歩く災害と呼ばれた【薄幸の美少女】を救ったら、俺にしか懐かない最強の守護者になった件。~運を下げるスキルで追放されたけど、彼女と一緒なら無敵

ジョウジ

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第34話:幸運教の罠

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 ヴォルグ製の特注家事道具も揃い、屋敷での生活が軌道に乗り始めた頃。 俺たちは久々に王都のメインストリートを歩いていた。

 目的は買い出しだ。リリが

「ジン様に最高の夕食を作るには、最高の食材を目利きしなければなりません!」

と意気込んでいたため、荷物持ちとして付き合っている。 平和な午後。だが、俺は街の空気に微かな違和感を抱いていた。

「……なぁ、リリ」 

「はい、何でしょう?」

 「最近、妙なペンダントを下げている奴が多くないか?」

 俺が視線で示す先。 道行く人々――特に、生活に疲れていそうな庶民や、装備の貧弱な冒険者の首元に、奇妙な『黄金のコイン』がぶら下がっていた。 意匠は「笑顔の女神」。だが、その笑顔はどこか歪んでいて、見ていると不安になるデザインだ。

「ああ、あれですか。最近流行っているそうですよ。『幸運教』という新興宗教の魔除けだとか」 

「幸運教?」

 胡散臭い名前だ。 俺が眉をひそめていると、広場の方から熱狂的な歓声が聞こえてきた。

「おお! 聖女様だ!」 

「聖女様が奇跡を見せてくださるぞ!」

 広場には簡易的なステージが組まれ、黒山の人だかりができていた。 ステージの中央には、巨大な女神像。そしてその前に、豪奢な――しかしどこか安っぽい装飾過多な法衣を纏った女性が立っていた。

「迷える子羊たちよ! あなた方の不幸は、信心が足りないからではありません。世界に蔓延る『悪しき運気』のせいなのです!」

 良く通る、鈴を転がすような声。 俺はその声に聞き覚えがあった。 かつて勇者パーティで、俺のことを蔑んだ目で見下ろしていた女の声だ。

「……マリアか」

 そこにいたのは、元『光の勇者パーティ』の聖女、マリアだった。 だが、その姿は以前とは似ても似つかない。 頬はこけ、目の下には厚化粧でも隠しきれない隈がある。かつての清廉な美しさは消え失せ、代わりにギラギラとした欲望と、焦燥感が滲み出ていた。

「この『幸運のコイン』を身につければ、貴方達の運命は好転します! さあ、祈りなさい! そして捧げなさい! 今日の寄付額が、明日の幸福の量となるのです!」

「買います! 買わせてください!」 

「俺もだ! 借金を返したいんだ!」

 人々が我先にと銀貨を差し出し、コインを受け取っていく。 マリアはそれを満足げに見下ろし、引きつった笑顔で手を振っていた。

「……落ちぶれましたね」

 リリが冷ややかに言い捨てる。 彼女の目には、マリアなど路傍の石ころ以下の価値しか映っていないようだ。

「全くだ。だが……ただの詐欺じゃなさそうだぞ」

 俺は懐から『解析のモノクル』を取り出し、あの『黄金のコイン』と女神像を視た。 視界に浮かび上がる情報に、俺は目を細める。

【名称】吸運のコイン(レプリカ) 【効果】装着者のLUK(幸運)およびVIT(生命力)を微量ずつ吸収し、本体へ転送する。 【備考】長時間着用すると、倦怠感、不眠、不慮の事故率上昇を引き起こす。

「なるほどな。幸福を与えるどころか、信者から運と寿命を吸い上げるシステムか」

 ネズミ講どころの騒ぎじゃない。 吸い上げられた運気は、ステージ上の女神像――集積の器(タンク)へと送られている。 あの像の裏には、この教団を運営している黒幕がいるはずだ。マリアはその広告塔として利用されているに過ぎない。

「行くぞ、リリ」 

「止めるのですか?」 

「いや、関わり合いになりたくない。見て見ぬふりが一番だ」

 そう言って踵を返そうとした、その時だった。

「――あら? そこにいるのは、ジンさんではありませんか?」

 マリアが、目ざとく俺を見つけた。 ステージの上から、彼女が大袈裟な声で呼びかけてくる。

「皆様、見てください! かつて私達のパーティを追放された、不運な男ですわ!」

 群衆の視線が一斉に俺たちに突き刺さる。 マリアは勝ち誇ったような顔で、ステージを降りて近づいてきた。

「お久しぶりですね、ジンさん。……あら、随分と良い身なりをしているじゃありませんか」

 マリアの視線が、俺の上質な服と、隣にいるリリの美貌、そしてリリの胸元で昼寝をしているラクに向けられる。 一瞬、彼女の顔が嫉妬で歪んだが、すぐに聖女の仮面を被り直した。

「噂は聞いていますわよ。ギルドを脅して支部長を追い出し、古竜討伐の手柄を捏造したとか。『深淵の軍師』? ふふっ、詐欺師の間違いではありませんこと?」

 彼女の中では、俺の成功はすべて「悪事によるもの」として処理されているらしい。 そう思い込まなければ、自分を保てないのだろう。

「でも、騙されませんよ。その服も、横の奴隷も、どうせ汚い金で見栄を張っているのでしょう? かわいそうに……貴方にはこの『幸運のコイン』が必要ですわ。特別に、金貨10枚で譲ってあげましょう」

 相変わらずだ。 自分が一番上にいないと気が済まないプライドの塊。 俺はため息をつき、冷めた目で彼女を見返した。

「いらないよ、そんなガラクタ。……それよりマリア、お前こそ鏡を見た方がいいぞ」 

「え?」 

「顔色が悪い。それに、背後の女神像から伸びている『パイプ』が見えてないのか?」

 俺には見えていた。 女神像から伸びた魔力のチューブが、マリアの背中に突き刺さり、彼女自身の「聖女としての運気」までも吸い尽くそうとしているのが。 彼女は利用する側だと思っているようだが、実際は彼女自身も搾取される側なのだ。

「な、何を訳のわからないことを……! 私は聖女よ! 選ばれた存在なのよ!」

 マリアがヒステリックに叫ぶ。

「みぎゃッ!」

 その声に驚いたのか、リリの胸元からラクが飛び出し、マリアに向かって威嚇した。

「ひっ! な、何よこの汚い毛玉!」

 マリアが後ずさる。 その拍子に、彼女が首から下げていた『特大の幸運コイン』の紐が切れ、石畳に落ちて砕けた。

 中から、ドス黒いヘドロのような液体が染み出す。 それは、集められた他人の不幸と欲望の凝縮体だった。

「きゃあああっ!? な、何これ、臭い! 私のドレスが!」

 マリアが悲鳴を上げてパニックになる。 信者たちがざわつき始める。

「おい、なんか変だぞ」

「あの黒いのはなんだ?」

「……忠告はしたぞ」

 俺は冷ややかに言い捨て、その場を離れた。 だが、俺の背中に突き刺さる視線は消えない。 マリアの瞳に宿っていたのは、かつての侮蔑ではない。明確な「逆恨み」と、そして何かにすがりつきたいという「渇望」だった。

「ジン様。……あの女、まだ何かしてきますよ」

 リリが警戒心露わに囁く。

「ああ。放っておけば自滅するだろうが……実害が出る前に潰すか」

 俺たちの平穏な生活を脅かす害虫は、早めに駆除するに限る。 俺は【確率操作】の準備をしながら、不穏な空気が漂う広場を後にした。
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