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第32話:断罪のフィナーレ
冒険者ギルド本部、大会議場。 月に一度の『ギルド総会』には、王都中の冒険者と職員が半ば強制的に集められていた。
本来、自由を愛する荒くれ者たちがこんな堅苦しい行事に素直に参加するわけがない。だが今回は、欠席者に対し「翌月の依頼受注禁止」という理不尽なペナルティを課すと、ゴルドアが強権を発動したのだ。
そのため会場は満員だが、あちこちで不満げな舌打ちや欠伸が漏れ、空気は異様に淀んでいる。 壇上に立つゴルドア支部長が、そんな空気もお構いなしに高らかに演説をぶっていたからだ。
「諸君! 我がギルドの秩序は、卑劣な詐欺師によって脅かされている! だが安心してくれたまえ。正義は我にあり!」
ゴルドアは自信満々に胸を張り、会場の隅にいる俺たちを指差した。 俺とリリ、そしてグレンは、周囲の冒険者たちから白い目で見られながらも、静かにその時を待っていた。
「Eランク冒険者ジン! 貴様らは古竜討伐の成果を捏造したばかりか、私を陥れるための『偽造証拠』まで作成していたな!」
ゴルドアが部下に目配せすると、黒服の男が恭しく一冊の黒い帳簿を持ってきた。 あれこそが、今朝ラクが「うっかり」奴らの前で落としてきた、ヴォルグ製特注の偽帳簿だ。 ゴルドアはそれを高々と掲げた。
「見よ! これが奴らが作った偽の裏帳簿だ! 中にはデタラメな数字と、私への誹謗中傷が書かれている! これこそが、奴らが悪意を持ってギルドを混乱させようとした動かぬ証拠である!」
会場がざわつく。 完璧な演技だ。自分が被害者であり、正義の執行者であると信じ込んでいる顔だ。 俺は小さく息を吐き、指を鳴らす準備をした。
「……リリ、耳を塞いでおけ」
「はい」
ゴルドアが得意げに帳簿を開く。 彼が特定のページ――俺たちが仕掛けを施したページを開いた、その瞬間だった。
奴は事前に中身を確認したはずだ。だが、その時は何も起きなかった。なぜなら、俺が【確率操作】で起爆装置の作動確率を『ゼロ』に抑え込んでおいたからだ。
……そして今、そのロックを解除する
カチッ。
微かな機械音が響いた直後。
ドォォォォォンッ!!!!
帳簿が爆発した。 殺傷能力はない。だが、音と衝撃、そして――
バシュゥゥゥッ!!
内蔵されていた染料袋が破裂し、蛍光ピンクの特殊塗料が噴水のように吹き出した。 至近距離で直撃を受けたゴルドアは、悲鳴を上げる間もなく、頭から爪先までド派手なピンク色に染め上げられた。
「ぶべらっ!?」
爆風でカツラが宙を舞い、ピンク色に染まったハゲ頭が照明を反射して輝く。 会場は静まり返った後、爆笑の渦に包まれた。
「な、な、なんだこれはぁぁぁ!?」
ゴルドアがピンク色の顔で絶叫する。 その隙を見逃すはずがない。
「今です、ミライさん!」
リリの声と共に、舞台袖から凛とした声が響いた。
「そこまでです、ゴルドア支部長!」
現れたのは、大量の書類を抱えたミライだった。 彼女は壇上に上がると、動揺するゴルドアを尻目に、本物の帳簿を掲げた。
「こちらが、支部長室の隠し金庫から発見された『本物の裏帳簿』です! ここには過去5年間にわたる報酬の横領、架空請求、そして闇ギルドとの癒着の記録が全て記されています!」
「なっ……バカな!? 金庫は完璧なはず……!」
ゴルドアがピンク色の目を剥く。 完璧だったさ。お前が「偽物の証拠」に夢中になって、金庫の警備を解除して中身を確認するまではな。 ミライはその一瞬の隙を突き、俺が解析しておいた魔導セキュリティの抜け道を使って中身をすり替えたのだ。
「でっち上げだ! それも偽物だ!」
「いいえ、本物です。ここにはあなたの魔力署名と、王都銀行の隠し口座の番号も記載されています。今すぐ照会すれば明らかになるでしょう」
ミライの毅然とした態度に、会場の空気は一変した。 冒険者たちの視線が、嘲笑から軽蔑、そして怒りへと変わっていく。
「おい……俺たちの報酬、減らされてたのかよ」
「あいつ、中抜きしてやがったのか!」
「ふざけんな! 俺たちが命懸けで稼いだ金を!」
怒号が飛び交う。 追い詰められたゴルドアは、顔を引きつらせて後ずさった。
「おのれ……おのれぇぇぇ! 衛兵! こいつらを捕らえろ! 私は支部長だぞ!」
ゴルドアが叫ぶが、誰も動かない。 業を煮やした彼は、懐から魔導具を取り出そうとした。攻撃魔法が封入されたロッドだ。 実力行使に出るつもりか。
「させるかよッ!」
ドォォォンッ!! ゴルドアの私兵たちが動こうとした瞬間、横から巨大な影が突っ込んだ。 グレンだ。 彼は丸太のような腕を振り回し、武装した衛兵たちをボウリングのピンのように吹き飛ばした。
「へっ、鈍いな! 俺の昼寝を邪魔した罰だ!」
一瞬で護衛を無力化されたゴルドアは、完全に孤立した。 ピンク色の全身を震わせ、彼は出口へと走り出した。
「お、覚えてろ! 私は王都の有力者と繋がりがあるんだ! こんなことで終わってたまるかぁぁ!」
逃走。 だが、その逃走ルート上には、小さな白い影が待ち構えていた。
「みゅッ!」
ラクだ。 ラクはゴルドアの足元へ転がり込むと、絶妙なタイミングで足を引っかけた。
「ぬぉあっ!?」
ゴルドアがつんのめる。 勢い余った体は前方に飛び出し、開いていた扉の枠に顔面から激突した。
ゴィィィンッ!!
鈍い音が響き、ゴルドアは白目を剥いて仰向けに倒れた。 その顔面には、扉の枠の形に赤く(ベースはピンクだが)腫れ上がった跡がついている。
「……自滅ですね」
リリが冷ややかに呟く。
「因果応報だ。自分の蒔いた種(不運)で転んだんだよ」
会場に再び静寂が訪れ、やがて割れんばかりの拍手が巻き起こった。 それは俺たちへというより、腐敗を一掃したミライへの称賛だった。
「ミライさん! あんたが新しい支部長だ!」
「俺たちはあんたを支持するぞ!」
冒険者たちからの熱烈なコールが巻き起こる。 だが、当のミライは困惑顔で手を振っていた。
「い、いえ! お気持ちは嬉しいですが、一介の受付嬢がいきなり支部長なんて、人事規定上ありえませんから!」
まあ、そりゃそうだ。 組織の人事というのは、現場の熱気だけでそう簡単に動くものじゃない。 だが、少なくともゴルドアの失脚は確定した。俺たちの目的は達成されたわけだ。
「終わったな。帰るぞ」
「はい、ジン様」
「飯だ飯! 今日は特大ステーキだろ!?」
俺たちは熱狂する会場を後にし、悠々と帰路についた。
◇
数日後。 凍結されていた報酬が解除されたとの連絡を受け、俺たちは再びギルドを訪れた。
「こちらへどうぞ、ジン様」
案内されたのは、例の支部長室だった。 中の執務机に座っていたのは――ゴルドアではなく、真新しい制服に身を包んだミライだった。
「……おいおい。冗談だろ?」
俺は思わず眉を上げた。 いくらなんでも早すぎる。ヒラの受付嬢が支部長になるなど、人事異動の手続きだけで数ヶ月はかかるのが相場だ。
「私も驚いています。ですが、王都本部が『不祥事の火消し』と『冒険者たちの暴動抑制』のために、特例中の特例として辞令を出したのです」
ミライは苦笑しながら、机の上のプレートを指差した。 そこには『王都支部 支部長代理 ミライ』の文字が輝いていた。
「代理、ですが全権を委任されました。……ジン様、あなたのおかげで、私は憧れていた『理想のギルド』を作れそうです」
彼女は深々と頭を下げた。 まさか本当にトップに据えられるとは。 俺の計算でも、良くて課長クラスへの昇進だと思っていたのだが。民衆(冒険者)の声とスキャンダルの大きさは、時に組織の論理をも超越するらしい。
「フッ、精々頑張るんだな。……ただし、俺たちへの依頼料は勉強してもらうぞ?」
「ふふっ、善処します」
こうして、ギルドに巣食っていた膿は一掃され、俺たちには莫大な報酬と、最強のコネクションが残ったのだった。
本来、自由を愛する荒くれ者たちがこんな堅苦しい行事に素直に参加するわけがない。だが今回は、欠席者に対し「翌月の依頼受注禁止」という理不尽なペナルティを課すと、ゴルドアが強権を発動したのだ。
そのため会場は満員だが、あちこちで不満げな舌打ちや欠伸が漏れ、空気は異様に淀んでいる。 壇上に立つゴルドア支部長が、そんな空気もお構いなしに高らかに演説をぶっていたからだ。
「諸君! 我がギルドの秩序は、卑劣な詐欺師によって脅かされている! だが安心してくれたまえ。正義は我にあり!」
ゴルドアは自信満々に胸を張り、会場の隅にいる俺たちを指差した。 俺とリリ、そしてグレンは、周囲の冒険者たちから白い目で見られながらも、静かにその時を待っていた。
「Eランク冒険者ジン! 貴様らは古竜討伐の成果を捏造したばかりか、私を陥れるための『偽造証拠』まで作成していたな!」
ゴルドアが部下に目配せすると、黒服の男が恭しく一冊の黒い帳簿を持ってきた。 あれこそが、今朝ラクが「うっかり」奴らの前で落としてきた、ヴォルグ製特注の偽帳簿だ。 ゴルドアはそれを高々と掲げた。
「見よ! これが奴らが作った偽の裏帳簿だ! 中にはデタラメな数字と、私への誹謗中傷が書かれている! これこそが、奴らが悪意を持ってギルドを混乱させようとした動かぬ証拠である!」
会場がざわつく。 完璧な演技だ。自分が被害者であり、正義の執行者であると信じ込んでいる顔だ。 俺は小さく息を吐き、指を鳴らす準備をした。
「……リリ、耳を塞いでおけ」
「はい」
ゴルドアが得意げに帳簿を開く。 彼が特定のページ――俺たちが仕掛けを施したページを開いた、その瞬間だった。
奴は事前に中身を確認したはずだ。だが、その時は何も起きなかった。なぜなら、俺が【確率操作】で起爆装置の作動確率を『ゼロ』に抑え込んでおいたからだ。
……そして今、そのロックを解除する
カチッ。
微かな機械音が響いた直後。
ドォォォォォンッ!!!!
帳簿が爆発した。 殺傷能力はない。だが、音と衝撃、そして――
バシュゥゥゥッ!!
内蔵されていた染料袋が破裂し、蛍光ピンクの特殊塗料が噴水のように吹き出した。 至近距離で直撃を受けたゴルドアは、悲鳴を上げる間もなく、頭から爪先までド派手なピンク色に染め上げられた。
「ぶべらっ!?」
爆風でカツラが宙を舞い、ピンク色に染まったハゲ頭が照明を反射して輝く。 会場は静まり返った後、爆笑の渦に包まれた。
「な、な、なんだこれはぁぁぁ!?」
ゴルドアがピンク色の顔で絶叫する。 その隙を見逃すはずがない。
「今です、ミライさん!」
リリの声と共に、舞台袖から凛とした声が響いた。
「そこまでです、ゴルドア支部長!」
現れたのは、大量の書類を抱えたミライだった。 彼女は壇上に上がると、動揺するゴルドアを尻目に、本物の帳簿を掲げた。
「こちらが、支部長室の隠し金庫から発見された『本物の裏帳簿』です! ここには過去5年間にわたる報酬の横領、架空請求、そして闇ギルドとの癒着の記録が全て記されています!」
「なっ……バカな!? 金庫は完璧なはず……!」
ゴルドアがピンク色の目を剥く。 完璧だったさ。お前が「偽物の証拠」に夢中になって、金庫の警備を解除して中身を確認するまではな。 ミライはその一瞬の隙を突き、俺が解析しておいた魔導セキュリティの抜け道を使って中身をすり替えたのだ。
「でっち上げだ! それも偽物だ!」
「いいえ、本物です。ここにはあなたの魔力署名と、王都銀行の隠し口座の番号も記載されています。今すぐ照会すれば明らかになるでしょう」
ミライの毅然とした態度に、会場の空気は一変した。 冒険者たちの視線が、嘲笑から軽蔑、そして怒りへと変わっていく。
「おい……俺たちの報酬、減らされてたのかよ」
「あいつ、中抜きしてやがったのか!」
「ふざけんな! 俺たちが命懸けで稼いだ金を!」
怒号が飛び交う。 追い詰められたゴルドアは、顔を引きつらせて後ずさった。
「おのれ……おのれぇぇぇ! 衛兵! こいつらを捕らえろ! 私は支部長だぞ!」
ゴルドアが叫ぶが、誰も動かない。 業を煮やした彼は、懐から魔導具を取り出そうとした。攻撃魔法が封入されたロッドだ。 実力行使に出るつもりか。
「させるかよッ!」
ドォォォンッ!! ゴルドアの私兵たちが動こうとした瞬間、横から巨大な影が突っ込んだ。 グレンだ。 彼は丸太のような腕を振り回し、武装した衛兵たちをボウリングのピンのように吹き飛ばした。
「へっ、鈍いな! 俺の昼寝を邪魔した罰だ!」
一瞬で護衛を無力化されたゴルドアは、完全に孤立した。 ピンク色の全身を震わせ、彼は出口へと走り出した。
「お、覚えてろ! 私は王都の有力者と繋がりがあるんだ! こんなことで終わってたまるかぁぁ!」
逃走。 だが、その逃走ルート上には、小さな白い影が待ち構えていた。
「みゅッ!」
ラクだ。 ラクはゴルドアの足元へ転がり込むと、絶妙なタイミングで足を引っかけた。
「ぬぉあっ!?」
ゴルドアがつんのめる。 勢い余った体は前方に飛び出し、開いていた扉の枠に顔面から激突した。
ゴィィィンッ!!
鈍い音が響き、ゴルドアは白目を剥いて仰向けに倒れた。 その顔面には、扉の枠の形に赤く(ベースはピンクだが)腫れ上がった跡がついている。
「……自滅ですね」
リリが冷ややかに呟く。
「因果応報だ。自分の蒔いた種(不運)で転んだんだよ」
会場に再び静寂が訪れ、やがて割れんばかりの拍手が巻き起こった。 それは俺たちへというより、腐敗を一掃したミライへの称賛だった。
「ミライさん! あんたが新しい支部長だ!」
「俺たちはあんたを支持するぞ!」
冒険者たちからの熱烈なコールが巻き起こる。 だが、当のミライは困惑顔で手を振っていた。
「い、いえ! お気持ちは嬉しいですが、一介の受付嬢がいきなり支部長なんて、人事規定上ありえませんから!」
まあ、そりゃそうだ。 組織の人事というのは、現場の熱気だけでそう簡単に動くものじゃない。 だが、少なくともゴルドアの失脚は確定した。俺たちの目的は達成されたわけだ。
「終わったな。帰るぞ」
「はい、ジン様」
「飯だ飯! 今日は特大ステーキだろ!?」
俺たちは熱狂する会場を後にし、悠々と帰路についた。
◇
数日後。 凍結されていた報酬が解除されたとの連絡を受け、俺たちは再びギルドを訪れた。
「こちらへどうぞ、ジン様」
案内されたのは、例の支部長室だった。 中の執務机に座っていたのは――ゴルドアではなく、真新しい制服に身を包んだミライだった。
「……おいおい。冗談だろ?」
俺は思わず眉を上げた。 いくらなんでも早すぎる。ヒラの受付嬢が支部長になるなど、人事異動の手続きだけで数ヶ月はかかるのが相場だ。
「私も驚いています。ですが、王都本部が『不祥事の火消し』と『冒険者たちの暴動抑制』のために、特例中の特例として辞令を出したのです」
ミライは苦笑しながら、机の上のプレートを指差した。 そこには『王都支部 支部長代理 ミライ』の文字が輝いていた。
「代理、ですが全権を委任されました。……ジン様、あなたのおかげで、私は憧れていた『理想のギルド』を作れそうです」
彼女は深々と頭を下げた。 まさか本当にトップに据えられるとは。 俺の計算でも、良くて課長クラスへの昇進だと思っていたのだが。民衆(冒険者)の声とスキャンダルの大きさは、時に組織の論理をも超越するらしい。
「フッ、精々頑張るんだな。……ただし、俺たちへの依頼料は勉強してもらうぞ?」
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