は『亜空間の巾着』から、古竜の鱗と牙を取り出した。それを見たヴォルグの目が、今度こそ飛び出しそうになった。
「こ、これは……『滅びの古竜』の素材!? お前、これをどこで……まさか、さっきの嬢ちゃんが?」
「企業秘密だ。……ミスリルやオリハルコンの代わりだ、これで最強のフライパンを作れ。リリがフルスイングしても歪まないやつをな」
「……ククッ、ハハハハ!」
ヴォルグは突然笑い出した。
「面白ぇ! 古竜素材で調理器具だと!? 最高に狂ってやがる! 気に入った、俺の腕を全部ぶち込んで最高傑作を作ってやるよ!」
どうやら変人の琴線に触れたらしい。こうして俺たちは、無事に(?)専属の鍛冶師を確保することに成功したのだった。
「……ここですか? なんだか、今にも爆発しそうな音が聞こえますけど」
「ああ、ここだ。腕は確かだが、頭のネジが数本飛んでいる男が住んでいる」
看板には『ヴォルグ魔導鍛冶工房』とあるが、看板自体が焼け焦げて読めない部分が多い。俺がノックしようと手を上げた、その瞬間。
ドカーーーーーーンッ!!
轟音と共に、工房の鉄扉が内側から吹き飛んだ。リリが瞬時に反応し、俺を抱きかかえて横へ跳んだ。扉は俺たちが立っていた場所を通過し、向かいの壁に突き刺さった。
「ケホッ、ケホッ……! ちっ、また失敗か! 火薬の配合がコンマ1グラム多かったか!」
黒煙の中から現れたのは、全身煤まみれの大男だった。岩のような筋肉。ボサボサの髭。頭には溶接用のゴーグル。典型的なドワーフ……ではなく、ただの筋肉ダルマな人間族、ヴォルグだ。
「おい、ヴォルグ。相変わらず命知らずな実験をしてるな」
「ああん? 誰だ、俺の芸術鑑賞を邪魔する奴は……おっ、お前は!」
ヴォルグはゴーグルをずらし、俺の顔を見るとニヤリと笑った。
「ジンじゃねえか! 生きてたのか、あの貧弱軍師! 勇者パーティを追い出されたって聞いた時は、てっきり野垂れ死んだかと祝杯をあげてたんだぞ!」
「祝うな。……仕事の依頼だ。金はある」
俺は革袋を放り投げた。ヴォルグはそれを受け取ると、中身(古竜討伐の報酬の一部)を確認し、目の色を変えた。
「……ほう。腐っても元軍師、金回りはいいみたいだな。で、何を作る? 装備した瞬間に自爆する『特攻鎧』か? それとも敵味方無差別に毒を撒く『皆殺しスプリンクラー』か?」
「ろくなもんがないな。……家事用品だ」
俺はリストを渡した。 『ミスリルのフライパン』 『オリハルコンの洗濯板』 『アダマンタイトの包丁』 『衝撃吸収術式付きのティーカップ』
「……は?」
ヴォルグがリストを見て、間の抜けた声を出した。
「なんだこれ。ふざけてんのか? こんな国宝級の素材で、ママゴト道具を作れだと?」
「本気だ。こいつ……いや、連れの身体能力が高すぎてな。市販品じゃ一瞬でゴミになる」
俺は隣のリリを紹介した。リリはフードを深く被り、ラクを抱いて大人しくしている。
ヴォルグはリリを一瞥し、鼻で笑った。
「はんッ! 女子供の力加減ミスなんぞ知ったことか。俺はなぁ、戦うための『凶器』しか作らねえ主義なんだよ。こんな軟弱な男の、軟弱な注文を受けるほど落ちぶれちゃいねえ!」
ヴォルグがリストを地面に叩きつけ、俺を指差した。
「だいたいなぁ、お前みたいなヒョロガリが軍師だなんて笑わせるぜ。剣も振れねえ、魔法も使えねえ、口先だけの腰抜けがよぉ。どうせその金も、女騙して巻き上げたんだろ? あぁん?」
ヴォルグの悪態は、いつものことだ。職人気質の偏屈親父なりの挨拶みたいなものだ。俺は適当に聞き流そうとした…だが。
ヒュッ。
風が鳴った。次の瞬間、ヴォルグの首筋に、冷たい切っ先が突きつけられていた。
「――訂正してください」
凍てつくような声。いつの間にか、ヴォルグの背後にリリが立っていた。俺の隣にいた残像が消えるよりも早く、彼女は音もなく距離を詰め、その短剣を喉元に当てていたのだ。
「な、ん……ッ!?」
ヴォルグが息を呑む。鍛冶師としての本能が告げているのだろう。この少女が、ただ者ではないと。一ミリでも動けば、頸動脈を切り裂かれると。
「ジン様は、腰抜けではありません。誰よりも賢く、誰よりも強く、私を救ってくださった最高の軍師です」
リリの瞳が、フードの奥で赤く輝く。そこにあるのは、純粋培養された殺意。 今朝の「ポンコツ奥様」の面影など微塵もない。これぞ【AGI:SSS】の暗殺者としての本性だ。
「その汚い言葉を撤回し、謝罪を。……さもなくば、あなたの喉を第二の煙突にして差し上げます」
「ま、待て待て待て!」
ヴォルグが両手を挙げた。冷や汗が滝のように流れている。
「わ、悪かった! 冗談だ! ただの軽口だ!」
「……ジン様?」
リリが俺に判断を仰ぐ視線を向ける。
「そこまでにしてやれ、リリ。職人が死んだら道具が作れない」
「……はい」
俺が命じると、リリは瞬時に短剣を納め、スッと俺の隣に戻ってきた。そして何事もなかったかのように、ラクの頭を撫で始める。
「みゅう(こわかった)」
ラクがブルブル震えながらリリの腕に顔を埋める。
「……化け物かよ」
ヴォルグがへたり込み、首筋をさすった。そこには、皮一枚だけ切れた赤い線が残っていた。警告のための、寸止めの傷だ。
「わかった、わかったよ……。作ればいいんだろ、作れば! その代わり、素材はてめぇ持ちだ! 加工費も高くつくぞ!」
「交渉成立だな。リストの金属よりもっといい素材がここにある」
俺は『亜空間の巾着』から、古竜の鱗と牙を取り出した。それを見たヴォルグの目が、今度こそ飛び出しそうになった。
「こ、これは……『滅びの古竜』の素材!? お前、これをどこで……まさか、さっきの嬢ちゃんが?」
「企業秘密だ。……ミスリルやオリハルコンの代わりだ、これで最強のフライパンを作れ。リリがフルスイングしても歪まないやつをな」
「……ククッ、ハハハハ!」
ヴォルグは突然笑い出した。
「面白ぇ! 古竜素材で調理器具だと!? 最高に狂ってやがる! 気に入った、俺の腕を全部ぶち込んで最高傑作を作ってやるよ!」
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