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第30話:ギルド支部長の嫌がらせ
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数日後。俺たちは古竜の素材の買取残金を受け取るため、冒険者ギルドを訪れていた。巨漢の傭兵グレンも一緒だ。彼は「護衛」という名目でついてきたが、その実は「報酬が入ったら美味い飯を食わせろ」という腹積もりだろう。
「うへへ、今日の晩飯は何だ? 俺は肉なら何キロでもいけるぞ」
「働き次第だ。今のところ、お前は庭で昼寝をしてただけだからな」
軽口を叩きながらカウンターへ向かうと、いつも冷静な受付嬢ミライが、珍しく困り果てた顔で俺たちを迎えた。
「……申し訳ありません、ジン様。報酬のお支払いが、できなくなりました」
「は?」
俺が眉をひそめると、ミライは奥の執務室を視線で示した。
「『上』からの命令です。今回の古竜討伐の成果に疑義がある、として……査定が凍結されました」
「疑義だと? 現物がそこにあるのにか?」
「ええ。言いがかりも甚だしいのですが……」
その時、執務室のドアが開き、恰幅の良い男が現れた。高そうなスーツを着込み、脂ぎった顔に、不自然なほど整った黒髪。そして何より、人を不快にさせる傲慢な目つき。
以前、昇格試験で俺たちに難癖をつけてきた試験官バッカスによく似ている。
「君かね。我がギルドの秩序を乱す新人というのは」
男はハンカチで鼻を押さえながら、汚いものを見るように俺たちを見下ろした。 ミライが小声で「支部長のゴルドアです。バッカス試験官の叔父にあたります」と教えてくれる。
なるほど。血縁か。どうりで腐った臭いが似ているわけだ。
「何の用だ、支部長殿。俺たちは正当な報酬を受け取りに来ただけだが」
「正当? 笑わせるな!」
ゴルドア支部長が大声を上げた。
「Eランク風情が古竜を倒せるわけがない! どうせ死体を見つけて拾ってきたか、誰かから盗んだものだろう! そんな不正者に金を払うわけにはいかん!」
「証拠は?」
「私がそう判断した! それが証拠だ!」
支離滅裂だ。だが、この男にとって理屈はどうでもいいのだろう。目的は、俺たちへの嫌がらせ。そして、可愛い甥っ子(バッカス)に恥をかかせた俺たちを、権力で押し潰すこと。
「さらに、君たちにはギルドへの『虚偽報告』の疑いもある。よって冒険者ライセンスの停止処分も検討中だ。……悔しかったら、身の潔白を証明してみたまえ。ハッハッハ!」
ゴルドアは高笑いした。周囲の冒険者たちが不快そうに顔をしかめるが、支部長という地位の前では誰も口を出せない。
「……ジン様」
隣でリリから殺気が漏れる。彼女の手はすでに短剣の柄にかかっていた。
「あの脂肪の塊、薄切りにしてもよろしいでしょうか?」
「よせ。ここで手を出せば、それこそ相手の思う壺だ」
俺は冷静にリリを制した。怒りはない。あるのは、目の前の障害物をどうやって効率的に排除するかという計算だけだ。
権力を笠に着るタイプは、真正面から殴っても揉み消される。ならば、その土台(権威)ごと崩す必要がある。
「……おい、旦那」
グレンが指をポキポキと鳴らして前に出ようとする。
「俺には難しいことはわからねぇが、こいつをぶん殴れば金が貰えるんだろ?」
「待て脳筋。お前が動くと事後処理で報酬が消える」
俺はグレンも止めた。さて、どう料理してやろうか。俺が思考を巡らせていた、その時だった。
「みゅ~」
リリの足元から、白い毛玉――ラクが転がり出た。ラクはゴルドアの方へコロコロと転がっていく。
「ん? なんだこの汚い毛玉は。シッシッ!」
ゴルドアは足元に来たラクを、革靴で蹴り飛ばそうとした。
瞬間。
ボンッ!!
ラクが、いきなり膨らんだ。ハンドボール大だった体が、一瞬にしてバランスボールほどのサイズに巨大化したのだ。
「ぬぉっ!?」
蹴り足の軌道上に、突然現れた巨大な障害物。ゴルドアの足は、弾力のあるラクのボディにめり込み、そのまま勢いよく弾き返された。
「あ、あべっ……!?」
軸足を失ったゴルドアは、見事なまでに宙を舞った。スローモーションのように体が回転し、背中から床に叩きつけられる。
その衝撃で、彼の頭に乗っていた『不自然な黒髪』が――
ヒュンッ。
物理法則に従い、主人の頭を離れて飛翔した。
ペタン。
それは、数メートル離れた床の上に、哀愁漂う音を立てて着地した。
一瞬の静寂。全員の視線が、ゴルドアの頭頂部に集中する。
そこには、磨き上げられた鏡のような、見事な地肌が輝いていた。
「……あ」
ゴルドアが震える手で頭を押さえる。そして、床に落ちている「自分の分身」を見て、顔を真っ赤に染め上げた。
「き、ききき、貴様らぁぁぁぁッ!!」
ゴルドアは絶叫し、カツラをひったくるように拾うと、執務室へと逃げ帰っていった。
バタンッ!!
扉が閉まる音が、ギルド内に虚しく響く。
「……ぷッ」
誰かが吹き出したのを皮切りに、ギルド中がドッと爆笑に包まれた。
「みゅヘン!」
ラクは元のサイズに戻ると、得意げに俺たちの元へ戻ってきた。偶然を装った、見事な事故(攻撃)。
どうやらこの白い毛玉は、俺が思っていた以上に「わかっている」らしい。
「よくやった、ラク」
俺は屈んでラクの頭を撫でた。物理的な報復は完了した。だが、報酬が凍結された事実は変わらない。
「さて……戦争だな」
俺は冷たい目で、閉ざされた執務室の扉を見据えた。
売られた喧嘩だ。倍額……いや、利子をつけて、徹底的に回収させてもらう。
「うへへ、今日の晩飯は何だ? 俺は肉なら何キロでもいけるぞ」
「働き次第だ。今のところ、お前は庭で昼寝をしてただけだからな」
軽口を叩きながらカウンターへ向かうと、いつも冷静な受付嬢ミライが、珍しく困り果てた顔で俺たちを迎えた。
「……申し訳ありません、ジン様。報酬のお支払いが、できなくなりました」
「は?」
俺が眉をひそめると、ミライは奥の執務室を視線で示した。
「『上』からの命令です。今回の古竜討伐の成果に疑義がある、として……査定が凍結されました」
「疑義だと? 現物がそこにあるのにか?」
「ええ。言いがかりも甚だしいのですが……」
その時、執務室のドアが開き、恰幅の良い男が現れた。高そうなスーツを着込み、脂ぎった顔に、不自然なほど整った黒髪。そして何より、人を不快にさせる傲慢な目つき。
以前、昇格試験で俺たちに難癖をつけてきた試験官バッカスによく似ている。
「君かね。我がギルドの秩序を乱す新人というのは」
男はハンカチで鼻を押さえながら、汚いものを見るように俺たちを見下ろした。 ミライが小声で「支部長のゴルドアです。バッカス試験官の叔父にあたります」と教えてくれる。
なるほど。血縁か。どうりで腐った臭いが似ているわけだ。
「何の用だ、支部長殿。俺たちは正当な報酬を受け取りに来ただけだが」
「正当? 笑わせるな!」
ゴルドア支部長が大声を上げた。
「Eランク風情が古竜を倒せるわけがない! どうせ死体を見つけて拾ってきたか、誰かから盗んだものだろう! そんな不正者に金を払うわけにはいかん!」
「証拠は?」
「私がそう判断した! それが証拠だ!」
支離滅裂だ。だが、この男にとって理屈はどうでもいいのだろう。目的は、俺たちへの嫌がらせ。そして、可愛い甥っ子(バッカス)に恥をかかせた俺たちを、権力で押し潰すこと。
「さらに、君たちにはギルドへの『虚偽報告』の疑いもある。よって冒険者ライセンスの停止処分も検討中だ。……悔しかったら、身の潔白を証明してみたまえ。ハッハッハ!」
ゴルドアは高笑いした。周囲の冒険者たちが不快そうに顔をしかめるが、支部長という地位の前では誰も口を出せない。
「……ジン様」
隣でリリから殺気が漏れる。彼女の手はすでに短剣の柄にかかっていた。
「あの脂肪の塊、薄切りにしてもよろしいでしょうか?」
「よせ。ここで手を出せば、それこそ相手の思う壺だ」
俺は冷静にリリを制した。怒りはない。あるのは、目の前の障害物をどうやって効率的に排除するかという計算だけだ。
権力を笠に着るタイプは、真正面から殴っても揉み消される。ならば、その土台(権威)ごと崩す必要がある。
「……おい、旦那」
グレンが指をポキポキと鳴らして前に出ようとする。
「俺には難しいことはわからねぇが、こいつをぶん殴れば金が貰えるんだろ?」
「待て脳筋。お前が動くと事後処理で報酬が消える」
俺はグレンも止めた。さて、どう料理してやろうか。俺が思考を巡らせていた、その時だった。
「みゅ~」
リリの足元から、白い毛玉――ラクが転がり出た。ラクはゴルドアの方へコロコロと転がっていく。
「ん? なんだこの汚い毛玉は。シッシッ!」
ゴルドアは足元に来たラクを、革靴で蹴り飛ばそうとした。
瞬間。
ボンッ!!
ラクが、いきなり膨らんだ。ハンドボール大だった体が、一瞬にしてバランスボールほどのサイズに巨大化したのだ。
「ぬぉっ!?」
蹴り足の軌道上に、突然現れた巨大な障害物。ゴルドアの足は、弾力のあるラクのボディにめり込み、そのまま勢いよく弾き返された。
「あ、あべっ……!?」
軸足を失ったゴルドアは、見事なまでに宙を舞った。スローモーションのように体が回転し、背中から床に叩きつけられる。
その衝撃で、彼の頭に乗っていた『不自然な黒髪』が――
ヒュンッ。
物理法則に従い、主人の頭を離れて飛翔した。
ペタン。
それは、数メートル離れた床の上に、哀愁漂う音を立てて着地した。
一瞬の静寂。全員の視線が、ゴルドアの頭頂部に集中する。
そこには、磨き上げられた鏡のような、見事な地肌が輝いていた。
「……あ」
ゴルドアが震える手で頭を押さえる。そして、床に落ちている「自分の分身」を見て、顔を真っ赤に染め上げた。
「き、ききき、貴様らぁぁぁぁッ!!」
ゴルドアは絶叫し、カツラをひったくるように拾うと、執務室へと逃げ帰っていった。
バタンッ!!
扉が閉まる音が、ギルド内に虚しく響く。
「……ぷッ」
誰かが吹き出したのを皮切りに、ギルド中がドッと爆笑に包まれた。
「みゅヘン!」
ラクは元のサイズに戻ると、得意げに俺たちの元へ戻ってきた。偶然を装った、見事な事故(攻撃)。
どうやらこの白い毛玉は、俺が思っていた以上に「わかっている」らしい。
「よくやった、ラク」
俺は屈んでラクの頭を撫でた。物理的な報復は完了した。だが、報酬が凍結された事実は変わらない。
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